Coach's VIEW

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大人の成長痛を先取りする

大人の成長痛を先取りする
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私は、年明けから新しい役割を担う予定があります。そのことが決まって以来、「これまでの延長線」上では、新しい役割をうまく乗り切れないのではないかという、そこはかとない不安や焦りを感じています。どうすればその責任を果たせる自分になれるのか、そのためにはどんな成長や準備が必要なのかと、もやもや考え続ける日々です。

私だけではなく、もしかしたら多くの「大人」は、同じような感覚を覚えているかもしれない。今日は「大人の成長」をテーマに探求したいと思います。

たった一人で成長するわけではない

エグゼクティブ・コーチングのご紹介で、ある流通大手企業の新社長であるAさんを訪ねたときのことです。最初のご挨拶のあと、Aさんは小さなため息をついて、こんなことを話してくださいました。

「3ヶ月前に社長に就任しましたが、社長になったからといって『社長』になれたわけではありません。私は1年前も『A』で、いまも『A』です。私が社長になるということは、いったいどんな『A』になることなのか、正直、わからないでいます」

目の前のAさんの正直な気持ちをお聞きしながら、私は、昔聞いた母の言葉を思い出していました。

「子どもを産んだからといって親になれるわけではない。子どもたちや周りからいろんなことを教わって、だんだん親になってきたようなもの」

私自身「コーチ」という仕事を選んで15年以上が経ちますが、名刺に「コーチ」というタイトルがついた瞬間に「コーチ」になったわけではありません。たくさんのクライアントさんや先輩たちの関わりによって鍛えてもらい、「コーチになってきた」といえます。

大人が「成長する」とは

先日、弊社で、数名の経営者の方々と「後継者育成」をテーマに勉強会をしました。

  • 後継者育成は、計画的にできるものか?
  • 修羅場は必要なのか?
  • そもそも自分たちはどうやって社長になってきたのか?

これらの問いについて対話する中で、トップのみなさんから出てきた言葉はどれも深いものばかりでした。

「修羅場なんて、計画的にセットされたものではなかった。某国に自分が行ったら、どんどん修羅場になってしまって...。正直、あの時は、終わったと思いました」

「自分が役員になった時、さらに上で社長の解任劇が起こり、とんでもないことに巻き込まれていきました」

私自身、社会人になってからの自分の成長や変化を感じたのは、大きな失敗をしたときや、人との関係がこじれたとき、高い壁が目の前に立ち現れたときだったことが思い出されます。

ただ、面白いことに、みなさんのお話に共通していたのは、修羅場は「偶然の産物」であり、それを乗り越える過程には、人との縁や出会いも含めた「運」と「縁」があったということです。

周囲との関わりが「大人の成長」を促す

「成人発達理論」という考え方があります。発達心理学の分野でも、ここ数十年で大人の成長、発達への関心が高くなりました。

成人発達理論の中に、成長を「水平的成長」と「垂直的成長」に分ける考え方があります。

水平的成長とは、知識やスキルの量を増やし、やれることの幅を広げていくこと。一方で、垂直的成長とは、物事の捉え方や理解の仕方の変化を指します。

言い換えると、前者は何を知っているのか、何ができるのかが変化すること。後者は物事をどのように理解・解釈するのかが変化することです。コンピューターに置き換えると、水平的成長は搭載するアプリケーションを増やすこと、垂直的成長はOSのバージョンアップのようなイメージでしょうか。

そう考えると、「修羅場」とは、もしかしたら垂直的成長を促す役割を果たすのかもしれません。修羅場とまでいかなくとも、その人のその段階での物事の見方や考え方では処理できない状況、いわば葛藤やジレンマを感じるような状況は、大人にとって垂直的成長の機会だといえそうです。

さらに成人発達理論では、大人の知性は、自分の周囲、環境との相互作用によって発達の段階が移行するといいます。修羅場に陥ったときには、それまでの自分の枠を飛び出さざるを得ないチャレンジが必要です。そこに「周囲との関わり」があることで、その状況を乗り越え、次の段階へと知性の発達を遂げるのです。

先の勉強会の中で、ある方は、背水の陣のときに先輩からこう背中を押されたそうです。

「命を取られるわけではないのだから、お前がこれだ、 と思うなら、やってしまえ」

別の方は、修羅場が混迷を極めているとき、コーチとの対話の中で自分の捉え方だけが唯一の捉え方ではなく、ほかにもいろんな捉え方があることに気づいたといいます。そして、「そう思ったら光が見えてきた」と話してくださいました。

成長の機会を自ら創り出す

新しい仕事や役割、立場を引き受けることは、自分の演じる台本が次の章へと移っていくようなものです。演じるわけですから練習が必要です。修羅場とはいわずとも、新しい役割に向けた練習の機会を創り出すことはできないのでしょうか。修羅場を大人にとっての「成長のための痛み」だとすると、それを先取りするイメージです。

経営者のみなさんから伺ったお話を振り返ると、みなさんの成長の過程には、いったん立ち止まって自分を見つめる「間」を持ち、他者からの関わり、他者からの言葉があったことが見てとれます。

何かうまくいかなくなると、どうしたんだろうと、立ち止まり、自分を振り返ります。

ちょっとショックがあったときも、気分はよくなくても、自ら止まって見る機会になります。

こうした機会は、自分や組織のルーティーンを見直す機会、本質的な問題に気づく機会であり、自分が今どこにいて、どこに向かっているかを知る機会になります。

こうした「間」と他者との関わりを意図的に創り出すとは、他者の異なる視点からの問いやフィードバックをもらいにいくことといえるかもしれません。

* * *

冒頭で述べた通り、私は今、大きなチャレンジを控えて不安や焦りを感じています。ただ、このコラムを書きながら、その不安は、今回のチャレンジが少し孤独な環境に身を置くように見えているからだということがわかってきました。だとすれば、私にも処し方が少し見えたように思います。

環境に飛び込むと同時に、諸先輩や、ともに考えてくれる仲間やコーチから、問いとフィードバックをどんどんもらい続けること。

「これしかない」と改めて強く感じます。

みなさんは、今、どんな成長を求められているでしょうか。
その成長を早めるために工夫できることには、どんなことがありますか?

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【参考資料】
加藤 洋平、『成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法』、日本能率協会マネジメントセンター、2017年

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