さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。
軽井沢風越学園設立準備財団 理事長 本城慎之介 氏
第4章 さまざまな場での経験を糧にして
2019年03月26日
※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
第1章 | 学校のつくりかた、チームのつくりかた |
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第2章 | 自分を確認して「根」を伸ばした16年 |
第3章 | 「根」が伸びるにつれ見えてきたこと |
第4章 | さまざまな場での経験を糧にして |
本記事は2018年12月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
「遊ぶ」は「学ぶ」。最終回で印象に残ったお話です。本城さんは2009年に軽井沢の「森のようちえんぴっぴ」という幼稚園に出会い、保育士としてぴっぴで働き始めます。本城さんが高校時代の寮生活で得たものや、ぴっぴで働く中で得たものが、新しい学校のコンセプトに活かされているようです。
寮生活で得た3つのコンセプト
寮生活は、具体的にどのようなものだったのでしょうか。
本城 まず、函館ラ・サール高校の寮では、1年生は全員100人ぐらいの大部屋で寝起きをします。体育館みたいなところに二段ベッドがバーッと並んでいる部屋で、カーテンもないんです。
100人が一緒に生活するのですか。
本城 はい。2、3年生になると4人一部屋になりますが、1年生は全員同じ部屋で1年間を過ごします。でも、100人部屋って、実は結構いいんです。たしかに空間的には逃げ場がありませんが、精神的には逃げ場がすごくたくさんあります。
二人部屋だと、同室の相手と合わないと、空間的にも精神的にも逃げ場がありません。
ところが100人部屋なら、隣のやつと仲が悪くなっても、少し離れたところには別のタイプの人がいるわけです。そういうところが僕は精神的にすごく楽でした。
1学年270人ほどでしたが、本当にいろんなやつがいるんです。人口3000人ぐらいの小さな町からきた僕にとっては、もうカルチャーショックです。そうして「世の中は多様なんだ」と学びました。
一方で、「みんなバラバラで多様なんだけど、共通している部分もあるんだ」と感じる場面もたくさんありました。たとえば、消灯時間後に同じタイミングにあちこちでクスクス笑う声がしたりするんです。深夜ラジオ番組をイヤホンで聴いていて、みんな同じところで笑うわけです。それってなんだか豊かなことだなと思いました。
そしてそれは、時間も空間も、みんなと共有しているという実感でもありました。
この寮で学んだ「多様であり、共通であり、そして共有している」という3つのコンセプトは、SFCのような新しい場での活動にもすごく活きました。高校時代に培った価値観をもとにチームをつくったり、学園祭を立ち上げたり、新しい行事をつくったりしました。
「人は人の中で生きていくので、そこでしか学べない」というのは、僕の中でとても大事なコンセプトです。
本城さんがその寮で得られたものは、本当に大きいのですね。お話をうかがっていても伝わってきます。
本城 だからこそ「いつか寮もつくりたい」と思っています。ただ、寮はすごく難しいのです。何が難しいかといえば、運営というか、生活の「場」をつくるという点でしょうか。かなり信頼できるスタッフと一緒に、エネルギーを注がないと実現できない。そうでないと事故が起こります。まずは学校をしっかりつくったうえで、寮の設立にエネルギーを注げるようになった時には、と思っています。
「遊ぶ」に学ぶ
いろいろな場での体験が本城さんの糧となっているのが印象的です。軽井沢では「森のようちえんぴっぴ」で保育をされていたそうですが、その経験はどのようなものだったでしょうか。
本城 「森のようちえんぴっぴ」では、「遊ぶ」ということ、そして、遊ぶ「場」がどんな「場」かということがすごく大事だということを学びました。
遊ぶって、結構たいへんなんですよね。
それはどういうことですか。
現代では「遊び」は親や先生から与えられることが多い。たとえば、「さあ、かくれんぼをしますよ」「はい、次は鬼ごっこですよ」といったように、やることを与えられて遊ぶことが多いんです。それ以外にも、テレビがあって、YouTubeで動画も観られて、ゲーム機もある。生活環境の中に、遊びが規定されるようなものがたくさんあるわけです。だから、与えられないと遊べなくなっている。
ですが、本来の遊びはそういうものではありませんでした。自分たちで「今日は何をしようかなあ」「晴れてるな」「あ、どんぐりが落ちてるな」と考えながら、自分で遊びをつくったり、変えたりしていく。そして「今日はあいつと遊ぼう」と仲間を選んだり、「一緒にやろう」と人を誘ったり、「この遊びは面白いぞ!」と周りにアピールをしたり、ごっこ遊びであれば役決めなどの交渉も始まったりするんです。
「遊び」を考え、つくっていく中で培われる力や感覚、関係性の広がりがある。これって、仕事でやっていることとほとんど同じですよね。
「遊び」についてそのような観点で考えたことがありませんでした。
本城 「森のようちえんぴっぴ」は、幼児期の子どもたちに、年齢の違う子どもたちと外で「遊ぶ」という体験がたっぷりできる場になっています。森の中というのは変化も激しく、不確実性も高く、不安定。いろんなことが起きる場所で「遊び」をつくり出すことに意味があるということを「森のようちえんぴっぴ」で学びました。
そうやって遊んでおくと、自ら学べるようになるんです。実際には遊ぶことが、学びになっているんですけどね。本来なら、10歳ぐらいまではたっぷり遊んでおくのがいいと思うんです。いわゆる「学力」みたいなものを身につけるのは、そこからでも十分なはずです。
2つの日常で豊かになる
最後に、この記事を読んでくださっている方に、軽井沢風越学園についてお伝えになりたいことはありますか。
本城 「2020年4月に幼稚園と小学校と中学校からなる『軽井沢風越学園』という学校が新しくできる」こと、加えるなら「軽井沢は、東京に通勤可能な場所にある」ということでしょうか。つまり宣伝ですね(笑)。
軽井沢は大人が生活する上でもいい場所です。「子どもを育てる環境」というだけではなくて、大人にとっても、日常をちょっと変えてみる、いわば「二つの日常をもってみる」ということになるでしょうか。たとえば、東京での仕事の日常と、ちょっと離れた自然環境の中の日常。その二つをもつことで、それぞれがより豊かになるのではないかと思っています。子どもたちやスタッフとともに混沌を楽しみ、学校づくりに参画してくださる大人との出会いを楽しみにしています。
(了)
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部
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