Coach's VIEW

Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。


リーダーは、第三者から得た情報をどのように当事者に伝えるべきか

リーダーは、第三者から得た情報をどのように当事者に伝えるべきか
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

フィードバックとは、目標達成に向かう中で相手の現在地を明確にし、理想の実現に向けて軌道修正に必要な情報を提供することです。コーチングに限らず、マネジメントにおいてもフィードバックは重要なコミュニケーションの一つですが、コーチングではとくにクライアントの行動変容を促す上で重要です。しかし、フィードバックは難しいコミュニケーションでもあり、適切に扱わないと、相手のエネルギーを奪う結果となりかねません。

顔の見えないフィードバック

Aさんは、ある会社の組織変革プロジェクト事務局でリーダーを務めています。プロジェクトに関するある打ち合わせで、Aさんから悩みを打ち明けられました。

「同僚のBさんから『プロジェクトに対して不満が出ているのでフィードバックしたい』と言われました。話を聞くと『他の人たちが厳しい意見を言っている』と言うんです。さらには、発言の主を聞いても明かしてもらえず、しかも具体的な内容も教えてもらえません。具体的にどんな問題が起こっているかがわからないと手の打ちようがありません。それに『みんながそう言っている』かのような言い方をされ、人格が否定されたようで、とてもつらいんです」

Aさんは、このことが気にかかって、この数週間、本当の意味で笑えなくなってしまったと言います。Aさんの様子からは、プロジェクトの舵取りの判断だけでなく、感情的にも混迷を深めていることがわかりました。

Bさんはプロジェクトを成功させるために、Aさんに重要な情報を伝えようとしたのかもしれません。しかし実際に起こったのは、プロジェクトの品質向上とは関係のないAさんの混乱、混沌、不安、迷いでした。

フィードバックとは何か

EQ(Emotional Intelligence)の提唱者、ダニエル・ゴールマン氏は、コミュニケーションについてこのように言います(※1)。

「コミュニケーションは、情報を共有するだけではなく、関係を構築し、信頼を築くプロセスである」

また著名なコンサルタントであるサイモン・シネック氏は、その著書『WHYからはじめよ』で、リーダーシップについて次のように記しています。

「リーダーシップは、信頼の構築と関係の育成に関連している」(※2)

冒頭で述べたことに加え、これらの観点からも、フィードバックとは、感情的な信頼関係を築き、相手の成長を促していくものであると考えられます。しかし、BさんのAさんに対するコミュニケーションからは、残念ながらそのスタンスが感じられません。

そう考えたとき、Bさんのコミュニケーションは果たして「フィードバックと言えるのか?」という問いが生まれます。

情報源も内容も明かさないフィードバックでは、軌道修正には役に立ちません。今回のように「社内に不満がある」という情報だけでは、ある意味噂話の域を出ず、Aさんをより不安にさせる結果となりました。さらに言えば、誰が言ったのかわからない情報によって、Aさんとプロジェクトの参加メンバーとの信頼関係は損われた可能性すらあります。

Bさんは本来のフィードバックの発信者ではありません。いくらBさんが誰かのフィードバックを正確に代弁したとしても、そこには情報を持っている側と持っていない側というヒエラルキー構造が自動的に発生します。意識的であれ無意識であれ、その構図に対してAさんが違和感や嫌悪感を抱いていることが感じられます。つまりAさんは、本来向き合うべき改善のための情報ではなく、同僚Bさんとの関係性に向き合ってしまうことになっています。

今回のように「アクションの取りようがない」情報のインプットは、自身の行動や改善に落とし込むこと自体が困難です。そして、「なんとか改善したい」という気持ちは、永遠に「未完了」として心に残り続けます。さらには、Bさんとの関係性までもがAさんにとっては「未完了」として残っていくのです。

フィードバックの処方箋

フィードバックというコミュニケーションにおいてもっとも望ましいのは、第三者を介さず、改善を望む本人が直接それを相手に伝えることです。それこそが真の意味でのフィードバックであり、受け手と与え手の間で信頼と透明性を構築し、より建設的な対話を促進する可能性が高まります。

一方で、組織においては実際にBさんのような立場に置かれることも多いでしょう。ある状況に対して、第三者からの批判的な情報が耳に入ったり相談を受けたりして、状況の改善に向けてその情報を活かしたほうがいいと考えるような場合です。

自分が手にした情報を、相手を無用に不安にさせず、改善や成長に直接つなげてもらうために伝えるにはどうするのがいいのでしょうか。第三者のフィードバックを伝達したばかりに、その相手との信頼関係がなくなってしまっては元も子もありません。

とはいえ実際には、直接伝えるのが難しいケースもあるかもしれません。その情報を手にした第三者が取り得る行動は二つあるのではないでしょうか。

一つは、フィードバックの発信者に対し、内容や発信者を開示することについて同意をもらったうえで対象者に伝えること。対象者が自ら情報を取りに行くことのできる環境を整えることです。

それも難しいのであれば、「一緒に伝えに行こう」と促すことです。

そもそも、組織にフィードバック文化が根づいていないからこそ、本人に直接フィードバックしにくいという状況が生まれます。だからといって、よかれと思ったリーダーが「伝書鳩」をやっていては、本当の意味での組織の活性化にはつながりません。

あなたの組織では、第三者からの情報はどのように扱われていますか?
その時に、情報の間にいるリーダーは、どのように振舞っていますか?
そのフィードバックは、当事者の行動変容と組織の活性化につながっていますか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

この記事を周りの方へシェアしませんか?


【参考資料】
※1 ダニエル・ゴールマン(著)、土屋京子(翻訳)、『EQ~こころの知能指数』、講談社、1996年
※2 サイモン・シネック(著)、栗木さつき(翻訳)、『WHYから始めよ』、日本経済新聞出版、2012年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

フィードバック リーダー/リーダーシップ 信頼関係/関係構築 対話/コミュニケーション

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事