プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


アメリカ式コーチングで日本の競泳界を強くする
大阪体育大学水泳部コーチ 浅野晃平 氏

第2章 帰国後の挑戦

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第2章 帰国後の挑戦
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大阪の枚方スイミングスクールのコーチから、単身でアメリカのスイミングクラブの名門PASA(パサ)に乗り込み、外国人として初めてスイミングコーチとして就労ビザを取得した浅野氏。

8年間にわたるアメリカ滞在期間に、浅野氏が肌で感じたアメリカの水泳界におけるコーチング、日米の違い、日本の水泳界の展望についてお話をうかがいました。

第1章 アメリカで見たコーチングとは
第2章 帰国後の挑戦
第3章 日本の水泳界を発信型にしていく

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

関係構築から始まった新しいキャリア

アメリカで8年間過ごした後、2017年に日本に帰られてからは、どのようなことをされているのでしょうか。

浅野 大阪体育大学水上競技部 監督の尾関先生から話を頂き、伝統ある、大阪体育大学女子部の指導・コーチングが今の仕事です。

大学の教員として指導されているのでしょうか。

浅野 大学の「職員」という立場で、専属水泳コーチです。

専属コーチ。しかも大阪体育大で。

浅野 はい。プレッシャーがあって怖いです。目立った成果をあげないといけないので(笑)。でも、そのプレッシャーをも楽しんでいます。これが私のメンタルの強さです(笑)。

最初に大阪体育大に入られたときに、どのように、選手と関係性を築いていかれたのでしょうか。

浅野 最初は従来型ではない私の練習方法に対して、選手から「なんだ!?」みたいな反応はありましたよ。戸惑っている選手もいましたし。

その状況をどうやって超えられたのですか?

浅野 やはり、ミーティングとかコミュニケーションですね。あとは、少しずつ結果が出てくると選手たちは目が変わってきます。

どんなコミュニケーションをとられたのでしょうか

浅野 常に話にはジョークを交えて会話しています。でも、もちろん競泳の知識も知ってもらいたいと思っているので、競泳に関するコミュニケーションを最重要視しています。同時に、選手に水泳を好きにさせるプロでもありたいと思っているので、笑わせるのも得意ですよ。アメリカの苦労話など、ネタもたくさんあるので。

泳がずして速くする

大阪体育大では泳がないトレーニングもどんどん取り入れ始めていると聞きました。

浅野 泳がないトレーニングは、積極的にやっています。サッカーはまだやっていませんが、バスケットやレスリングはしています。レスリングはすごくよかったです。腕立てからパッと腹筋に入るとか、相手の探り合いみたいなトレーニングはすごく水泳にいいんです。

戸惑う選手はいないのでしょうか。

浅野 戸惑う人もいますが、逆にみんな水泳以外の方が頑張りますよ(笑)。

このやり方の方が選手は伸びているし、結果も出ています。「泳がずして速くする」とでもいうのでしょうか。選手もその方が集中するんですよ。

「泳がずして速くする」っていいですね。

浅野 それを売りにしたら、いろんな高校生が興味をもつと思うんですよね。大学まで水泳をやっていると、100人中おそらく99人は、泳ぐことが嫌だと思う日が1日はあったと思います。面白くないものをいかに面白くするか、つまらない練習にどのように味をつけるか、効果的にするか。クリエイティブな練習をどうだと見せつける。選手の目が見開くような練習で惹きつけるというのは、私の得意パターンかもしれないです。

変化を楽しむ

コーチングをしながら、どんなところに日本とアメリカの違いを感じていますか。

浅野 全員ではないですが、変えることに強い抵抗がある人が日本には多いです。その部分は変えたいと思っています。私は、「変化を好きになって欲しい」と選手にいつも言っています。たとえば、「コーラだと思って飲んだらコーヒーだった」というような時、「うわぁぁ」と慌てるのが日本の選手。そうではなくて、「あっ、コーヒーだった。おっ、コーヒーもなかなかいいな」みたいな感覚が欲しいんです。

変化や想定外なことも楽しめるというマインドですか。

浅野 そうです。どんなイレギュラーなことでも対応していくことが日本人は弱いと思います。練習、練習、練習、練習、......の果てに、ポキッと折れてしまうような選手もいます。そうではなくて、練習に、野球、バスケット、ラグビー、などを取り入れていくと、いざ水泳をした時のインパクトがある。クロストレーニング的なものですね。そういう多様な練習方法で、競技レベルをもう少しうまく上げていったらいいのではないかと思います。そうすれば、長時間にわたっての練習ばかりしなくても、少しの時間で質が高いものが得られます。

外国人のすごいところは、火事場の馬鹿力をいつでもコントロールできることです。練習で強いのではなくて、本番だけが超強い選手をうまく作れるといいと思います。今、私が教えている選手達はそういうアイデアをうまく取り入れているので、練習は弱いですが、試合ではあり得ないほどの力を発揮します。

「変化を楽しむ」といっても、最初は抵抗があったのではないですか。

浅野 はい。抵抗はありましたね。

そこをどう乗り越えられたのですか。ごり押しだけだと"やらされている感"があると思いますが。

浅野 そうですね。選手が「やらされている」とか「また同じ練習か」と感じてしまう練習は、一番効果が薄いと思います。なので、なるべく選手が飽きないような練習を考えます。アドバイスをして、そのとおり出来たらすぐ褒める。選手からの意見、要望をこちらも素直に聞く。その意見を練習にすぐ反映させるといったことを意識しています。

水泳は、陸上競技と比べると練習に変化がつけにくいイメージがあるのですが、どのように、変化をつけ、味をつけていくのですか。

浅野 たとえば、泳ぐ距離で分けるやり方もあるし、強度もあります。また、水泳には四種目あるので、その切り口で分けたり、道具を使ったり。多分、水泳も練習の変化は無限にできると思います。私は、誰よりも旅をして、誰よりも移動し、世界中のコーチの話を聞いてきました。練習を作るときに、世界中のコーチが私の脳みそを突きながら、「こんな自分の経験だけの練習内容でいいのか?」といつも怒ってきます(笑)

既存の壁を取り外す

それだけ練習に変化をつけられるのはすごいですね。

浅野 他では見たことのないような練習をやっています。すでにあるものではなくて、自分で作ったメニューもあります。コーチが考えて、全く新しい練習を始めると、それだけで選手に強烈なインパクトを与えられます。みんなすごく一生懸命取り組みますよ。そういう、データにとらわれないような試みをしています。データをとることももちろんしますが、選手は数字だけで判断されるのを嫌います。やっぱり技術的なことを教えたいし、泳ぎの変化を見て、褒めてあげたいです。

どういったところでその勘を養われてきたんですか。

浅野 すごいきつくて同じ練習をして、月に1回の測定だけで評価されたら、みんな嫌じゃないですか(笑)? もちろん、結果が明確にわかるので、こうした練習も意味はあります。あ、今日は遅い、今日は速いと。

わかりやすいですよね。

浅野 記録が伸びていると、「じゃあ、またこの練習をやっていこう」となる。でも、長い目で見ると、それが一番蟻地獄にハマると思います。選手は「またこれかよ」となるんです。結局、そういう練習のやり方にはコーチのエゴが出ているんですよ。

でも、データに基づいて効率的にダメなところを伸ばす、という改善ループは回っている気がします。

浅野 そうですね。以前は、私もそのやり方をしつこくやっていました。緻密にデータをとって、練習が終わったらそれをパソコンに打ち込んで、そこから良し悪しを判断して。ドルフィンキックが足りなかったとか 我慢が、持久力が、スピードが、スタミナが、などなど、いろんなことを言っていました。私は嫌なコーチだったと思います(笑)。そして、タイムが遅かったら罰ややり直しを与える時もありました。まさに「コーチが怖いから選手が頑張る」というスタイルです。けれど、やはりそれだとちょっとしか伸びない、ということに気づいたんです。

それよりも、アレンジを加えて、データすらも毎回変えてやってみると、かなり伸び率がいいし、選手も恐れずチャレンジします。私はちょっとずつ伸ばすのは好きじゃないんです。一気にあり得ないくらい伸ばすのが大好きです。

エンターテイメント要素ですね(笑)。

浅野 それが真のコーチングなのだと思います。頭の壁を一気に取り外してあげるというイメージです。それぐらいドラマチックに変えてやれば、選手も「おっ、なんだなんだ!?」と興味を持ってきます。

大阪体育大で指導され始めて、もう変わってきているということですね。

浅野 はい。まだ1年間しか経っていませんが、もうだいぶ「変化を好む」「新しいことを取り込む」が浸透してきていると思います。選手は伸びていますし、結果が出ています。ちょうど大阪体育大学の2018シーズンのスローガンが「超変革」なんですよ。

(次章に続く)

聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

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