Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


仕事って、苦役ですか?

仕事って、苦役ですか?
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

新年度が本格的にスタートしました。新しい年度を迎える少し前、エグゼクティブ・コーチングのクライアントであるYさんから、「入社式で、新入社員に向けて話すメッセージを考えたい」との相談がありました。Yさんによると最近の学生たちは、社会に出るにあたって「転職を前提に、専門性を磨け」と大学や先輩から言われることが多いそうです。

その影響なのか、Yさんには最近の新入社員が、社会から求められるスキルや資格を身につけること、つまり、Howに意識が行っているように見えるといいます。Yさんは「それだと小さくまとまってしまって、世の中を変えていく人材に育たないのではないか。それを打ち破るようなメッセージを考えたい」と熱く語ってくださいました。

Yさんとの間に置いた「問い」は至ってシンプルです。

「仕事とは、会社とはなにか」
「何のために、誰のために働くのか」
「なぜ働くのか」

「働き方改革」って?

「働く」といえば、昨今以前よりもさらに目につくようになった「働き方改革」という言葉があります。医療、物流、建設、あらゆる業界で働き方の改革が求められています。これからの人口動態を考えれば、働き手の確保は喫緊の課題ですから、その意味で働きやすい環境をつくっていくのは大事なことです。

しかし、長きにわたって「働きすぎ」と言われてきた日本人の平均労働時間は、いまや先進諸国の中では最低水準だという統計もあり、「働き方改革」の先にどんな未来が待っているのか不安を覚えるのも事実です。そしてなにより「働き方改革」という言葉の根底に、「働くことは苦役」という労働観があるように思えてなりません。

最近放送されたテレビドラマでは、昭和と令和の働き方の違いが話題になりました。平成に元号が変わった頃に社会人になった私も、今では信じられないような働き方をしていたものです。夜明け前に起き、守衛さんがまだ起きない時間に会社に着いて、守衛さんにいやな顔をされながらカギを開けてもらい、夜は終電に合わせて会社を出る、という毎日でした。あのような働き方を続ける未来がよいものになるとはたしかに思えません。

しかしその一方で、父や母の四六時中働く姿も思い出します。両親は二人とも仕事が好きで、自分たちの仕事を誇りに思っていることが子どもの私にも伝わってきました。

「働き方改革」という言葉とともに両親の姿を思い出すと、「働くとは何か」「仕事とは何か」という問いが回ります。

仕事は苦役なのでしょうか? それとも誇りなのでしょうか?

仕事とは生きること

「ワークマンシップ本能」という考え方があります。ソースタイン・ヴェブレンによって提唱されたこの概念は、「人は本来、仕事が好きだ」という考え方に基づきます。私なりにこの概念を解釈すると、「人は問題を解決することで、自分の行動は世界の役に立っていると思いたい存在である」ということです。

課題の解決に向けて何かを創り出すことにこそ人間の本質があると考えると、仕事を通じて達成感や自己成長を求めることは、人間の自然な傾向だといえます。つまり、ワークマンシップ本能とは人間の根源的な性質であり、「生きること」とほとんど同じ意味をもつともいえるのではないでしょうか。

この「ワークマンシップ本能」を目覚めさせ、個々の才能や情熱を引き出す職場では、仕事は喜びや誇りになり、眠らせたままの職場では、仕事は苦役となってしまうのかもしれません。

ワークマンシップ本能を目覚めさせよ

先日の日本経済新聞に「ホワイト企業はモーレツに敗北」と題した記事が掲載されました(※1)。ご覧になった方も多いかもしれません。

日経新聞は、口コミサイトの書き込みから、働きやすいが働きがいは低い企業を「ホワイト」、働きやすい環境ではないものの働きがいの高い企業を「モーレツ」、両方とも低い企業を「ブラック」とし、労働環境と業績の相関を分析。その結果、業績では「ホワイト」企業は「モーレツ」企業に負けていたという記事です。

その記事が提案するのは、働きやすい環境を整えると同時に、社員が働きがいを感じられる「プラチナ」企業への進化です。長時間労働の是正やハラスメントのない職場づくりなど、働きやすさを高める取り組みはもちろん不可欠ではあるものの、それだけでは会社も社員も成長しない。働きがいのために必要なのは、社員が会社の進む方向を理解し、そこに皆が向かおうとする意志である、と。

弊社のコーチング研究所が行ったリサーチ結果に、「社員が会社の進む方向を理解し、そこに向かおうとする意志をもつ」には、マネジメント層の振る舞いが重要であることを示唆するものがあります(※2)。

「ビジョンの理解・共感に影響する要素には、『その組織トップや上司の振る舞い』が、『働く環境(評価や制度)』以上に大きな影響がある」というものです。

さて、冒頭のYさんですが、先の3つの問いを通じて、Yさんが社長として新入社員に伝えたい仕事観は、こんな言葉になっていきました。

「会社とは、平凡な人を非凡にしていく、幸福なシステムである。だから大いに使ってほしい。

同じ仕事をしていても、それを苦役と捉える人には苦役となり、幸福の場と捉える人にとってはそうなっていく、それはあなた次第である」

Q 仕事とは、会社とはなにか?
Q 何のために、誰のために働くのか?
Q なぜ働くのか?

あなたは、この問いにどんな言葉を紡ぎますか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】
※1 「ホワイト企業はモーレツに敗北 働きがい高めプラチナへ」日本経済新聞、2024年4月3日
※2 調査内容:Executive Mindset Inventory,7段階評価 / 調査期間:2011年9月~2019年2月、コーチング研究所調査 2019年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

エグゼクティブ・コーチング 上司/部下 育成/成長

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事