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あなたが無意識に持っている前提は何ですか?

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「自分の前提に気づかない限り、自分を変えるのは難しいという実感がありました」

クライアントのAさんが、私とのセッションで呟いた一言です。

その問題は、誰の問題なのか?

Aさんは現在、東南アジア某国の大規模拠点で多国籍のメンバーを束ねるトップとして活躍されています。この拠点の業績は極めて順調で、社員の実務能力も高く、本社から高い評価を受けてきました。しかし、これまでの成功パターンが今後も通用するとは限りません。そこでAさんは、見通しの立てにくい経営環境の中で、常に変わり続けることのできる組織にしようと変革に着手しました。

この変革プロジェクトでは、主要メンバー全員に一人ひとりコーチがつきます。スタートして3ヶ月が過ぎた頃、共にプロジェクトをリードしている部下のBさんからAさんに相談がありました。

「コーチとの関係に問題があるわけではないのですが、自分は学ぶべきことを学べているのか、自分は早いスピードで変われるのか、時折不安に思うことがあるんです。私よりもビジネス経験が豊富なコーチについてもらえば確実に変化を実感できる気がしているのですが、どう思いますか?」

AさんはBさんの相談を受けて、担当コーチの交代について私に連絡をくれました。私はこの話を聞いて、Aさんに尋ねました。

「Bさんが問題と考えていることを、なぜAさんも問題だと考えたのですか? Aさんが解決しなければならないと思ったのはなぜでしょうか?」

というのも、他のメンバーは、ひと周り以上の年齢差のある若いコーチとともに変革に取り組んでいたからです。

自分の存在が周囲に与える影響

Aさんは、改めてBさんと話す機会をもちました。

「なぜBさんは年齢の離れたコーチからは学びが少ないと思っているのだろう? Bさんはどんな前提を持って私に話してくれたのだろう?」

というAさんの問いからスタートしたその場は、Bさんにとって自分の前提について立ち止まって考える機会になったようです。Bさんは言いました。

「私は、コーチにアドバイスを求めていたのかもしれません。役職が上の人、自分より経験の豊かな人のほうが、自分より優れた考えを持っていると信じていたので、年下のコーチからは学ぶものがないと思い込んでいました」

Bさんは続けます。

「これまで自分が学んだことを、よかれと思って部下にシェアしてきたつもりですが、実は部下に仕事を任せることへの不安を解消するために、無意識にアドバイスしようとしていたのではないかという気がしてきました」

Aさんは今回のやりとりがBさん自身の変化のきっかけになったことに喜びを感じつつも、同時に「もしかしたらAさん自身の関わりがBさんに影響しているのではないか」と若干の不安を感じました。相談を受け、なんの疑問も持たずに「コーチを交代するのがよい」と考えた自分も、実はBさんと同じ前提を持っているのではないか、Bさんの状況は、まさに自分の関わりの反映ではないかと思ったのです。

成長とは、認知していない部分を知るということ

Aさんは私に話してくれました。

「このプロジェクトで実現したいことの一つは、問題解決の関係ではなく、互いに変容をもたらす人間関係を結んでいけるようになることです。

でも、そんな目標を掲げておきながら、私自身も無意識のうちに問題解決の関係を続けていたのかもしれません。部下の抱える問題を解決することが、部下の信頼を得るために必要だという固定概念に縛られていたような気がします」

成人学習の研究者であるハーバード大学教育学大学院教授ロバート・キーガン博士は自著(※)の中で以下のように述べています。

「人は無意識に変化を恐れ、避けようとするものです。(中略)成長というのは一歩引いて、自分自身をより大きな視点から見つめ直すことで起こるものなのです。日頃私たちは『自分はこう考える』『私はこうしたい』ということを言ったり感じたりしています。これは自分が意識していることだと考えられます。しかし、実際には自分自身が感じていない、認知できない思考や感覚というものが隠されています。そして私たちの行動の一部には、こうした認知できない思考や感覚に支配されている面があるのです。それだけでなく、自分自身が意識して取っている行動の裏にも、無意識の思考や感覚が隠されていることも往々にしてあります。この認知していない部分を知ることこそが、人間の成長なのです。

(中略)

但し、誤った固定観念に縛られたままでは成長はできません。そこから一歩外に踏み出し、その固定観念を覆すことで人は成長するのだと思います。」

Aさんの話は、実はコーチである私自身を振り返る機会にもなりました。私の関わり方がAさんに影響したのではないだろうか、あるいは、私も社内でAさんと同じような罠にはまることがないだろうか、そんなことを考えさせられました。

Bさんの悩みは、Bさん自身だけでなく、Aさんと私にも、自らを立ち止まって考える機会を与えてくれました。

コンフォートゾーンから抜け出す方法を持っているか

人は、「やってみよう」という強い動機や意思があっても、慣れ親しんだ考え方から離れることができず、無意識のうちに過去の考え方を持ち込んでしまう生き物なのかもしれません。無意識のうちに変化を拒み、自分が違和感なく過ごせる領域(コンフォートゾーン)に留まろうとしてしまうのでしょう。

大きな変化であれ、小さな変化であれ、何か変化を起こそうと思うのであれば、常にそのことに留意しておく必要がありそうです。変化を阻む種は、他者の中ではなく、自分自身の中にあるかもしれません。

Bさんの相談から始まった今回の件は、Bさんだけでなく、Aさんにとっても自らの無意識下の前提に気づく機会になりました。しかし、同じ前提を共有している人とだけ話していると、自らの前提に気付く機会を失っていること自体に気がつけなくなります。だからこそ、違う視点を持つ他者と自ら積極的に関わっていく必要があるのだと思います。

あなたが無意識に続けていることには、どんなことがあるでしょうか?
あなたは、それを知る術を持っていますか?

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【参考資料】
※『人は変革を望みながら、無意識に変革を拒んでいる』、Harvard Business Review、 2014年6月4日
 ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー(著)、池村 千秋 (訳)『なぜ人と組織は変われないのか』英治出版、2013年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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