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自己認識を高める脳の作戦会議
コピーしました コピーに失敗しました「あなたは右脳派? それとも左脳派?」と問われたら、どう答えますか?
先週の Coach's VIEW で、内村が脳科学者のジル・ボルト・テイラー博士の『WHOLE BRAIN 心が軽くなる「脳」の動かし方』を紹介しました。この本の中でテイラー博士は、脳の構造は右脳と左脳の2つではなく、左右それぞれに考える部分と感じる部分があり、全部で4つの細胞群から成り立っていると書いています。テイラー博士がこの4つの細胞群を「4つのキャラ」と呼んでいるのは、前回のコラムで内村が書いた通りですが、以下に改めてその特徴を記します。
考える左脳(キャラ1):「私」を重視、分析的、時間厳守、細部をみる、言語で考える
感じる左脳(キャラ2):過去未来、不安・恐怖、批判的、利己的、正しい/間違っている
感じる右脳(キャラ3):いまここ、好奇心・遊び心、創造的、感謝、分かち合う
考える右脳(キャラ4):「私たち」を重視、柔軟、思いやり、大局をみる、絵で考える
脳の構造は生物学的なものですから、誰もが自分の脳にこの「4つのキャラ」を持っています。テイラー博士曰く、この4つのキャラ全部(WHOLE BRAIN)を活用することが自分自身を成功に導くと訴えます。
しかし、実際には、4つのキャラをバランスよく使うのは難しいようです。
たとえば、過去の嫌な思い出を思い起こしたり、将来についてネガティブな不安をかきたてたりするのは「感じる左脳」のキャラ2の仕業です。自己を周囲から切り離して、あの手この手で必死に自分の正当性の証明をしようと企てるのは「考える左脳」のキャラ1です。
こうして、特定のキャラが暴走し、他のキャラを抑えこんでしまうと、その人自身だけでなく、周囲との関係性にも影響が出ることは想像に難くありません。特に、特定のキャラだけがいつも優位に反応する脳の伝達回路が発達してしまうと、どんな状況にあってもワンパターンの考え方や感じ方に偏ってしまうといいます。
テイラー博士は、脳全体を使うために、特定のキャラが暴走しそうになった時は、全部のキャラを呼び出して、全体で話し合うのがよいといいます。テイラー博士はこれを「脳の作戦会議」と呼びます。
右脳が活性化する体験
私は、自分でもこの「脳の作戦会議」の実践を試みることにしました。
最初に取り組んだのは、右脳の活性化です。普段の私は明らかにキャラ1とキャラ2の左脳が圧倒的優位に活動していて、右脳が活性化しているイメージが頭に浮かびません。それでも振り返ってみると、週末にランニングをしているときの脳のモードは、たしかに仕事のときとは違っていることに気づきます。
最近、週末に家の近くの多摩川沿いを10キロほど走るのですが、ちょうど折り返しの地点に広い芝生のエリアがあり、毎回そこで休憩をします。芝生に仰向けに寝転び、全身で太陽の光を浴びながら、風の涼しさを味わいます。全身に血が巡るのを感じながら見上げれば、頭上には青い空が広がり、耳をすませば鳥の鳴き声が聞こえます。目を閉じれば、まるで南国のビーチにいるような気分です。
自分にとってランニングは、身体を鍛えるとともに、右脳を活性化する習慣になっているようです。
自分の感情から脳の状態を知る
右脳が活性化しているイメージができたところで、次にキャラ1やキャラ2が暴走しそうになったとき、いかにそれに気づくことができるかを考えました。着目したのは自分の感情です。
弊社では、AIコーチングのサービス展開に向けて、社内でパイロット運用を実施しているのですが、AIコーチは毎朝私に問いかけてきます。
「今どんなことを感じていますか?」
平日の朝に自分の感情に目を向けると、漠然とした不安を抱えていたり、どこか憂鬱さや不満を感じていたりすることが多いことに気づきます。そのことを伝えると、AIコーチはさらに問いかけてきます。
「その感情をもつことによる、メリットとデメリットは何でしょうか?」
不安や不満にメリットなんてあるだろうか?と思いながら、その問いについて考えていると、そうした感情が起こっている時は、キャラ1やキャラ2が活発になっている時ではないかと思い当たりました。
意図的に右脳に話しかける
こうして、自分の感情から、脳がキャラ1やキャラ2に支配されていることに気づいたら、意図的に右脳に問いかけます。
「キャラ3は、いま何を感じている? どんな楽しいことがあるかな?」
「キャラ4はどう思う? 周りや全体に目を向けるとどうなのかな?」
こうすると自然と、ポジティブな気持ちになったり、周囲にも目がいったりする感覚が生まれます。無理にポジティブに切り替えようとするわけではなく、頭の中のキャラたちに問いかけることで、自然と違うことに意識が向く感覚です。
4つのキャラをバランスよく活用するために、自分なりに試したことをまとめると、次の通りです。
- 右脳が活性化する習慣をつくる
- 感情に着目することで、キャラ1、キャラ2(左脳)の暴走に気がつくことができる
- 意図的にキャラ3、キャラ4(右脳)に問いかけることで視点が広がる
右脳とコーチングの関連性
「どうしたら自分をもっと客観的に見ることができるでしょうか?」
あるクライアントから、コーチングセッションの中で問いかけられました。
自己認識を高めることはコーチングにおいて、重要なテーマです。なぜなら、自分が今何をしているかがわからなければ、何かを変えることも、新しく始めることもできないからです。
「脳の作戦会議」の概念は、自己認識を深めるためのヒントになるのではないでしょうか。なぜなら、脳の作戦会議を意識すると、いったん立ち止まり、自分の中で起こっていることを確認する機会になるからです。
さらに、「今ここをあつかう」「全体の一部として捉える」など、コーチングで大事にしていることは、右脳の機能との関連性があるのだと思います。
日本の学校教育、そして企業においても、まだまだ左脳偏重の傾向が強くあります。そんな中、コーチングは私たちが脳全体を活用することを促し、さまざまな可能性を開いてくれるのではないでしょうか。
あなたの頭の中を支配していることが多いのはどのキャラですか?
どのキャラをもっと活躍させたいでしょうか?
そして、あなたの中の4つのキャラはお互いにいい関係を築けていますか?
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【参考資料】
ジル・ボルト・テイラー(著)竹内 薫(訳)『WHOLE BRAIN(ホール・ブレイン)心が軽くなる「脳」の動かし方』、NHK出版、2022年
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