Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
ミスターミニット代表取締役社長 迫 俊亮 氏
第1回 「現場を知らない経営陣」が会社をダメにする
2017年08月08日
弱冠29歳で社長に就任し、
「10年連続右肩下がり」
「鬱で休職&退職の管理職続出」
「新サービスはすべて失敗」
「経営と現場は完全に相互不信」
......という典型的なダメ会社だったミスターミニットを見事V字回復に導いた迫俊亮氏。なぜ、社長一年生だった迫氏が改革に成功したのか。その秘訣はただひとつ、「現場中心の会社づくり」にあった。
本連載では新刊『やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力』でも語られた、社員が自ら動き出す「リーダーシップ」と「仕組み」を再編集し、お届けしていく。
部下との関係に悩むすべての営業リーダー・管理職必読!
第1回 | 「現場を知らない経営陣」が会社をダメにする |
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第2回 | リーダーが常に心がけて置かなければならない大切な要素 |
第3回 | 「うーん、ウザい」でぶち壊された、僕のリーダーシップ像 |
会社の命運を握るのはいつも「現場」だ
本社からの無茶な指示に現場は疲弊し、管理職は続々と鬱で休職、あるいは退職。現場と本社の信頼関係はゼロに等しく、現場が本音を言えない・現場に本音を言わせない最悪の雰囲気。 ばかげた伝統やルール、タブーがイノベーションを阻み、新サービスは40年間成功ゼロ。
......そんな会社があるなんて、信じられるだろうか?
これが、企業再生を専門とするプライベート・エクイティ・ファンドから、いちマネージャーとして僕が送り込まれた当初の、ミスターミニットの惨状だった。
しかし、わずか3年足らずで会社は変わった。新サービスが次々に生まれ、過去20年で最高の業績を残しV字回復を果たした。
かつて会社を去った社員が「いまなら楽しく働けるから戻ってこい!」という現役社員からの呼びかけに応じ、50人以上も戻ってきてくれた。なにより、やる気に満ちた社員が「変化すること」を楽しみ、自分からビジョンの達成に向けて邁進するようになった。
なぜ、ミスターミニットは生まれ変われることができたのか?
そんな質問を、社長としてこれまで数えきれないほど受けてきた。
革新的な戦略を打ち出した?
カリスマ的なリーダーシップで会社を引っ張った?
外資系からエリートを大量に採用した?
いや、どれも違う。
僕はひたすら、会社のすべてを現場中心につくりなおしてきた。この会社が変われたのは、現場のおかげだ。
そして、すべての会社は現場次第で変わることができると僕は信じている。
ミスターミニットのようなBtoCの店舗ビジネスでは、わかりやすい「現場」がある。けれども、BtoBビジネスの場合は、稼いでくる営業が「現場」だろうし、クリエイティブワークでも制作の「現場」がある。僕の知る限り、ほとんどの会社に「現場」と呼べる場は存在する。そしてどんな業種でも、会社の命運を握るのはいつも「現場」なのだ。
経営サイドを信じない現場に漂っていた「無力感」
しかし、残念なことに多くの会社では、現場の声が聞き入れられていない。現場を理解しない経営陣が的外れな指示を出し、社員は「的外れ」であることを知りつつも本音を飲み込んでしまう。
改革当初のミスターミニットがまさにそうだった。
企業再生ファンドから送り込まれてから半年ほど経ったときのこと。僕は東南アジア事業の立て直しを果たした成果が認められ、日本に戻り国内事業のマーケティングを担当することになった。日本の状況がよくわかっていなかったため、手始めに、過去にコンサルティング会社が残していったマーケティング調査資料をチェックしてみる。そこには「店舗がどこにあるかわからない」「なんの店かわからない」「値段がわからないから不安」といった意見がきれいに整理されて並んでいた。
なるほど、全体的に認知不足が問題のようだ。だとすれば、すべきことはお客様への「アピール」ではないか?
そう考えた僕は、早速路上でチラシを大量に配るよう現場社員にお願いした。どこか浮かない顔でうなずく社員。僕は不思議に思いつつも「まあ、結果が出ればきっと納得してもらえるはずだ」と楽観的に考えていた。
悲劇が起きたのは、チラシの配布がつつがなく終わった後だった。たしかに、お客様はたくさん集まってくださった。しかし、お客様が帰宅ラッシュの時間帯に集中して増えた結果、ただでさえ人手不足だった社員(職人)たちの作業がまったく追いつかず、長蛇の列ができ、あり得ないほどお待たせすることになってしまったのだ。もちろん、怒って帰ってしまったお客様も少なくない。
僕がなによりショックだったのが、現場に立っている社員たちがみんなあきらめたような表情をしていたことだった。
僕は気づいた。彼らはこうなることがわかっていたんだ、と。
過去数十年にわたり経営陣が現場の声に耳を傾けてこなかったために、「普段からパツパツで回しているのに、チラシをまいてお客様が増えたらとてもさばけません」などという正論はとても言い出せなかったのだ。
「エリート戦略家」がハマる落とし穴
なぜ、当たり前のことを当たり前に言うことができない文化が生まれてしまったのか。根本的な原因は経営サイドの「現場軽視」にあった。
かつてのミスターミニットは、経営サイドの多くがいわゆる「エリート」だった。企業再生という目的のため、ファンドからは外資系企業やコンサルティングファーム、外資系金融機関などでキャリアを積んだピカピカのビジネスエリートばかり送り込まれてくる。もちろん彼らも現場が大切だと頭ではわかってはいたし、社員の前では「現場第一です」と言っていた。ときには飲みに行ったりもしていた。
しかし、実際に仕事のなかで現場に行くことはほとんどない。たまに顔を出してもカウンターの外から指示を飛ばすだけ。社員のことを心の底からは信じていないから、現場に権限も渡さない。さらに、あり得ないことだが、経営幹部だけで集まるときには「こちらの作った正しい戦略を現場が理解できていないのが、この会社の問題だ」と現場を見下すような発言が出ることすらあった。
彼らのような「エリート戦略家」たちに欠けているのは、一言で言えば「自分をズラす力」だ。
多くの場合、彼らは「自分が正しいと思うことを相手も正しいと思うとはかぎらない」「世の中にはいろんな考え方の人がいる」ということを頭では理解していても、腹には落ちていない。だから自分の考えを相手の考えのほうに「ズラす」ことができず、相手を自分のフィールドに引きずり込み、つい「論破」してしまう。
でも、残念ながらそれでは本当の意味での「優秀な人材」とは言えない。いくらロジカルシンキングが得意でも、エクセルやパワポづくりがうまくても、現場を動かせなければ 戦略は実行できないからだ。
リーダーに必要なのは、思考力でもビジネススキルでもない。自分とは違う考え方や感じ方にも積極的に寄り添い、信頼を構築する能力なのだ。
そう気づいた僕は毎日のように現場に通い詰め、ついには彼らとのコミュニケーション量を増やすため、慣れない葉巻きまで吸い始めた――。
(第2回へつづく)
[やる気を引き出し、人を動かす リーダーの現場力より一部抜粋・加筆]
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