プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


アメリカ式コーチングで日本の競泳界を強くする
大阪体育大学水泳部コーチ 浅野晃平 氏

第1回 アメリカで見たコーチングとは

第1回 アメリカで見たコーチングとは
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大阪の枚方スイミングスクールのコーチから、単身でアメリカのスイミングクラブの名門PASA(パサ)に乗り込み、外国人として初めてスイミングコーチとして就労ビザを取得した浅野氏。

8年間にわたるアメリカ滞在期間に、浅野氏が肌で感じたアメリカの水泳界におけるコーチング、日米の違い、日本の水泳界の展望についてお話をうかがいました。

第1回 アメリカで見たコーチングとは
第2回 帰国後の挑戦
第3回 日本の水泳界を発信型にしていく

一流のスイミングコーチになるために単身渡米

枚方スイミングスクールでは、どのような立場でお仕事をされていたのですか。

浅野 成人を教えたり、まったく泳げないお子さん、幼稚園生、年配の方、障害のある方などいろいろな方を教える水泳のインストラクターの仕事と競泳選手を育てる競泳コーチをしていました。ただ、実際には2つの仕事の両立は難しく、本当に熱を注ぎたい競泳コーチ業には専念できませんでした。

そのような環境で、コーチとしてはどのように活躍されていたのですか?

浅野 それでも結果は出せましたし、やりがいはありました。でも、コーチ業を専業としたかったので、この知識をさらに膨らませたいと思い、日本を飛び出しました。

なぜ、アメリカに行くことを選んだのですか?

浅野 もともと勤めていた枚方スイミングスクールでは、少し工夫をすれば自分のチームはすごく強くなりました。でも、それは小学生とか中学生、高校生の話です。世界記録を出すとか、オリンピックのメダルをとるといったことになると、今の知識では限界があるし、この世界で本当に一流になろうと思ったら、やはり海外に行くことがすごく大事だと考えました。

アメリカは、競泳世界一の国です。また、私自身の種目がバタフライで、バタフライを追求するのであれば、思い切ってアメリカの強いところに行きたいと思いました。

他にも何かきっかけとなったことはありますか?

浅野 野口学先生という水泳の先生がいらっしゃるのですが、その方がアメリカのコーチングを現地で学ばれて、発信しているということを知り、格好いいなと思っていたことも後押ししました。

行き先はどのように決められたのでしょうか。

浅野 アメリカの大学で競泳コーチをされている野口学先生とコンタクトを取り、メール、スカイプでやりとりすることができました。その方が、アメリカのスイミングクラブをいくつか紹介してくれた中で、「ここのヘッドコーチがよかった」と薦めてくれたのがスタンフォード大学付属のPASA(パサ)(米国カリフォルニア州)でした。本当に思い切って勢いで行ったのですが、実はそこからアメリカに長く住むことになってしまいました。

PASAというのはどういうところなんでしょうか。

浅野 PASA(パサ)は、スタンフォード大学付属のPALO ALTO STANFORD AQUATICSというスイミングクラブです。プロチームを抱える規模があり、全米で一番勢いがあり、会員数も多いスイミングクラブです。ジュニアナショナルという高校生以下の全米一番のクラブチームを決める大きな大会で、6年連続で男女総合優勝しています。

PASAでは、始めからコーチとしてお仕事をされたのでしょうか。

浅野 初めは勉強だと思い、2008年からボランティアで2年間アシスタントコーチをしました。語学学校にも通いながら学生ビザで過ごしていました。

2010年、もうそろそろ帰国だなと考えていた頃でした。私の尊敬する上司でヘッドコーチのトニーから「よかったら一緒に働いてみないか?PASAにはどうしてもKOHEIが必要なんだ。」と言ってもらえたんです。アメリカで就労ビザをとるのは、非常に難しいのですが、幸運なことに、H1という労働ビザを、「コーチング」のカテゴリーで取得することができたました。そこから、PASAで、コーチングを専業として、選手を成長させるというキャリアが始まりました。

叱る人から褒める人に

アメリカに移られて多分1年目か2年目ぐらいにお会いしたことがありました。あのとき、印象的だったのは、枚方にいたときの浅野さんの厳しい指導が、PASAでは、全然通用しなかったというお話でした。それはどういう変化だったのか、聞かせていただけますか。

浅野 叱ることには限界があると思います。叱りすぎると、叱られた側は、多分壊れてしまいます。壊れなくても、水泳嫌いになるとか、水泳をやめてしまうとか、怪我しやすくなるとか、練習に身が入らなくなる、言い訳が多くなるという状態になります。叱ることが当たり前になっている環境では、恐らくほとんどの人がストレスを抱えながらスポーツをしているのではないかと思います。

しかし、PASAでは、まったく逆のことが起こっていたんです。褒めることには恐らく限界がないんです。もういくら褒めてもいい。選手たちは、縛りなくのびのびと練習していました。それでいてタイムは伸びる、止まらない。その結果、全米で一番強いクラブチームに成長してしまった。それが、私にとっては雷が落ちるほどの衝撃でした。「こういう指導を真似しよう」「日本に持ち帰って伝えたい」とすごく強く思いました。そして、多分そのときから、叱る人から褒める人に自分を完全に変えていったんです。

「褒める」と「叱る」の違い以外に、アメリカでショックを受けたのは他にどんなことですか。

浅野 そうですね。アメリカ人は、人に興味を与える天才だなと思いました。あと、相手の目をガッと開かせるような言葉のチョイスもうまいです。

たとえばどんなチョイスですか。

浅野 たとえば、「よかったね」と普通に言うより「よかったねえぇぇぇっ!!」と大袈裟に言ったり(笑)。そういう表現が実にうまい。表現のテクニックとか、手のアクションも違いますね。

ヘッドコーチのトニーの下で8年間、コーチングやコーチング以外の多くのことを学びました。普段は普通の会話しかしなかったのですが、1回だけ指導のアドバイスをくれたんです。「晃平が日本でもっといいコーチになるには、手のアクションや顔の表情も、要所々々で目を見開くなど、表現を工夫した方がいい」と。そのアドバイスは衝撃を受けましたね。褒め方とか表現の仕方については、日本人は誰も教えてくれないなあと思いました。

日本のスポーツ界におけるコーチングとは、だいぶ違うようですね。

浅野 私が渡米する前の時代のコーチング技法は、威嚇で人を動かすやり方でした。言うことを聞かないと罰も当たり前、歯向かう選手にはも理由も聞かずにとにかく泳がす。そういう指導で周りに注目させるようなところがありました。でも、それは、選手という一人の人間の成長を考えた、真のコーチングではなかったように思います。昔はただ「速く泳げ」と言うだけでついてくる選手もいましたが、今はそういう時代でもないのではないでしょうか。これからはアメリカン・コーチングと日本のコーチングのミックスの時代になるのではないかと私は思っています。

PASAでアメリカの高校生と仲良くなっていく手段として、平日の練習以外に土日も一緒に遊びに行ったりしていたという話をされていました。

浅野 たまにそういうこともしていました。日本でそういうことをすると、「近づきすぎだ」とか、「線を引きなさい」と言われることがあります。一方、アメリカではみんなでカフェに行くということは時々ありました。コーチから無理矢理誘うというのではなくて、ごく普通に仲良くしていました。それには、選手の保護者に、自分のソーシャルスキルとか、「ちゃんとした人ですよ、子ども達と水泳以外の場面でもコミュニケーションをはかれますよ」といったことを見せるという意味もあります。

多彩な練習メニュー

日本とPASAでの練習にはどのような違いがあったのでしょうか。

浅野  日本にいた頃、まわりのコーチの頭の中はひたすら練習、練習、練習でした。年末もクリスマスも夏休みも春休みもゴールデンウイークも競泳づくしです。もちろんそれだけ練習すれば記録は伸びます。でも、アメリカ人の高校生は、泳ぐ距離の少ない技術練習だけで、あり得ないくらい伸びてしまうんです。やっぱり練習自体を楽しんでいるし、水泳が好きなんでしょう。練習を休みにするとコーチが怒られてしまうほど。オフや水泳以外の時間を使うのがうまいんでしょうね。そして、PASAでは、少ない距離で、より頭の中の壁を広げるようないろんな練習を、他競技と組み合わせてやったりするんです。たとえば水泳とボルダリングを一緒にするとか。

えーっ。ボルダリングをやるんですか(笑)。

浅野 そうです。もちろんウェイトトレーニングなどもやりますが、水泳とサッカーといったようなクロストレーニングがたくさんあるんです。

水泳で、たとえば100mを20回泳ぐのと、サッカーを30分するのは、意外と同じような効果があるんです。これは、アメリカではみんな何十年もやっていることです。単純に、サッカーの方が楽しい(笑)。そういう自由さや柔軟な考えも日本で取り入れたいですね。

(次回へ続く)


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