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AI時代の上司の役割

AI時代の上司の役割
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最近、部下とこんなやりとりがありました。

私 「今朝のプレゼンテーション、上手だったね。誰に相談したの?」
部下「はい。ChatGPTに聞きました」
私 「そうなんだ...」

私 「作ってくれた記事の中見出し、センスいいね!」
部下「はい。ChatGPTに聞きました」
私 「そうなんだ...」

そこで、私もChatGPTを使ってみました。依頼を受けた講演があり、魅力的なタイトルをChatGPTに相談したところ、非常に的を射たタイトルが出てきました。もう一捻りほしいと思い「もっと心に響くタイトルにしたい」とお願いすると、さらに魅力的な代替案をすぐ出してくれました。通常なら30分、1時間かかる仕事が、10分で終わりました。

テレビや雑誌で「AIが浸透することで、経験値による指導やアドバイスをする役割はいらなくなる」といったコメントをよく見聞きするようになりましたが、これまではあまり現実味を感じていませんでした。それが突然、その言葉が現実となって眼前に迫ってきた、そんな衝撃がありました。

過去の上司は私に何を教えてくれたのか

私は、2000年に社会に出ました。Microsoft Windows 98が世界を席巻していた時代です。当時の新卒は学生時代からワードやエクセルを学んでいますが、多くの職場には、まだアナログな仕事の進め方が色濃く残っていました。

当時、私を指導してくれた係長の仕事の進め方も、私にとってはとてもアナログに感じられました。係長のアナログなやり方を押しつけられるのが嫌で「Windowsを使えば、こうやって効率的に作業ができる」と改善案を出し、日々反発していました。しかし、いま振り返ると、係長は仕事の進め方だけではなく、相手の目線に立って丁寧に仕事をすることの意味や、会社の一員としてその場に貢献するという「あり方」も教えてくれていたのだと思います。

20年以上前の上司との関わりを思い出しながら、「生身の人間の上司と情報処理が得意なAIがどのようにコラボレーションできると、部下や組織の成長やパフォーマンスの最大化を図ることができるのだろうか?」という問いが頭を回ります。

そんな中、冒頭の部下と別のやり取りをしたときのことを思い出しました。

部下と私の関係が変わったコミュニケーション

冒頭の部下は、新卒で入社して以来、私の担当チームとは業務内容の違う別のチームに所属していました。そこで成果を上げていたこともあって、異動してきた当初は過去のやり方を手放すことができず、成果を出せない日々が続きました。自信ももてず、「以前のチームに戻りたい」と涙を流すこともありました。

あるとき、そんな彼女との面談で次のように伝えたことがあります。

「私はいまのチームの担当領域を一つの事業として成功させたい。だから、この事業の立ち上げメンバーとしてあなたと一緒にやりたい。このチャレンジを経験することが、あなたのこれからの長いキャリアで活きてくると思う。でも、ここに残ることも、前のチームに戻ることも、消極的に選ぶのではなく、自分が本当にやりたいことは何かを考えて、自分で選んで欲しい。その選択は100%尊重します」

その一週間後、彼女からこんな返事が返ってきました。

「『チームにいてほしい』と言われたことが嬉しかった。このチームに残り、新しい成長をしたい」

その後の彼女は、新しい能力を身につけることに果敢にチャレンジし続けています。成長も目覚ましく、現在は、チームの中核メンバーとして活躍してくれています。

あのとき、彼女と私の間で起こったことは何だったのか。もしかしたら、ここに上司の役割のヒントがあるのではないか。そんな気がしました。

人間の上司だからできること

人が人と一緒にいる意味、組織に属する意味は、一人では到達できない、より大きな、より難易度が高い目的・目標を達成するためです。そう考えながら自分の学習ノートを振り返ると、いくつかの言葉に目が留まります。

一つ目は、社会構成主義の第一人者、ケネス・ガーゲン博士の勉強会に出たときのメモです。

「課題に焦点を当てると課題が大きくなる。問題を変える。物語を変える。もっと大上段の共通の目的・パーパス、どこに向かっているのか、どのように向かいたいのか。組織のリーダーは物語を語れる」

もう一つは、私の尊敬するコーチであるメリル・モリッツ氏の言葉です。

「マスターコーチになるというのは、コーチングスキルを完璧にすることではなく、コーチとしてのプレゼンスを高めることです。それは、クライアントを信じて、100%クライアントのためにそこに存在すること。クライアントは、あなたが自分を信じていることがわかると、意識が高まり、外から自分を観察することができるようになります」

さらに、これらの言葉を裏付けてくれるようなコーチ・エィのコーチング研究所による次の2つのデータも目に留まりました。

■ 組織のパーパスと変化を推し進めるリーダーの下で働く部下の状態の比較

■ 部下育成につながるリーダーの行動

これらの材料を自分なりに整理すると、以下のことが見えてきます。

  • 人は、相手が言葉にしている以上のメッセージを受け取ったり反応する(話題に上げる)ことができる
  • 人は、ビジョンを持ち、語り合い、一人で考える以上のビジョンを構築し合える
  • 人は、相手が自分で創り上げた枠を超えるために、成長の機会をリアルに用意することができる
  • 人は、相手が求める以上に能動的に関わり続けることができる

最後のポイントこそ、人間だからできることかもしれない、そんな風に思いました。

100%相手を信じる

人は、自ら能動的に相手に関わり、相手に対して前進する勇気やエネルギーを与えることができます。そんな関わりの鍵となるのが、先に紹介したメリル・モリッツ氏の言葉にある「相手を100%信じる」ことなのかもしれません。メリルの言葉はコーチについてですが、上司についても同じことが言えるでしょう。

しかし、「100%相手を信じる」ことは、口で言うほど簡単なことではありません。相手を100%信じるには、エネルギーも勇気も必要です。しんどいこともあるかもしれません。それでも「100%相手を信じて関わり続け」なければ、人と人が何かを共にする意味の多くは失われてしまうかもしれません。生身の人間だからこそ果たせる役割は、そこにあるのではないでしょうか。

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