プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


最高のコーチは、教えない。
千葉ロッテマリーンズ 一軍投手コーチ 吉井理人 氏

第1章 コーチングを学ぶということ

第1章 コーチングを学ぶということ
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現在(2019年4月)、千葉ロッテマリーンズの投手コーチを務める吉井理人さんは、これまで北海道日本ハムファイターズ、福岡ソフトバンクでも一軍投手コーチを務め、チームのリーグ優勝や日本一に貢献しました。その吉井さんが2018年秋に出版した書籍のタイトルは『最高のコーチは、教えない』。

教えずに、どう選手の能力を伸ばしていくのか。本書で紹介されている吉井さんのアプローチは、スポーツにとどまらず、ビジネスパーソンにとっても参考になるものです。

今回は『最高のコーチは、教えない』のご紹介を兼ねて、吉井さんのコーチやコーチングについてのお考えや今後のビジョンなどについてお話を伺いました。

第1回 第1章 コーチングを学ぶということ
第2回 第2章 吉井流コーチングの実践
第3回 第3章 名選手名監督にあらず

第1章 コーチングを学ぶということ

2007年に現役選手を引退し、2008年から北海道日本ハムファイターズのコーチとなった吉井さんは、2014年から筑波大学大学院に進学。コーチングの勉強を始めました。

コーチになって、もっと学びたくなった

選手時代の吉井さんにとって、コーチはどのような存在でしたか。

吉井 当時の僕にとって、コーチは邪魔な存在でした。僕が選手だった時代は、ダメなところを指摘して直すというコーチングがほとんどでしたが、ダメ出しばかりされるので、味方に足を引っ張られているような気分でしたね。選手は「ダメなところ」をわかっているんです。わかっているけどできないから困っている。結果だけを見てものを言うことは、選手にとってプラスに働きません。

選手時代はそもそも自分のことしか考えていなかったので、当時のいいコーチの基準は「自分が機嫌よくできるかどうか」だけ。本にも書きましたが、ニューヨーク・メッツに入団し、ボブ・アポダカコーチに会った時も、「すごいコーチだ!」と思ったわけではありません。「ああ、このコーチだったら邪魔にならないな」という程度だったんです。「コーチングは大事だ」と本気で思うようになったのは、自分がコーチになってからです。

そんな吉井さんがコーチになられたのは、どういう経緯だったのですか。

吉井 最初のきっかけは、エージェントに強く勧められたからです。現役引退を決断するタイミングで北海道日本ハムファイターズから投手コーチ就任の話があり、エージェントから、「仕事のオファーがあるうちにやっておいたほうがいい」と言われ、引き受けることにしました。先ほど話したように、結果だけを見てものを言う人たちは邪魔だと思っていたので、当時はコーチになるのも解説者になるのもいやだと思っていました。信頼しているエージェントが強く勧めるので渋々引き受けたというのが正直なところです。

ただ、実際に始めてみたら、奥が深いものでした。コーチとして選手に関わりながらいつも不安で、自分のコーチングのスタイルに自信をもつことができませんでした。自信をもって選手と会話ができるようになりたいと思い、大学院で勉強することを決めたのです。ただ、具体的なことを学ぶというよりは、そもそも「コーチングってなんだろう?」ということから考えたかった。筑波大学にしたのは、他の元プロ野球選手たちも進学していたからです。

理論を知ることは、選択肢を増やすこと

大学院ではどういうことを学ばれるのでしょうか。

吉井 体のこと、コンディションのこと、栄養、休養といったメンテナンスに関する一連のことや技術的なこと、それから、選手との関わり方を学びます。関わり方というのは、コミュニケーションの取り方、指導の際の伝え方です。たとえば動作についての伝え方でも、野球と陸上では異なります。陸上の場合、「体をこう使えばこうなる」という構造がある程度はっきりしているので、選手への伝え方も「速く」「高く」「遠く」というように比較的シンプルです。バイオメカニクスといった動作の研究から話をもっていきやすい。一方で、野球のように対戦相手がいるスポーツの場合、自分がうまく動くだけでは意味がありませんし、さらにピッチングのように運動の連鎖が必要なものは、部分部分を説明してもうまくいかないことがあります。それをどう伝えていくかといったことを学びます。

コーチングを学んで、ご自身にとって一番意味があったのはどんなことですか。

吉井 指導する際の根拠を手にしたことが大きいです。選手にしても、どうしてそうなるかを論理的に説明されるのと、「いいからやれ」と言われるのでは、受け止め方が違うでしょう。昔ながらの「師匠と弟子」の関係であればそれでいいかもしれませんが、今はもはやそういう時代ではありません。論理だてて説明できる方が、選手との信頼関係も築きやすいのではないかと思います。

学ぶことと、実際にコーチすることは別の話だと思います。理論を実践に移していくというのはどのようなプロセスでしょうか。

吉井 実践にあたっても、理論を学ぶ意味はとても大きいと感じています。学ばないと、自分のやり方しか選択肢がない。選択肢がなかったら、選手に「吉井になれ」と言うしかないんです。それに、伝え方も吉井流しかない。でも、相手に吉井流が合うとは限らない。理論を学び、いろいろな手法を知ることは、選択肢が増えるという意味で大きい。

とはいえ、実践においてうまくいってるかどうか自分ではまったくわかりません。まだまだ修行中です。やはり、やりながら覚えていくしかないんですよね。ただ、はっきりわかったのは、選手は一人ひとりまったく違うということです。

そういう意味でも、理論を学び、違う視点、違う選択肢を手に入れたことは役に立っています。

コツを教えてしまったら、成長は止まる

コーチの存在は、選手の能力開発にどの程度影響するとお考えですか。

吉井 選手時代に思っていたことと真逆の発言になりますが、非常に大きな影響があると思います。技術革新によって、さまざまなデータを手軽に入手できるようになり、勝ち負けの差はますます僅差になってきました。そういう中で勝ち続けるためには、選手が自分の頭で考え、どんな場面でも対応できる力をもつことが必要です。選手にそうした力をつけさせるためのコーチの存在は重要だと思います。

本のあとがきに、権藤さんのコーチ留学時代のエピソードを紹介されていましたね。選手にコツを教えたら、別のコーチから「選手は自分で工夫して覚えないと意味がない、お前はあの選手の成長を止めた」と言われたお話です。あの話は非常に印象に残りました。

吉井 権藤さんはそれ以来、選手に任せるようになったと聞きました。昔のコーチにもコーチとして修業された権藤さんのような人がいました。権藤さんは若くして肩を壊し、指導者になった人です。

権藤さんがコーチだったとき、吉井さんは選手として伸びたという実感をおもちですか。

吉井 ドンピシャです。当時僕は二軍にいて、一軍でも2、3勝しかしていなかったのですが、権藤さんは僕にいきなり抑えのピッチャーをやらせてくれました。そこで頑張ってクローザーのタイトルを獲ったところから活躍できるようになっていきました。

権藤さんのどんな関わりが、吉井さんを引っ張り上げたのですか。

吉井 一つは「気分よくやらせてもらえた」ことです。スポーツ選手は精神状態が整ってないいと、なかなかパフォーマンスを出すことができません。そういう意味で、いつも自分のことを冷静に振り返ることができるような精神状態でいさせてもらえたのがよかったと思います。初めから「お前はプロなんだから、絶対できるから」「とにかく心配しないでやれ」という感じで放っておいてくれました。

ただ、ゲームで逃げたときだけは怒られるんです。「行けって言っただろう!」って。「やられたら、出してるコーチの責任なんだから、行け」といつも言われました。

インタビュー実施日 2018年11月19日

(次回へ続く)


最高のコーチは、教えない

著者: 吉井 理人
出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン


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