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コーチングを組織能力にする ~米国における社内コーチの発展

コーチングを組織能力にする ~米国における社内コーチの発展
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2024年現在、米国では、コーチングの組織活用に成功している企業とコーチングの組織活用を諦める企業という二分化が起こり始めているといいます(※1)。

コーチ・エィは2019年に米国のCOACH U(コーチ・ユー)社を完全子会社化しました。私はそのCOACH Uの事業を通じ、上記の二分化の理由がわかりかけているような気がします。

現在、米国のマネジメント現場で起きていることや、米国企業のコーチング活用のトレンドを肌身で感じる中で、これはコーチングそのものが良い悪いという議論ではなく、コーチングをどう組織に組み込むのか、その先の知恵が必要ということだと解釈しています。

今回は、私が米国の事例から学んでいるコーチングの組織活用の要点をご紹介し「コーチングを組織能力にする」可能性を探ります。そのヒントは「社内コーチ」にあります。

マネージャーに求められるコーチング能力

米国企業も、今、マネジメントの混乱に直面しています。以下は、最近発表された複数の調査結果からのコメントです。

  • CEO達が、夜も眠れないほど悩んでいるのは、人材に関する課題である(※1)
  • 管理職の82%は偶然に管理職となった者であり、 彼らは正式な管理職研修やリーダーシップ研修を受けずに管理職になっている(※2)
  • アメリカの労働者の84%が、訓練不足の管理職に負担を感じており、その結果、不必要な仕事が発生し、ストレスレベルが高まっている(※3)
  • 非効率なマネージャーの従業員の50%が、今後1年以内にその組織を去ることを計画している。効果的なマネージャーの従業員の場合は、それが21%である(※2)

こうした状況の中、多くの企業において、ハイポテンシャルなリーダーや社員のリテンションは大きなテーマです。

※1の調査では、そうした人材が望むのは仕事における成長機会であり、上司の優れた対人能力であり、優れたコーチングやリーダーシッププログラムの提供だと報告しています。しかし、※1の調査で「今の上司から、もっとコーチングを受けたいか?」と尋ねたところ「受けたい」と答えた回答者はわずか23%でした。

一方で、上司のことを「効果的なコーチ」だと考える部下は、上司からのコーチングを望む傾向が強く、さらには、自分自身も有能なリーダーであることに責任を感じる可能性が2.7倍高いことも報告されているのです。コーチ・エィの調査(※4)で「1on1の中でコーチングを行っている人は、そうでない人に比べ、相手の状態に対して2倍以上の変化をもたらす」という結果が出ていることを踏まえると、ハイポテンシャルなリーダーや社員は、上司との日常的なコーチングの対話によって、より変化・成長できることを知っているのかもしれません。

人も組織も成長を望むのであれば、マネージャーのコーチング能力の向上は、組織にとってもはや nice to have ではなく、must have というべきかもしれません。

米国企業の事例

この点について、米国企業の顧客と触れていく中で学んだことがあります。それは、コーチングの組織活用に関する長期的なビジョンと戦略です。

ある米国政府機関は「強固なコーチング文化を創り上げ、 100%の職員にコーチングの機会を提供する」というビジョンを掲げ、10年以上、毎年10名以上の社内コーチを開発し続けています。彼らは、社内コーチたちにICFの資格取得を義務づけ、その仕事が社内において誇り高いプロフェッショナルなキャリアだと位置づけています。

また、北米市場で6万人規模の組織を要する大手金融機関では、10年以上にわたり、毎年20名以上がコーチングのプログラムに参加し、社内コーチとして活躍しています。彼らはフィナンシャル・アドバイザーのビジネスの成功をコーチする専門家となり、彼らが所属するチームは Center of Excellence(CoE)としてブランド化され、全社のコーチング文化を牽引しています。CoEの活躍は口コミを生み出し、今では多忙なラインマネージャーでさえも「私も彼らと同じプログラムで学びたい」と自発的な応募が来るようになっています。

どちらの組織も「コーチングを組織能力にする」ビジョンを明確にし、社内コーチやそのチームをブランドにすることを重視しています。社内コーチに任命された人たちがプライドをもって、社内で縦横無尽に1on1やグループコーチングを実践し、コーチング・トレーニングを行う環境を整えているのです。

ある社内コーチが教えてくれました。

「事業部門出身者が、キャリアのある時点で社内コーチの経験をし、また事業部門に戻る。その人材は、いずれコーチングを自然に使いこなすビジネスリーダーになっていきます」

即ち、組織は、社内コーチというキャリアを、タレント開発の1プロセスとして組織能力に組み込みつつあるのです(※5)。

社内コーチという組織能力

ICFの2023年の調査は、今後5年間で、企業はコーチ力を持つリーダー・マネージャーの開発を通じたコーチングの活用や社内コーチの活用に力を入れる見通しがある、と指摘しています(※6)。

社内コーチの開発に力を注ぐ組織は、コーチングを組織能力として内部化させることで、

① 幅広い将来タレント人材への機会提供
② 低コスト化
③ 組織事情に合わせたコーチングの最適化
④ タレント開発

の可能性に着目しています。

こうした考え方は、今後の日本企業にも十分に活かせるのではないでしょうか。

先日、COACH Uのアドバイザリーチームの会合で「なぜ、コーチングが企業組織に浸透しづらいのか」というテーマで意見交換をしたとき、ある経験豊富なメンバーが、次のように主張しました。

「マネージャーにとって、コーチングのモデルがいない。ビジョンが見えない。だから浸透がしづらいのではないか」

その時、私は思いました。

具体的な「人」としての「社内コーチ」は、ビジョンになりえるのではないか、そういう人材を組織に輩出することで、組織はコーチングを自分のものにできるのではないか、と。

* * *

今回は、米国で発展しつつある「社内コーチ」についてご紹介しました。

記事内で紹介した2つの組織は、今では不可欠・不可逆的な組織能力を構築していますが、最初の一歩は、10年前のたった数名によるトライアル・プログラムへの参加でした(※7)。

きっかけは、簡単なものでよいのです。未来に向けた、1つの選択肢になれば幸いです。

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【参考資料】
※1:Global Leadership Forecast 2023 Report (DDI)
※2:Chartered Management Institute (CMI)
※3:The Society for Human Resource Management (SHRM)
※4:[調査対象:コーチ・エィのプログラム(DCD)に参加したリーダー 2,624人のSH 11,584人/ 調査内容:D-meter1回目・2回目/ 調査期間:2015年5月~2018年3月] コーチング研究所 2019年
※5:Exploring the Use of Internal Coaches, 2022, Dusti R. Baldwin Dr. Michael Cherry, Ed.D., PCC
論文では、社内コーチを担う人自身の成長が指摘されています。
「 研究の結果によると、コーチはコーチング関係の終了時にもプラスの影響を受けており、コーチ自身のリーダーシップ開発、対人スキルの向上が見られ、それは個人的にだけでなく、組織的にも利益をもたらしていた。さらに、コーチはワークライフバランスの改善を報告していた」
※6:Global coaching study 2023(ICF)
※7:COACH U社・プログラム [Core Essential Program]

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