プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


進化するスポーツアナリティクス~情報1.0から2.0の時代へ
株式会社ネクストベース 神事努 氏

第3章 データ時代のコーチの存在意義

第3章 データ時代のコーチの存在意義
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「トラックマン」というデータ計測機器について耳にしたことがあるだろうか。プロゴルファーが使い始めて一躍有名になった、弾道を測定する高性能の機器だ。トラックマンを使うと、ヘッドスピードやスイング軌道だけでなく、ボールが当たる瞬間のクラブのフェースの面の向きや角度など25項目にも及ぶスイング数値が一瞬で弾き出されるという。その後、テニスや野球などでも使われ始め、現在、日本のプロ野球でもほとんどの球団が導入している。トラックマンのような高性能の機器が次々開発され、さまざまなデータが取れるようになり、スポーツアナリティクス(スポーツにおけるデータ戦略)は格段に前進したという。プロ野球チームにデータを活用したコンサルティングを行う株式会社ネクストベースのフェローであり、バイオメカニクスの研究者である神事努氏に、スポーツアナリティクスの現在についてお話を伺った。

第1章 『マネー・ボール』からスポーツアナリティクスはどう変化したか
第2章 データを能力開発に活かすということ
第3章 データ時代のコーチの存在意義
第4章 これからのスポーツの楽しみ方

第3章 データ時代のコーチの存在意義

選手がデータをもとに自ら考え、自分の能力を高めることができるようになったら、技術指導の意味合いは大きく変わるはずです。そのときにコーチの存在は必要なのでしょうか。必要だとしたら、その役割はいまとどのように違ってくるのでしょうか。

コーチは不要になる?

選手全員が自らデータを読み、活用できるようになったら、指導者の存在は不要になるのでしょうか。

神事 技術を指導する人か、練習をマネジメントする人か、ゲームをマネジメントする人か、チームをマネジメントする人か、という観点によって議論が変わると思うのですが、僕自身はスポーツアナリティクスが進めば、プロ野球チームの特に1軍における技術コーチの役割はそれほど重要でなくなると考えています。

技術を教えるのが難しい理由は三つあります。一つ目は暗黙性。本人の運動感覚は目に見えません。ということは、そもそも指導が難しい。二つ目は複雑性。技術はすごく複雑なものなので、それを解釈しようとすると誤りが生まれる可能性が高い。三つ目は個別性。選手によって筋肉も違えば骨格も違う。経験も、技術を獲得してきたプロセスも違う。となると、他人が教えることができるものではない。吉井さん(吉井理人氏 現千葉ロッテマリーンズ一軍投手コーチ)も本(『一流のコーチは、教えない』)の中で書かれていましたが、もともと技術の高いプロの選手にとって、技術コーチは邪魔な存在になることが多いのではないかと思います。

データの重要性はフェーズによって変わる

一方で、練習をマネジメントする人は必要でしょう。ドリルをたくさんもっていて、選手の経験に合わせてドリルを組むことができる人。これは、本人の能力値を理解していないとできない仕事です。あとは、試合に勝つための選手の運用や適切な作戦の適用を考える人も必要ですね。それがコーチや監督の役割だろうと思います。

ただ、これはプロ野球の話で、子どもや初心者が対象になる場合は話が別です。子どもや初心者が相手のときは技術を教える領域が大きい。とはいえ、能力が上がるにつれて、指導者が言えることが少なくなってきます。技術指導よりは、本人の個別性と感覚をセンシティブにするほうが進歩が早いのではないかと感じています。

そういう意味で、データがなくてもいい人、あるいはなくてもいい年代があります。データが重要な意味をもつかもたないかは発育発達のフェーズによるだろうと思います。

コーチに必要なのは、話しやすさをつくり出す能力

私たちはビジネスパーソンを対象にコーチングをしますが、やっていて思うのは、頭の中にあるものを言語化することで、自分にフィードバックがあったり、そこまで考えられていなかったことに気がついたりする、そのプロセス自体に非常に意味があるだろうということです。

神事 言葉が言葉を生み、そこから新しい技術が出てくるというのが身体知の獲得には必要です。ですから、選手が技術を言語化する際に、対象となる感覚にフォーカスを当てて、うまく言語化できるように支援することがコーチには必要です。そういう意味では、ビジネスコーチングと近いと思います。多くの技術コーチは、高圧的で押し付けるばかりで、言語化のサポートができていないことが多いのかもしれません。

「何を聞き、何を引き出し、何を伝えるか」といったコミュニケーションスキルが必要なのかもしれませんね。

神事 そうですね。さらにデータがあれば反証可能性が高まるので、やりとりはより力強いものになります。「今年のゴロの割合は25%、去年は20%だったのでよくなっています。ただ、フライの割合がこうなっていて、、、」とデータを見ながら話していくと、「今年はボールの握りをこう変えたのでこうなりました」というように本人が説明をしたがるんですよ。そうすれば、次にどうしていくかという話に発展していく。振り返りの時間を意味のあるものにするために、コーチがデータをもっている必要があると思いますね。

データが選手の話を促す材料になるということですね。

神事 そうです。データは言語化のためのツールになります。最初に話したように、技術には暗黙性と複雑性、個人差があるので、唯一無二の法則はないんです。コーチが話すときには、自分の解釈を伝えるのではなく、「わからない」前提でデータをあいだにおいて話すのがいい。そういう意味では、技術もスキルもない相手のほうが選手は話しやすいかもしれない。コーチに必要なのは、話しやすさをつくり出す能力かもしれませんね。

コーチは明るくて面白いおじさんでいい

神事さんの理想とするコーチのあり方はどのようなものですか?

神事 明るくて、面白くて、「おい、みんな、いくぞ~♪」というような陽気なおじさんがいるといいんじゃないですか。怖い人だと、選手に「怒られるんじゃないか」とか「できなかったらどうしよう」といった恐怖心を抱かせてしまう。それよりは、選手が「いいところを見せたい」と思えるような人がいたら、全体のモチベーションが上がる気がします。

あとは選手と長い関係を築けるといい。野球が好きで、すごく野球を知っている明るいおじさんが、選手が成長するにつれて、選手と一緒に上のレベルのチームに上がっていくような環境になったら理想的です。

(次回へ続く)


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