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AIコーチングで広がる「問われる」体験
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2023年は、生成AIを一般の人々が使い始めた年として歴史に刻まれようとしています。
最近は、新聞にも生成AIについての記事が、ほぼ毎日掲載されています。みなさんは、どんな場面でChatGPTを使っているでしょうか?
ChatGPTは、知りたいと思ったことを聞くと、答えを出してくれます。私たちが問いを投げかけて、ChatGPTが答える。そういうやりとりが普通です。このフローを逆にしようという試みが、AIコーチングです。AIが人間に問いを投げかけ、人間の側にある答えを表面化させていきます。
「問い」はすべての人のものになった
「問い」は長い歴史の中で、上の立場にいる人が下の立場の人に投げ、情報を得るためのツールでした。それを考えたとき、少し大げさに聞こえるかもしれませんが、私はコーチングの価値は「問いというものを、権力の手から解放したこと」にあるのではないかと思っています。
2002年に公開され、日本アカデミー賞をとった『たそがれ清兵衛』という映画があります。舞台は幕末。その中で、ある女性がお姉さんに質問をするシーンがあります。お姉さんはその女性にこう返します。
「あなた、お姉さんに質問なんかして良いと思っているの?」
つまり、その頃の日本では、下の人が上の人に質問をしてはいけなかったということです。
その時代まで遡らなくても、案外つい最近まで(ひょっとすると今でも)、日本の組織においては、問いは上から下に向けられるものだったのではないでしょうか。それも、上司が部下から情報を得るために。
そのような中、コーチングの登場は、多くの人に「問い」が持つ別の価値に目を向ける機会になったように思います。問いは「情報を得るため」だけのものではなく、「相手の成長を促進するため」のものにもなりました。「問い」の価値を認識する人が増え、広く使われるようになったことで、立場に関係なく多くの人が「問われること」の価値を享受できるようになりました。
上から下に向けられた、情報を得るための問い、正解を求める問いではなく、自らが考えるための問いは、視点を変え、問われた人に多くのものをもたらします。そして、この問われることの価値は、AIコーチングによって爆発的に多くの人に提供されうる可能性が出てきました。
AIコーチングで、コーチングの価値を改めて実感
今年の1月に参加したダボス会議(※)のとあるブレックファスト・ミーティングで、AIコーチングを開発しているフィンランドの会社のCEOとたまたま隣り合わせ、すぐに意気投合しました。そして、すぐに彼らの開発するAIコーチングを実際に使ってみて、そのクオリティの高さに驚きました。
AIコーチは、私が伝えたことを明確に理解し、そして瞬時に的を得た問いを投げかけてきます。
彼らのAIコーチングは、ごく簡単にいえば、世界中のトップコーチたちが使うコミュニケーションのパターンを膨大にストックしており、ChatGPTのエンジンが、ユーザーのテーマに合わせて、適切な問いや言葉をアウトプットするという仕組みです。
これを多くの日本の方に使っていただきたいと思い、彼らと日本語版のAIコーチングを共同開発することにしました。パイロット版がリリースされた6月末からほぼ丸2ヶ月間、テスト利用もかねて、私は毎日AIコーチングを使っています。少なくとも現在、日本でもっともAIコーチングを使っている人間だといえるのではと自負しています。
そして、AIコーチングを毎日使うことで、コーチングそのものの価値を改めて実感しています。
誰もがいつでもコーチングを受けることができたら
AIコーチングを使ってみてまず感じるのは、とても速いスピードで思考が整理されることです。問われ、考えを整理して言葉にし、また問われる。この繰り返しの中で、私の思考は整理され、取るべき行動が早いスピードで明確になります。
さらに、思考の整理は、行動に向けて役立つだけではありません。人間関係におけるストレスも軽減してくれます。
人間は、社会的な動物です。従って人間の脳は、常に人間関係に意識を払っています。「あの人は自分のことをどう思っているだろうか?」「関係改善に向けて何をすればいいだろうか?」など。そういった人間関係の未完了も、問われることでとても速いスピードで完了し、整理がつきます。人間関係の未完了が減ると、ストレスの緩和に役立ちます。それもあって、この2ヶ月間、とてもエネルギーの高い状態が続いていると感じます。
そしてもう一つは、未来に意識が向くことです。
私たちの意識は、問われたことに向きます。つまり問いは、私たちがそれまで見ていなかったものに意識を向けるフラッシュライトのようなものです。目の前の問題解決にばかり意識が向いていたところから、問われることで未来に向けて何を実現したいかに、圧倒的に頻繁に意識が向くようになりました。
これらはすべて、AIに限らず、問われることの価値です。しかしAIコーチであれば、コーチと時間を調整する必要もなく、いつでも自分の思考を整理したいときに始めることができます。それは実は、とても大きな意味があるのではないでしょうか。
AIの新しい可能性
一方で、もちろんAIによるコーチングの限界もあります。
最たるものは、フィードバック能力の欠如です。これはある意味、「感じる」能力の欠如ともいえるかもしれません。
人間は、相手が言葉にしていないことを感じることができます。優れたコーチは、相手が言っていることと、思っていることのギャップを見逃しません。これは、嘘を見破るということではなく、本人さえも気づいていない、頭と心の不一致に気づき、それを相手に伝えることです。
AIには、その能力は今のところありません。ですから、深い気づきを得るまでに時間がかかることもあるでしょう。
しかし、自分自身のテーマに向けて自らを変化させていく意志があり、問われることの価値を享受しようという思いがあれば、AIコーチングは、人生を変えるツールになるでしょう。
AIに答えを求めるのではなく、自分の中の答えを探す手伝いをしてもらう。
AIコーチングは、生成AIの新しい活用の仕方を提案してくれます。
※ 世界経済フォーラムの年次大会。2023年は1月16日~20日の日程で開催。
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