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あなたの前進を妨げるひと言とは?
2024年02月06日
クライアントの皆さんはたいてい、好ましくない現状に関してどうしたいのか、何を変えたいのかについてははっきりとしている。ただ、それからあの恐ろしい言葉を口にする。
でも(But)...
先日、私がコーチングのデモをした女性は、一言口にするたびに〈But〉を挟んで話していた。「自分がしたいこと、しなければならないことを話したあとで、必ず『でも』とおっしゃいますね。気づいてます?」と、私がその癖を指摘すると、彼女は気まずそうに目をそらし、それから私の方を見て、またも〈But〉と言いそうになった。彼女は笑みを浮かべ、笑い声をあげ、私に訊いた。「それで(And)、私は何を変えられるかしら?」
私は「代わりの言葉を見つけたようですね」と言った。
その後のやりとりは、彼女が〈But〉を口にしないように気をつけ、何度も〈And〉に言い直したりするので、途切れ途切れになった。彼女は言い直そうとするたびに笑顔を見せた。ものごとを制限する言葉である〈But〉に彼女が気づいたことや、会話を続けようとする前向きな気持ちもあったので、私たちは彼女が何を恐れているかを明確にし、大きなリスクではない今すぐ踏み出せる小さな一歩を見つけ、また彼女が自信をもって夢の実現に向かって進むためにこの視点がどう役立つのかを理解することができた。
〈BUT〉に潜む意味
〈But〉という言葉は、その人の脳がリスクを冒さないよう、気まずい思いをしないよう、あるいは失敗して挫折感を味わうことがないように素早くいろいろな理由を持ち出していることを示している。〈But〉の後に続くのはあなたの恐れや、あなたを制限する思いである。
脳の第一の目的は、あなたの安全と生命を維持することである。眠っているときも起きているときも、脳は常にあなたに害が及ばないか警戒している。
このため、自分の行動の結果を考えるときに、良いことよりも脅威や悪いシナリオばかりが気になってしまう。未来を考えるとき、この保護するレンズを通して見ることになる。すると脳は、想定される悪い事態を余すことなく列挙し、最悪のシナリオばかりを強調する。
最近話をしたクライアントは、もっと責任を持たせてほしいと上司に言うタイミングがつかめずにいた。その要求をしない言い訳が必ず出てくるのだ。そこで私は「あなたが自分の希望を話した場合、想定される最悪の事態は何ですか?」と訊いた。上司の仕事を奪おうとしていると思われたくないという。「仮に上司がそう思ったらどうなりますか?」と訊くと、彼女はまず、上司がそのように思うことはないだろうと認めた。そして、もしそう思ったとしても、うまく自分の要求をはぐらかすことができるからその点は心配ないと答えた。
最後に「一番恐れているのは何を失うことですか?」と質問してみると、次々と出てきた。「信用、今の仕事、上司に罪悪感を抱かせたら距離を置かれるかも......それにもっと責任を持つといっても私にはまだ無理かもしれないし」
言い訳が出尽くしたところで、私たちはそれぞれの現実性を吟味した。悪い結果になる可能性はどのくらいか? もしそうなったら、どうすればよいか? 結局のところ、私のクライアントは要求しない正当な理由を見つけられなかった。
人の前進を妨げる恐れは、ほとんどの場合、自分に対する敬意や信用、地位、存在感、好感度、愛情等々を失うのではないかという恐れである。屈辱感や気まずさを味わったり、自分が愚かに見えたり、間違えたり、拒絶されたりするのを避けたいのである。
その結果、取るべき行動を考えるよりも、行動しない言い訳に時間を費やすことになる。
〈But〉という言葉を使うと、リスクをあまりとらず、重要な変化を先延ばしにすることができる。人と親密にならず、提案に抵抗し、現状維持を正当化し、薬や無意味な娯楽で脳を麻痺させ、そのうち機会を発見し、多様な視点を持つ能力が低下していく。
新しいことに向き合うためには恐れを認めること
新しい可能性に目を向け、耳を傾けるには、まずは自分の内なる恐怖心を認める必要がある。正直になること。そして、徹底すること。自分では気づいていないが、あなたの選択を左右している小さな恐怖心がないだろうか。明らかに非合理な恐怖心であってもそれらを列挙しよう。脳は何としてでもあなたを守ろうとするから、小さくてもあなたを支配する恐怖心が心の中でいつも火花を散らしている。こうした反応は理屈とは関係ないのである。
次のように自問してみよう。
- 積極的に新しいことに挑戦したり、この問題について自分の考えを述べたりしているか?
- そうでないなら、どのような感情が私を引き留めているのか? 恐怖心、罪悪感、恥ずかしさ、怒り?
- 本当に失いたくないものは何か(「自分の感情の引き金を発見する」)―自分が正しいこと、自分が重要と感じること、人に好かれること? あるいは何を奪われると思っているのだろうか―敬意、愛情、注目、尊厳?
- 面目をなくすことを恐れるよりも、自分を受け入れ、自分自身の強みや価値を考えようとしているか? そうであるなら、そのような強い精神状態になるには何が必要か?
- 個人的には何も心配がなければ、どうするだろうか? もし〈But〉がなかったら?
- 勇気があったら、どんな決断を下すだろうか?
過保護な脳を出し抜くための第一歩は、自己認識である。自分の脳が何をしているかを知ることだ。最初の選択を疑い、他に選択肢がないか確かめよう。そして自分にとって最も善い行動を選ぼう。
【筆者について】
マーシャ・レイノルズ博士(Dr. Marcia Reynolds)は、コーチングを通して世界各地の企業の幹部育成をサポートし、実績を上げている。クライアントは、多国籍企業、非営利団体、政府機関のエグゼクティブや将来の幹部候補生である。また、世界各地で開催されているコーチングやリーダーシップに関するカンファレンスで講演し、43カ国でリーダー向けの講座を担当し、コーチングを行っている。調査機関グローバル・グルス(Global Gurus)で世界5位のコーチに選ばれ、さらに国際コーチング連盟が選出している10名のThe Circle of Distinctionの一人でもある。
医療分野でのコーチング経験も豊富で、ヘルスケア・コーチング・インスティテュートのトレーニングディレクターを務め、総合病院、クリニック、大手製薬会社などで25年にわたり数多くのリーダーにコーチングを提供している。
また、彼女は国際コーチング連盟(ICF)の 歴代5番目のグローバル・チェアマンであり、世界で最初のICFマスター認定コーチ (MCC) になった25人のうちの1人である。組織心理学の博士号、および、教育とコミュニケーション分野における修士号を取得している。
著書に、"Coach The Person, Not the Problem"(邦訳:『変革的コーチング』), "Outsmart Your Brain", "The Discomfort Zone: How Leaders Turn Difficult Conversations into Breakthroughs"などがある。
【翻訳】Hello, Coaching! 編集部
【原文】The One Word That is Holding You Back(レイノルズ博士のウェブサイトCONVISIONINGに掲載された、2022年5月17日の記事を許可を得て翻訳。)
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