書籍紹介

Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。


未来を変えるコーチング

第1回 良い対話が優れた力を発揮する

第1回 良い対話が優れた力を発揮する
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2023年6月23日に、コミュニケーション科学者としてコーチングの会話の仕組みを研究してきた著者ヘスン・ムーン氏の『Coaching A to Z』の日本語版、『Coaching A to Z 未来を変えるコーチング』がディスカヴァー・トゥエンティワンより刊行され、その監修をコーチ・エィのファウンダーである伊藤守が務めました。

ムーン氏は、トロント大学でブリーフコーチング法を教える傍ら、世の中の誰もが、家庭でも職場でもよりよい会話を交わせるようになってほしいという願いとその実現に向け、自らコーチングやコンサルティングに携わるほか、コーチの養成にも取り組んでいます。

本書は、コミュニケーション科学者としてコーチングの会話の仕組みを研究してきた著者が、広範な研究に基づいた26の視点と具体的なエピソードを紹介しています。また、望ましい未来を設計するための、対話によるストーリー作りの基本を解説しています。

今回、Hello,Coaching! では前段となる「良い対話が優れた力を発揮する」に加え、26の視点から4つを抜粋してご紹介します(全5回)。

第1回 良い対話が優れた力を発揮する
第2回 Already 目指す先の指標ではなく、すでに積み重ねた努力に注目しよう
第3回 First 望ましくない慣れた行動パターンから、慣れないけれど望ましい行動パターンに変換しよう
第4回 Look 心の中の感想や印象を明瞭な言葉に表し、相手と行き違いが起こらないようにしよう
第5回 Might 断定はせず、常に好奇心を持って可能性を広げよう

第1回 良い対話が優れた力を発揮する

誰かと「すごく充実した会話」を交わしたときのことを覚えていますか?
そのとき、会話の相手は誰だったでしょうか?
そして、話題は何でしたか?
なぜ、それほどの充実感があったのでしょう?

生まれつき会話のセンスに恵まれているような人がときどきいます。そういう人と話していると、「わかってもらえた」「認めてもらえた」という手応えを感じたり、気持ちが上向きになったり、自分が尊重されていると実感できたりします。

もし、すべての会話がそんなふうだったら、あなたの毎日は全く違ってくると思いませんか?

会話や対話を意味する英語の「conversation」という言葉がもともと持っていた意味は、実は奥が深いのです。14世紀半ばの古フランス語では、conversationという単語は、人の「生き方」、つまりその人が周りの世界とどのように関わるか(態度、行い、習癖など)を意味していました。この単語の語源となったラテン語のconversātiōnemの意味は、「いつも住んでいる所」、言うなればあなたの住所です。やはり人の生き方に関係があります。

こうした古語の意味合いは現在の用法から薄れてしまいましたが、今でも比喩的な表現の中に、意味の変遷の跡を垣間見ることができます。例えば「どんなストーリーと共に暮らしていますか?」とか、「あなたの心に宿る物語とは?」「あなたの心を占めているものは何だろう?」というように。

私たちが人生で出会うストーリーは、私たちの心にうったえかけ、心に届いたストーリーに私たちの意識が共感します。つまり心の耳で聴き、心の声で呼応するのです。ストーリーのなかには私たちを傷つけるものもあれば、癒すものもあります。

癒しを目的に対話を行う慣習は、おそらく、人類が文字記録を始める遥か以前からあったと思われますが、20世紀に入ってからは、こうした対話の一部が「トークセラピー」という形で記録されてきました。

トークセラピーは、文字通り「語り(ナラティブ)による癒し」です(ナラティブはラテン語のnarrareから、セラピーはギリシャ語のtherapeiaから派生)。けれどもトークセラピーは、通例、相談者が「語る(自分が抱えている問題を話す)」ことで癒される可能性を大前提としているため、たとえ相談者の認識に歪んだ論理が見られようと、潜在意識に深く根を下ろしている筋書きがあろうと、本人が話す内容に大きく依存します。

コミュニケーション科学が専門の私は、「話すことにはどんな働きがあって、癒しをもたらすのだろう? どんな話が癒しにつながるのだろうか?」という疑問を持ち、それをきっかけに、対話型コーチングの働きを解き明かすための研究に乗り出しました。それが、10年にわたる大プロジェクトとなったのです。

合計1万時間を優に超える会話のレコーディングを分析して単純な事実に気づき、結果として私自身のコーチングの方法を根本的に変え、さらに、コーチを育成する立場にある者として教授法も書き直すこととなりました。

その気づきとは、「癒しにならないナラティブもある!」ということです。

「話したら癒される」(トークセラピー)と決めてかからずに、「癒しになる話し合い」(セラピューティックトーク)を目指さなくてはいけません。ときには、対話しながら、癒しにつながるナラティブを紡いでいく必要もありそうです。

頭がこんがらがりそうですが、この方向性が正しいとして、では、どうすれば癒しをもたらすナラティブを見分けられるのでしょうか。それを対話の中でどうやって紡げばよいのでしょう。

そう、対話に潜む魔法の力はそこにあるのです。2人の人が会話を始めると、まるで「アブラカダブラ、我らが口より出づる言葉で物語を紡げ!」と呪文をかけたようにストーリーが流れ始め、言葉の意味が共有されて2人のストーリーが合流します。向き合って座る2人の間の空間に、ストーリーが展開するのです。小さな支流のようなエピソードが次々に語られ、聴かれ、目前に繰り広げられます。

両者は、互いのやりとりから生まれて変容を続けるストーリーの共著者であると同時に、ストーリーが自ずと立ち上がる過程の傍観者でもあるのです。どうりで、私たちはよく「どうしてこんな話になったんだっけ?」と不思議に思うわけです。

本書の出発点は、たぶんそこにあったのだと思います。

度々脱線し、話の出口を見失い、自ら語る話の途中で迷子になってしまう人がいるいっぽうで、話が逸れても難なくまた軌道に戻り、近道を見つけ、そればかりか、まだ馴染みのない領域に道を拓いていく人もいます。その違いは、どこから来るのでしょうか。

私は、様々な人が話してくれる、とりとめのないストーリーの流れを追う経験を重ねるうちに、いとも単純な図にたどり着きました。「リスニング・コンパス(聴き方の羅針盤)」です。この図には、中央で交差する縦軸と横軸があります。横軸は過去から未来への時間軸。縦軸は、横軸を境に上部がポジティブな内容、下部がネガティブな内容を示します。人が自分について語る内容は、たいてい「過去」か「未来」のどちらかに属し、また「望ましいもの」か「望ましくないもの」のどちらかに属します(図の左から右に向かって過去から未来に移り、上から下に向かって望ましさの度合いが下がります)。

時計と反対回りに右上から順に、4つの領域(象限)は次のようになります。

  1. 望ましい未来
  2. 充実した過去
  3. 辛かった過去
  4. 望ましくない未来

あなたのストーリーは、主にどこを住処にしているでしょうか。もし、辛かった過去(第3象限)や望ましくない未来(第4象限)があなたの足枷になっているなら、一番近い出口はどこでしょう。望ましい未来(第1象限)や充実した過去(第2象限)への近道はあるでしょうか。あなたはどこに住みたいと思いますか。

会話の舵取りをマスターするのは、決して至難の業ではないのです。私が万単位の時間を費やし、その成果として博士号を得た研究に基づいて自信を持って申し上げますが、どうやら、対話によるストーリー作りの基本は、「ごくふつうの言葉をポジティブに使う」という、いたってシンプルなことなのです。

というわけで、「アルファベットを覚えるくらい簡単!」という熱いメッセージを本書に託しました。本書を読んでくださったあなたが、自分自身とも周りの人とも、今までと違う話し方で会話するようになれば、それほど嬉しいことはありません。時間に余裕のない毎日を送っている読者を意識して、ちょっと一息入れる合間にも読める構成にしてあります。逆に、人生の転機を迎えて小休止中の読者には、学びのための長期休暇サバティカルの教材として役立ててもらえるように、各章末に「自己対話のためのヒント」を添えて、休憩時間に利用できるようにしました。

あなたも、本書に登場する様々なストーリーを頭に描き、そこから得た気づきや学びを心に留め、自己対話の課題に取り組んで、毎日の会話を、ぜひ今までと違ったものにしませんか。何と言っても、あなたの会話は、あなたが一生を過ごす住まいなのですから。
(コーチ・エィにて抜粋編集)

続きはこちら

変革的コーチング 5つの基本手法と3つの脳内習慣

未来を変えるコーチング

著者: ヘスン・ムーン
発行日: 2023年6月23日
出版元: ディスカヴァー・トゥエンティワン


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