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「責任」についてリーダーが誤解していること
2023年08月22日
効果的なリーダーシップとは、責任を与えることでも、責任をとることでもない。責任を分かち合うことである。
「社員にはアカウンタブル(当事者意識を持つ姿勢)でいて欲しいし、経営陣の指示を待たずに行動してほしい。会社が直面するめまぐるしい変化と不透明な状況をくぐり抜け、社員が互いに助け合って進んでいかなければならない」。経営幹部がこのような話をすると、私は楽観的な気持ちになる。これこそグローバル企業が必要としているものだ。つまり、責任を分担し、当事者意識を現場に根づかせる必要性を理解しているリーダーである。業績を伸ばし、社員満足度を上げることに寄与するのは、こうしたリーダーの資質である。
リーダーは「質問する」か「質問に答える」ことで責任を示す
ただ、責任の分担が必要と分かっていても、自らが責任を示すとはどういうことかリーダー自身が理解できていなければ不十分である。リーダーは、質問するか、もしくは質問に答えることを通して自ら責任を示すことができる。多くのリーダーは、このうち少なくともひとつのプロセスを正しく行っている。社員からの質問に答えれば、信頼できる頼もしいリーダーであることを示せると思っているからである。これは決して的外れとはいえない。責任(responsibility)という言葉は、「反応する」や「答える」という意味のラテン語responsから派生しているからだ。残念ながら、リーダーが質問をしないと、社員も同様に、信頼でき頼もしい存在であることを示すことができない。これでは現場に責任を持たせたいと思っていてもうまくいかない。
様々な言語文化圏に生きる人々、とくに子どもと教師が責任を分かち合うために質問をどのように活用しているのか調査したことがある。その結果、自分の責任を示し、相手にも責任を担うよう促すために質問を利用する3つの基本的な方法があることが分かった。1番目の方法は、質問者とその質問の意図に焦点を当てる。2番目の方法は、質問に答える側が回答する責任である。そして最も重要な3番目の方法は、質問と回答を交代に行いながら相互に責任を醸成していくことである。リーダーはこれらの方法を理解し、とくに3番目を重視しながら3つの質問方法を意識的に切り替えることによって、企業の成功に全社員が責任を持つ組織文化をつちかうことができるようになる。
多くのリーダーが重視しているのは「質問に答えること」
ところが、リーダーの中には2番目の方法しか念頭にない人が多い。過去15年間、私は大規模な組織の中の非公式なコミュニケーションや行動のパターンについて、互いに相手に質問してもらう手法を用いて調査してきた。様々な業界を代表する数百社の企業を調査したが、リーダーには共通するひとつの特徴があるようだ。自分が質問するよりも、質問に答えようとするのである。某大手製造企業の最近の例では、ある幹部社員は合計31もの質問を受けて答えていたが、自分からは9つしか質問していなかった。
質問に答えることを偏重する傾向はほとんどの企業に見られ、そこから一般的なリーダーシップの文化が垣間見えてくる。つまり、リーダーは質問するよりも質問に答えるほうを優先するだけでなく、迅速かつ正確に答えられることに満足し、逆に時間の余裕がないなどの理由で部下や上司に十分な答えを与えられないと恥ずかしいと思うのである。先だって、別の製造企業の経営幹部が、自身の経営チームと私にこのように打ち明けた。「この組織分析は私のせいだ。結果を聞くのがずっと恐かった。数多くの質問をもらったがそれに答えられず、みんなを失望させたことがわかっているから」。彼女は自分が「質問しなかった」ことについては、一度も考えなかった。自分が質問に「答えなかった」ということだけが気がかりだったのだ。
責任の分担を明らかにする3つの問い
前回のstrategy+businessの記事では、魔法の質問トライアングルを紹介した。その前提となるのは、質問するとき、私たちはまず自分の立場を考え、次に互いにつながり、それから共通の目的にコミットする能力を自動的に働かせる、というものである。この3段階のアプローチは、以下に示す質問を使って責任を分担する3つの方法と相関している。
<責任を分担する3つの方法>
1. 「私に(正しい答えを知っている)責任がある」
リーダーが自ら責任を引き受けるために質問する場合、その考え方、話し方、行動において中心となるのは自分である(上図の1(左側)を参照)。この場合、リーダーが投げかける質問はクイズや試験の設問のように相手も自分と同じ視点で世界を見ているか確認することを目的とする。たとえば、「優れたマーケティングキャンペーンを構成する要素は何か?」といった質問である。
母国語で授業を受ける生徒を対象とした私の観察調査では、教師の質問の仕方で、子どもたちに期待される行動が伝わっていた。たとえばある場面では、質問する先生を生徒全員がじっと見ていた。子どもたちは先生が質問について説明してくれるだけでなく、正しい答えも出してくれると期待していたのである。質問をすることによって自分で責任を担おうとするリーダーの場合、社員が気軽に自分から質問したり、自分たちの視点や意見を話してくれることは期待できないだろう。
2. 「あなたに(自分の答えを出す)責任がある」
リーダーが相手に責任を担わせるために質問する場合、リーダーは、相手がそれぞれ自分なりの答えを見つけ、自分で決断を下さなければならないと示唆するように考え、話し、行動する(上図の2(中央)を参照)。この場合、リーダーが投げかける問いはコーチングの質問であり、相手が内省し、自分が正しいと思うことに従って行動することを促すことを目的とする。たとえば、「同僚たちともっと協力するには、自分の行動をどう変えればよいか?」といった問いである。
一部の文化圏では、この種の質問が明らかに好まれている。たとえばデンマークでは、教師が質問するとき、クラス全員に対してではなく、自分の学習と能力開発に自ら責任を持って取り組むと思われるひとりないし数人の生徒に向けられるのが一般的である。こうした質問形式を好むリーダーは、会社やチームの成功に何が重要かという点で社員の足並みが揃うものと思ってはいけない。誰もが自分のプロジェクトや自分にとって重要なことをうまくやることを考えているからである。
3. 「私たちに(協力して最善の答えを出す)責任がある」
メンバー間で責任を共有することを強化するためにリーダーが質問する場合、リーダーはまるですべての人が既に同じ認識を持っているかのように考え、話し、行動する(上図の3(右側)を参照)。この場合、リーダーが尋ねる問いは課題が絞られており、すべての人が同じことについて同時に集中することを狙いとしている。教室での観察調査では、この方法を使う教師は、自分や特定の生徒だけに注目したりしない。その代わり、全員がその課題に注目し、それに貢献することを期待する。たとえば、「当社のバリューチェーンを改善するのに役立つことは何だと思うか?」といった問いである。
誰を質問の主語にするかで行動が変わる
32社の社員を対象とする15,893個の質問の影響を調べたプロジェクトでは、質問に「あなた(you)」を使った場合と「私たち(we)」を使った場合では、質問された人の行動が大きく異なることがわかった。「私たち(we)」を使った質問は回答率が高いだけでなく、平均的な回答よりも長く、情報量も多く、自発的で肯定的な回答が引き出されており、そこからさらに新しい質問や対話にも発展していた。それとは対照的に「私(I)」を使った質問にはほとんど回答はなく、議論に至ることもなかった。
その理由は、リーダーがどの代名詞を使うかで、誰が責任を引き受けるのかが示唆されるからである。「私(I/me)」と「あなた(you)」の間には明確な線引きがあるが、「私たち(we)」を使えば、互いにつながり、共通の目的に向かって取り組み、責任を分かち合う可能性が高くなる。
常に変化する世界の中で責任ある行動のお手本を示すよい方法は、小さなことでよいから、リーダーがやり方を変えてみることだ。たとえば、質問されたことのすべてに自分で答えたくなる気持ちを抑え、いくつかの質問については他の人々にも考えてもらい、一緒に答えを探すのも一案である。それができれば、リーダー自身(「私」)と社員(「あなた」)との間に溝ができる心配はない。「私たち」を使えば、みんながそれぞれ貢献して取り組むことができる。
こうしたことはリーダーの言動のごく小さな変化にすぎないと思われるかもしれないが、責任をどうとらえ、どう果たすかについて会社全体で大きな変化が生まれる可能性がある。「私たち(we)」を使った質問をすることで、リーダーは自分が責任について理解していることを社員に示せるだけでなく、全員が会話を前に進めなければならないと感じる意識を生み出すことができる。社員にアカウンタブルになって欲しいと思うのであれば、リーダーは、会話を自分で締めくくらず、あるいは自分が答えを出したり、または出さなかったりすることで話を終わらせないように努めるべきである。社員から解決策を出してもらいたいのであれば、リーダーは、自分がその場で一番物知りと思われなくても、自分で解決策を出すのは控えるべきである。そして、会社が直面するめまぐるしい変化と不透明な状況を社員たちが互いに協力してくぐり抜けていくことを望むのであれば、リーダーは自分を最高の権威として自分だけで責任を引き受けるよりも、責任を分かち合う必要性を優先させるべきである。
社員から受けた質問に全部答えられなかったことを心配していた経営幹部と組織分析を見直していたとき、私は彼女に「良かったね」と言った。これから彼女が社員と議論しながら答えを見つけていけば、責任を分担して問題解決に取り組めるようになる。ありあまるほど時間や知識を持っている人などはいない。だからこそ、すべてに答えられないことを誰も恥とは思わない文化を一緒に作りあげていかなくてはならない。
【筆者について】
ピア・ロウリッツェン(Pia Lauritzen)氏は、経営者のアドバイザーであり、戦略的アライメントを確保するためのプラットフォームを開発したテクノロジー企業、Qvestの共同設立者でもある。デンマーク出身で、哲学の博士号を持ち、リーダーシップと質問に関する複数の本を執筆しているほか、デンマーク最大のビジネス新聞「Finans」の定期コラムニストも務めている。2019年のTEDxでの講演タイトルは 「質問についてあなたが知らないこと」である。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】What leaders get wrong about responsibility
(2023年3月6日のstrategy+business magazineに掲載された記事の翻訳。 strategy+business magazineの許可を得て翻訳・掲載しています。)
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