書籍紹介

Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。


未来を変えるコーチング

第2回 Already 目指す先の指標ではなく、すでに積み重ねた努力に注目しよう

第2回 Already 目指す先の指標ではなく、すでに積み重ねた努力に注目しよう
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

2023年6月23日に、コミュニケーション科学者としてコーチングの会話の仕組みを研究してきた著者ヘスン・ムーン氏の『Coaching A to Z』の日本語版、『Coaching A to Z 未来を変えるコーチング』がディスカヴァー・トゥエンティワンより刊行され、その監修をコーチ・エィのファウンダーである伊藤守が務めました。

本書は、コミュニケーション科学者としてコーチングの会話の仕組みを研究してきた著者が、広範な研究に基づいた26の視点と具体的なエピソードを紹介しています。また、望ましい未来を設計するための、対話によるストーリー作りの基本を解説しています。

第1回 良い対話が優れた力を発揮する
第2回 Already 目指す先の指標ではなく、すでに積み重ねた努力に注目しよう
第3回 First 望ましくない慣れた行動パターンから、慣れないけれど望ましい行動パターンに変換しよう
第4回 Look 心の中の感想や印象を明瞭な言葉に表し、相手と行き違いが起こらないようにしよう
第5回 Might 断定はせず、常に好奇心を持って可能性を広げよう

第2回 Already 目指す先の指標ではなく、すでに積み重ねた努力に注目しよう

あなたも、誰かに「あとちょっとで目標に届くよ」とか「もう少し頑張れ」と言われた経験がありませんか。

数年前、私は交通事故に遭ってリハビリを受けていました。筋力回復のため、専門の異なる数人の療法士がリハビリに関わってくれましたが、私のようにやる気のない患者でさえモチベーションが上がるように、彼らが各人各様の秘策を携えて持ち場に臨む様子は、興味深いものがありました。

「頑張れ、もう少しいける。あと3回!」。トレーナーのトムは、限界への挑戦をけしかけるのが特技のようでした。

「運動を怠ると、今ある筋肉もいずれ失いますよ」。セラピストのセオは、不安を煽って挑発するのが得意でした。

たまに、「事故に遭う前からもっと身体を動かしていれば、回復がもっと早いんですがね」などと、私の不甲斐なさを責めるようなことを言う療法士もいました。そう言われてやる気が出るでしょうか?

そんなある日、小柄な若いトレーナーが私の担当になりました。
「こんにちは。ダイアンです、よろしく」
「あの......、今日はどこを鍛える運動ですか」。私は早くも疲労感に襲われながら尋ねました。通常の30分メニューは、5種類のエクササイズを繰り返し3セット行うものだったのです(私が食い下がれば、2セットに減らしてもらえる日もありましたが)。
「そうですねえ、これまでどこを重点的に鍛えてきましたか?」
「脚と、腰だと思いますけど」

すると、ダイアンがメモを取りながら「その目的は?」と聞くのです。
私は、なぜカルテに書いてあるようなことをわざわざ質問するのだろう、彼女は新人なのかな、と思いながら「筋力強化じゃないですか? それとバランス能力の回復と」と答えました。

「筋力とバランスね......なるほど。どんなときに、身体のどの部分に筋力とバランス能力が戻ってきたと感じますか?」。ダイアンのこの質問は意外でした。そんな質問をされたのは初めてだったのです。彼女以外のトレーナーは、最も力が入らないのはどんなときか、最もバランスを取りにくいのはどの姿勢か、それが日常生活にどう支障をきたしているか、と聞くのが常だったからです。
「ええと......教壇に立っているときですね。それに、最近は8時間通して仕事をしても大丈夫だという自信がつきました。疲れませんし、痛みもありません」

ダイアンはメモを取る手を止め、「お仕事が楽しいんですね」と、私に笑顔を向けて言いました。
「確かに、その通りですね」と、私が笑顔で返すと、ダイアンがこう言ったのです。
「とすると、あなたは大好きな仕事を続けるために筋力とバランス能力を鍛えるのが大事だとわかっているし......本来のご自分のペースで仕事ができる状態まで、すでに回復されたみたいですね。それで、これだけの筋力とバランス能力を取り戻すのに、これまで何をしましたか?」

対話の核心にあるもの

コーチングの対話の核心に必ずあるのは、相手が何を望んでいるのか、という問いです。何か(または誰か)の変化を望む人もいれば、維持したいものがあると言う人もいます。対話の相手が、何を望んでいるのか話してくれたら、あなたならどう対応するでしょうか。その望みの内容を、もう少し突き詰めてみるのではないでしょうか。私たちは、こうした望みを「ゴール」「結果」「目標」など、終着点や目的地を意味する言葉で呼んでいます。

次に、もう一歩踏み込んで、どうすればその人がゴールに到達できるかを煮詰めてみるのではないでしょうか。私たちはそれを「行動計画」「戦略」「次のステップ」など、終着点への到達手段を意味する言葉で呼んでいます。あなたも、このような対話を通して、取り組むべき課題を満載した計画を打ち出した経験が、一度ならずあると思います。

私の経験から言えば、人は、望む結果を手に入れるための計画を詳細に練ったところで、必ずしも奮起するわけではありません。自分がなぜ、その結果を望んでいるのか気づいたときに、やる気が湧いてくるケースがほとんどなのです。ある結果を望む「理由」が明確になると(例えば「今運動するのは、大好きな仕事を続ける体力を養いたいから」)、その結果を導く「手段」に自ずと身が入ります(「5種類のエクササイズを3セットやる」)。そして、目指す方向に自分はすでにこんなに前進したのだと気づく経験(「これだけの筋力とバランス能力を取り戻すのに、これまで何をしましたか?」と聞かれたときなど)を重ねると、充足感も持続します。

コーチやトレーナーに限らず、すべての対話における聴き手の役割は、「もう少しだ!」と相手を激励し続けることではありません。対話の相手自身が、目指す方向に向かって自分がすでに実践している取り組みに気づくよう、そっといざなうのが良い聴き手なのです。

続きはこちら

変革的コーチング 5つの基本手法と3つの脳内習慣

未来を変えるコーチング

著者: ヘスン・ムーン
発行日: 2023年6月23日
出版元: ディスカヴァー・トゥエンティワン


この記事を周りの方へシェアしませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

コーチングとは コーチングの本 問い/質問 対話/コミュニケーション

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事