プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


スポーツの有識者に聞くコーチングの原点
日本スポーツ振興センター 理事・ハイパフォーマンススポーツセンター長
勝田隆氏

第2章 対話の積み重ねを通じたコーチング

第2章 対話の積み重ねを通じたコーチング
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2019年10月末に、東京の青山でスポーツ・コーチングに関する国際会議、グローバル・コーチ・カンファレンスが開催されました。この学会を日本側として主催したのは日本スポーツ振興センター(JSC)。スポーツ庁直下の独立行政法人です。今回は、その国際会議の日本での開催を実現した立役者のお一人である、JSCの理事で、ハイパフォーマンススポーツセンター(HPSC)長、勝田隆氏へのインタビュー記事をお届けします。勝田氏は、長年日本のトップアスリートたちへのスポーツ・コーチングに携わってこられました。インタビューでは、スポーツ・コーチングにおける大切な視点や、ビジネス・コーチングとスポーツ・コーチングとの共通点などについて、お話を伺いました。

第1章 日本初開催のスポーツ・コーチング国際会議
第2章 対話の積み重ねを通じたコーチング
第3章 スポーツにおけるコーチングの役割
第4章 コーチングの原点は人と人との関わり

本記事は2020年1月の取材に基づき作成しています。
内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

大学時代のコーチとの対話

 勝田さんは、2002年に『知的コーチングのすすめ*』という本を執筆されています。読ませていただいて、2000年の初めにスポーツ・コーチングについて、こんなに先進的な本が書かれていたのだと目が開かれる思いでした。そもそも勝田さんご自身がコーチングについての関心を深められた背景やきっかけは、どのようなものだったのですか。

*執筆本: 知的コーチングのすすめ

勝田 「コーチング」という言葉やその役割への興味が生まれた原点は、大学時代に遡ります。筑波大学ラグビー部でキャプテンを務めていた当時、ラグビー界で世界的に著名なスコットランド人のコーチが、2年間、我々のコーチとして来てくださり、毎日そのコーチと対話をすることで大きな変化が私の中に生まれました。

このコーチとは本当に毎日対話をしました。英語での対話でしたが、辞書を差し出され、「わからない単語があれば、ここでお互いが辞書を引こう」と、とにかく対話することを求められました。

対話の場面では、ほとんどが彼からの質問でした。出会ってすぐの頃、彼の家で夕食を食べているときに、「お前に彼女ができたら、ラグビーと彼女とどちらを大切にするか」と質問されたことがあります。何でこんな質問をするのだろうと思いましたが、「もちろんラグビーです」と優等生気取りで答えると(笑)、「それはないだろう。両方大事にしなさい。大切なことは両立させることだ」といった趣旨のことを、穏やかに、諭すように言われたのを今でも鮮明に覚えています。

今、振り返ると、良好な関係を築くためのラポール的な問いかけでもあり、ワーク・ライフ・バランスを両立させることの大切さについての教えてくださる機会でもあったかもしれません。

対話の積み重ねが主体性の向上につながる

 スポーツ指導の枠を超えて、多くの対話をされていたんですね。

勝田 はい。とても哲学的な方でした。試合の前などには「この選手を起用しようと思うが、君はキャプテンとしてどう思う?」といったように、試合や練習の評価についても意見をよく聞かれました。

戦術についても、常に哲学的な問いが投げかけられました。私のポジションはスクラムハーフでしたが、「お前がするべき一番大事なプレーは何か?」と聞かれ「しっかりパスすることだ」と答えると、「それはみんながやることだ」と言われる。それで「フォワードに良い球を出してもらうよう指示することだ」と答えると「それはフォワードの仕事だ」と、どんどん掘り下げて聞いてきます。

いよいよ私が答えに窮してくると、「どこを見る? 何を考えるべき? それはなぜ?」といった質問が続き、その上で「全体を見てどこに攻撃のチャンスがあるのか、相手の攻撃に対して備えておくべきところはどこか」といったような判断やプレーに関する類いの質問が続きました。「すべて物事は見ることから始まる」とも教えられました。

「ボールは1個である」という哲学的な話から始まり、そこからポジショニング、戦術、時間の使い方などを、対話を通じて教えていただいたこともあります。このコーチからは、ラグビーの指導はもちろん、人と関わるとはどういうことかなど、非常に大きな影響を受けました。

コーチングの世界に「答えは相手の中にある」という言葉がありますが、この言葉がスポーツのコーチングの世界にいる私の心にもすっと入ってくるのは、大学時代のこの体験があるかもしれません。相手の持っているものを引き出すには、対話を重ねることが大事だということを身をもって体験する機会でした。

すべての経験が学びとなる

 大学以降は、どのようにしてコーチングについての理解を深めていかれたのでしょう。

勝田 高校や大学の教員として、あるいは高校生を集めたクラブチームを創って指導した経験はとても重要なものでした。この他ラグビーでは、高校日本代表など、代表チームに関わらせていただいたことや、レフェリー経験やコーチ、ルール、女子委員会などの委員会活動に参加したことも、コーチングの理解を深める上で貴重な機会だったと思います。

イングランド・ラグビー協会(RFU)にお世話になった時期は、ラグビーがアマチュアからプロフェッショナル化へ大きく加速した時期で、加えて、RFUでは競技人口対策に大きなチカラを注いでいました。タグラグビーの開発、知的障がいの方々への普及、学校の先生方への普及、女子ラグビーの展開など、さまざまな取り組みを模索し、具体化しようと動いていました。知的障がい者の大会に出場するチームのコーチを任されたこともあり、このような時期に、国外でのさまざまな取り組みを通して、これまでとは異なるマネジメントやコーチングを学べたことはたいへん貴重なことでした。  

このような過程の中で、「答えはすべて相手の中にある」とか「コーチングはpullとpush」といった言葉にも出会い、コーチングに関する研究においては、「コーチングはラーニングという姿勢をもちながらサポートしていくこと」といった捉え方も学びました。

私がコーチングという言葉と本格的に向き合い始めた頃、海外で体験した思い出に残るエピソードをひとつ紹介します。

ラグビーのコーチングのワークショップで、「コーチングとは何か」という哲学的なブレインストーミングから始まり、強化現場におけるコーチ育成のカリキュラムの検討に進んでいきました。現場コーチに求められる能力や知識についてブレストした際に、各自が「スキル?」「フィットネス?」「タクティクス(戦術・戦略)?」と思いつくことを挙げていきました。

JSC提供

すると、あるメンバーが立ち上がり、ホワイトボードの真ん中に大きな円を一つ描くと、円の弧の上にそれまでに出てきた「スキル」「フィットネス」「ナレッジ」「タクティクス」などの言葉を並べました。そして、「この円の真ん中には何が入るだろう? コアになるものがあるはずだ」と参加者に問いかけ、議論が発展していきました。コアになる部分は、コーチングを行う際に、常に念頭に置くべきもの、あるいは立ち返るべきものであるとの共通理解のもとにブレストが続き、最終的に、参加者全員で考えた結果「ゲーム・アンダースタンディング(Game Understanding)」だということになったのです。

こうしたプロセスやそこで得た学びなどをまとめたのが、『知的コーチングのすすめ』という2002年に出版した本になります。これは、この当時の私の経験が基になっています。

(次章に続く)

インタビュー実施日: 2020年1月23日
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部
表紙写真: JSC提供

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