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課題解決をコーチする vs 人の変容をコーチする
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多くのコーチは「コーチングを通じて人の可能性を最大化させたい」、そんな想いでコーチングを実践しています。私は、長年そうしたコーチたちのメンタリングを行ってきました。
その中で、多くのコーチングが「クライアントの可能性の最大化」に至る以前に、クライアントが「思考の中で創り上げた課題」の解決に向けられている、という実態を数多く見てきました。
今日は「具体的なアプローチ方法」を例示しながら、「人の可能性を最大化させるコーチングとは何か?」について探求していきます。
コーチングのテーマ
具体的に示すために、一つのケースを取り上げて見ていきます。
コーチの目の前には、クライアントであるA氏がいます。A氏は、ある事業部門の責任者です。A氏は、次のようなテーマをコーチに共有し、コーチングをはじめようとしています。
「私は、隣の事業部門の同僚B氏との間で、部門を超えた業務連携を期待されています。しかし、B氏とは、業務連携に対する考え方に違いがあり、なかなか具体的な進捗がありません...」
ここから、3つのアプローチをそれぞれ見ていきます。
アプローチ 1
コーチは、次のような問いを通じて、A氏をコーチングしていきました。
- あなたは、どう業務連携していくべきと考えているのですか?
- Bさんは、業務連携について、どのような考え方なのですか?
- あなたとBさんとの間の見解の相違は、どこにありますか?
- あなたとBさんが、理想的に業務連携できたときのイメージは何ですか?
- あなたとBさんの考え方のギャップを埋めるために何ができますか?
さて、このアプローチを考察してみます。あなたは、このコーチングの特徴・可能性・限界をどう評価するでしょうか?
私は、コーチ達のメンターを務める中で、上記のようなアプローチは一つの典型的なパターンだと気づきました。
私は、こうしたアプローチの可能性を次のように考えています。
- 問いかけを通じて相手の考えが整理される
- 相手の考えのあいまいな点が明確化する
- 相手が次の行動を特定できる
興味深いのは、このアプローチをとったコーチが、次のように振り返ることが多い点です。
- 時間がなくて、状況を詳しく聞き切れなかった
- 途中で、自分ならこうする、という考えが湧いてきた
- コーチである自分が問題解決をしたくなり、苦しくなった
そして、このアプローチの場合、クライアント側は、「課題は整理できたが、もっと自分の真のテーマに迫ってほしかった」、という感想を抱くことが少なくありません。
同じテーマに対して、全く別のアプローチをとることもできます。2つのアプローチを例示します。
アプローチ 2
コーチは、次のような問いを通じて、A氏をコーチングします。
- このテーマについて、あなたはこれまで、どのように向き合ってきましたか?
- あなたのその選択は、どんな前提から来るのでしょうか?
- あなたが話したその前提に対して、今、あなたが感じたことは何でしょうか?
- 今日、この場で、何について話をしていきましょうか?
このアプローチをとると、たとえば、クライアントは次のように話し始める可能性があります。
「実は、この状態は半年前からずっと繰り返されてきました。私はB氏の事業についてよく知りませんし、自分の事業部門に対する干渉も避けたい気持ちはあります。正直、私は、互いに干渉し合うことに対して躊躇がないとは言えません...」
こうなると、コーチングのテーマは、業務連携そのものから、利害の拮抗がある場合の、A氏の相手への関わりの能力、対話の能力へと再定義されていく可能性があります。
まさに、A氏にとっては、「自分の真のテーマに迫られる」感覚が生まれ始めるかもしれません。
アプローチ 3
コーチとして、より積極的に踏み込むアプローチもあります。コーチは、次のような問いを通じて、A氏をコーチングします。
- その話を聞きながら、(コーチである)私には、『2人のリーダーが、互いの存在を肩で感じながら、互いにまっすぐ前を向いてる』という、そんなイメージが湧いてきました。これを聞いて、今、あなたは何を思いましたか?
- 今日、持ち込んだテーマは、あなたに対して、どんな問いを投げかけているのでしょうか?
- 今日、この場で、あなたは自身のどんな前提や信念について、再考してみたいですか?
さて、アプローチ1とアプローチ2、3の間に、どのような違いを発見したでしょうか。たった数個の質問ですが、1と比較して2と3では、冒頭から質問の入射角が違うように感じられたのではないでしょうか?
私自身、経験豊かなコーチたちからコーチングを受ける中で、2や3に近いやり方で、短時間で、最初から「自分自身の前提に迫られる」体験を、何度も味わいました。
自分がどういう考え方の持ち主なのか、「Who am I?」を検証するような、そんな体験です。
課題とは、その人の中で創り上げられたものである
まとめとして、1と2、3の違いを見てみましょう。
1は、A氏が語った課題を前提とし、その解決に焦点を当てた、課題解決型アプローチと言えそうです。一方、2と3は、A氏が語った課題をきっかけとして、それを語ったA氏の背景や前提に焦点を当てています。
興味深いのは、1で課題だったことが、2と3では課題ではないことです。ここでは、コーチがA氏の前提や考え方がその課題を「創り上げている」と考えているからです。
2や3のアプローチを洗練させる中で、私は、コーチングがクライアントに「変容」をもたらし得るのではないか、コーチングが「人の可能性を最大化させる」上での、一つの実践的な方法を提案できるのではないか、と考えています。
最後に、プロフェッショナルコーチの教育に長年携わってきた Marion Franklin氏 (MS, MCC)が提案する2つの「問い」を紹介します(※)。これらの「問い」は、「変容」に向けたコーチングに際して、我々コーチを、相手の判断や信念を形成する前提への探求に導きます。
- Why are they telling me this?
なぜ、このことを話題にしているのだろうか? - What's making this a problem for this person?
なぜ、この問題がこの人にとって問題になっているのだろうか?
これらの「問い」をガイドにし、2や3のアプローチを試してみてはいかがでしょうか?
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【参考資料】
※ Marion Franklin, “The HeART of Laser-Focused Coaching: A Revolutionary Approach to Masterful Coaching”, Thomas Noble Books, 2019, P39
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