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デジタル時代のリーダーが求められる資質とは

【原文】The Enabling Power of Trust
デジタル時代のリーダーが求められる資質とは
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デジタル時代において効果的なリーダーシップを実現するには、現在正しいと考えられていることと、将来正しいとされることの間にあるギャップを埋める必要がある。

デジタル・エコノミーにおいて優れたリーダーとなるには、何が必要だろうか?次世代の組織を効果的にリードするのに必要なスキルセット(求められる行動)やマインドセット(求められる考え方や態度)は何だろうか?私たちは『MITスローン・マネジメント・レビュー』の最新のビッグ・アイデア構想で紹介される「デジタル・エコノミーにおける将来のリーダーシップ」の基礎とすべく、これらの重要な問いについて検討した。

将来のことを確実に知ることは不可能である。そのため、私たちはまず、将来のリーダーが持つスキルや特性がどのようなものになるか、仮説を立てるところから始めた。その仮説を、私たちは最初のブログ記事「10年後のリーダーシップとは("Leading Into the Future")」で紹介した。その記事では、「状況に即した要素」(デジタル・エコノミーの目的に合った資質)とリーダーシップを支える本質的な要素(組織の文化構造を作り出すきわめて重要な資質)の両方があることを指摘した。これらの2つの要素は、デジタル・エコノミーにおける優れたリーダーシップがどのようなものになるかを定義するうえで役立つと私たちは考えている。

出だしは好調だった。しかし、この試みは不十分なものであった。現在正しいと考えられていることと、将来正しいとされることの間にあるギャップを埋めなければならないからである。このギャップを埋めるため、私たちはすぐさま、世界中の数千人の現役マネージャーやリーダーを対象に調査を実施し、この問題に関する意見を集めた。また、CEO、経営幹部、デジタル化責任者、上級ラインリーダー、部門リーダーや、その他のあらゆるデジタル分野のソートリーダー(先進的な考えを主導するリーダー)を対象に、詳細なインタビューを行った。

将来のリーダーに求められる資質 トップ10

今日、どの経営カンファレンスに参加しても、将来のリーダーの資質に関するおなじみの流行語を嫌というほど耳にするだろう。私たちは、このプロジェクトを導く仮説を検証するために、将来のリーダーに求められる資質トップ10を独自に考案したうえで、デジタル・エコノミーにおける効果的なリーダーシップに関する私たちの考えが、調査の回答とインタビューした人々の考えにどれだけ近いかを検討した。以下のリストが皆さんのリストにどれだけ近いか、ぜひ教えていただきたい。

  1. 変化への対応力:より迅速、効果的かつ効率的に物事を実行するためにリソースを動員する能力
  2. イノベーションの管理能力:小さな試みを頻繁に行い、短い期間で失敗と学習を繰り返す能力
  3. 優れた実践力:ビジョンが効果を発揮するのは、顧客価値の向上のためにビジョンを実行した場合のみである
  4. 技術的/分析的知識:分析とデザイン思考の力を理解している
  5. 関係性の育成力:ネットワークを最適化し、エコシステム・パートナーを受け入れ、協力して成功をつかんでいる
  6. エンゲージメントの促進力:チームのエネルギーを解き放つ能力。次世代の人材はそれ以外の方法ではエネルギーを発揮できない
  7. ありのままの自分でいる:自分自信を知り、ありのままの自分で毎日働く
  8. 共感力:多様性を受け入れ、活用しているチームをリードするには、新しい視点やアプローチが求められる
  9. 反対意見と透明性の促進力:互いに協力してあらゆる問題解決の糸口を探る
  10. 明確なコミュニケーション力:はっきりとした率直なコミュニケーションを頻繁に行い、かつコミュニケーションを魅力的なものにする

マインドセットがスキルセットを支える

このリストは皆さんのリストに非常に近いのではないかと思う。しかし、望ましいリーダーの資質をすらすらとあげることと、これらの資質を促進して従業員に定着させ、将来のリーダーを育成する方法を理解することは、まったく異なる。そこで、私たちの仮説に次の後半部分を加えなければならない。その部分とは、「デジタル・エコノミーに不可欠であると見なされるリーダーシップ・スキルセットは、リーダーシップ・マインドセットによる支えがない限り、発達する見込みはほとんどない」というものだ。ここでいうリーダーシップ・マインドセットとは、新しい行動が企業の中で標準的な行動となることを促すものである。

これはつまり、企業のリーダーによってイノベーションが尊重されモデル化されていない場合、従業員からイノベーションが生まれる見込みが低くなるということである。そこで私たちは、デジタル・エコノミーにおいて効果的にリーダーシップを発揮するうえできわめて重要な4つのマインドセットを割り出した。困難な新しいスキルセットの獲得に加えて、デジタル・エコノミーのリーダーは、毎日従業員の前に姿を見せて、以下の4つのマインドセットを示して、組織を方向付けなければならない。

「成果の重視 (results focused)」
「回復力の獲得 (resiliency wired)」
「目的中心 (purpose driven)」
「信頼の重視 (trust based)」

さらに、組織内でこれらのマインドセットを積極的に育てる必要がある。

なぜ4つのマインドセットが重要なのか

  • <成果>顧客ロイヤルティは急速に古臭い考えになりつつある。一方、優れた成果の達成が流行遅れになることはない。
  • <回復力>あなたのビジネスモデルがどれだけ優れたものでも、それを時代遅れのものにしようと励んでいる人々が確実に存在する。
  • <目的>優秀な次世代の人々にやる気を与えるのは、仕事の面白さだけでなく、自分の仕事で世界がより良い場所になるという感覚である。
  • <信頼>信頼が重視されている環境ならば、危険を冒したり、新しいことに挑戦したり、考えを表明したりする際に、安心感が得られる。

一見したところ、先にあげたスキルセットとマインドセットは、ビジネスモデルのデジタル化のレベルにかかわらず、どの企業にとっても重要なものに見える。そこで、「信頼」のマインドセットをさらに詳しく検討し、デジタル・エコノミーにおいて効果的なリーダーシップを発揮するうえで、なぜこれが重要かを説明しよう。スキルセットとその他の3つのマインドセットについては、今後の記事で取り上げる予定なので、ぜひそちらもご覧いただきたい。

信頼の価値

中国のインターネット・ソーシャルメディア大手、テンセント(Tencent)社のシニア・アドバイザー兼執行役員を務めるアーサー・ヤン(Arthur Yeung)氏は、次のように述べている。「テンセントはデジタル企業として誕生したが、破壊的革新や変革がもたらす課題に常に悩まされている。テクノロジーは非常に短期間で、タイピングからタッチへ、音声から思考へと進化した。私たちは、インターネットは主に消費者のためのものだと考えるようになった」(テンセント社は世界最大級のオンラインゲーム会社であり、同社のメッセージ・アプリのウィーチャット(WeChat)とQQは中国のユーザー・コミュニティを独占している)。

ヤン氏はさらに次のように言っている。「一方で、業務効率を高め顧客との関係を深めるチャンスを新たに発見した。私たちはABC、つまり人工知能、ビッグデータ、クラウドについて検討しなければならない。」しかし、B2CからB2Bのビジネスモデルに切り替えることで、さまざまなリスクや課題が生じることになる。同社の人材の考え方を、迅速なイノベーションや実験を重視するマインドセットに変えることができる保証は少しもない。

ヤン氏は次のように語っている。「これまで企業では、事業を成功させるために、標準化されたプロセスを構築したり、5年間の長期計画を策定したり、その計画を実行する人材を管理するための制度を作ることを得意とするリーダーを雇うのが普通だった。しかし、現代のデジタル・エコノミーにおいては、創造的な思考、俊敏性やスピードを促進するイノベーション志向の文化を生み出すことができるリーダーを雇う必要がある。そのためには、信頼や能力の発揮を支える強固な基盤を構築しなければならない。」

ヤン氏の指摘はもっともである。テンセント社の従業員は、自社がB2Bの世界に進出していくにつれて、自分のスキルが不足する可能性があることを認めるだろうか?社内でキャリアを積み、評価を上げてきたリーダーたちは、デジタルスキルを高める必要があると認めれば、会社から見捨てられることはないということを信じるだろうか?

ヤン氏はさらに次のように述べている。「テンセントでは従業員に対して、命令を受けて働くのではなく、経営者の立場で考えることを奨励している。新しいチャンスを生み出そうとする情熱や自主性を失い始めている従業員がいたとしたら、その人はこれから先、わが社にいても必要とされないだろう。しかし、積極的に挑戦して成長を目指すならば、私たちは投資を惜しまない。従業員が会社を信頼するならば、会社も従業員を信頼する。」

信頼が通貨のように行き渡る

また、私たちはハリオルフ・ウェンツラー(Hariolf Wenzler)氏とも話した。ウェンツラー氏はベーカー&マッケンジー(Baker McKenzie)のドイツおよびオーストリア事務所の最高戦略責任者を務め、同社が新たに立ち上げたイノベーション・ハブの責任者を担当しているほか、同社の新しい取り組みである「ReInvent Law」のリーダーの一人でもある。デジタル企業として誕生したテンセント社とは異なり、ほとんどの法律事務所は、ご想像のとおり、古くから受け継がれた標準化された方法で業務を遂行している。そして、このような標準化された業務遂行方法が、標準化された働き方や、革新を試みる人々をぞんざいに扱う文化を生んできた。

ベーカー&マッケンジー法律事務所では、AIと機械学習の登場により業界が根本的に変わると考えていた。すばらしいことに、同事務所の経営陣は、業界の根本的な変化の兆しを感じ取り、かなり前から「将来の弁護士(Lawyer of the future)」を求めていた。しかし、テンセント社の変革はビジネスモデル中心のものであるのに対し、ベーカー&マッケンジー法律事務所の変革は文化を中心としたものである。ウェンツラー氏は同事務所の将来のリーダーに求められる資質について、業界のデジタル化を踏まえて次のように考察している。

「ミレニアルズの考え方、行動の仕方、価値観を注意深く観察すると、優れた見識が得られる。彼らは自分の声を聞いてほしいと思っている。また、透明性の高い環境で働きたいと考え、しかも徹底的な透明性を求めている。しかし、徹底的な透明性を確保するには、根本的な信頼の文化を築かなければならないことを理解する必要がある。信頼が通貨のように行き渡っていなければならない。若い弁護士が、もっと優れた革新的なサービス提供方法があると思っても、現状に異議を唱えたら上司に嫌われるかもしれないと心配したとしたら、果たして自分の意見を率直に話すだろうか?私たちの責務は、これまでは報酬を請求できる時間数を稼ぐことであった。古い考え方や働き方から脱却するためには、新しい責務、つまり互いの信頼を深めることが必要である。」

この2社の例が示しているとおり、デジタル・エコノミーにおいて効果的なリーダーシップを発揮するために必要な新しいスキルセット(スピード、実験、デザイン思考、共感力など)の習得を促進するには、中核的なリーダーシップ・マインドセット(成果の重視、回復力の獲得、目的中心、信頼の重視)を根付かせることが重要である。

筆者について

ダグラス・A. レディ(Douglas A. Ready)氏は、MITスローン経営大学院における組織論の上級講師であり、国際エグゼクティブ開発研究協会(ICEDR)の創設者兼CEO、そして、『MITスローン・マネジメント・レビュー』の客員編集者を務める。

【原文】The Enabling Power of Trust
(2018年12月5日に『MITスローン・マネジメント・レビュー』に掲載された記事の翻訳。同機関の許可を得て翻訳・掲載しています。)
Used with permission from MIT Sloan Management Review. All rights reserved.
https://sloanreview.mit.edu


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