講演録

株式会社コーチ・エィにおいて行われた講演会の記録です。


投手コーチの教え
北海道日本ハムファイターズ ピッチングコーチ 吉井理人氏

第6回 投手コーチの仕事は選手のコーチングだけではない

第6回 投手コーチの仕事は選手のコーチングだけではない
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2017年1月23日に、講師として北海道日本ハムファイターズの吉井理人投手コーチを招き、株式会社コーチ・エィにて、社員向けの勉強会が開かれました。

講演では、吉井コーチがどのような経緯でコーチになり、どのような考えで現在コーチングに取り組んでいるかについてお話しいただきました。吉井コーチの講演録を6回にわたって、お届けします。

第1回 日ハムの投手コーチを引き受けるまで
第2回 プロ野球選手と指導者のコミュニケーション
第3回 仰木・野村監督、名指導者たちから学んだこと
第4回 ルーキーからダルビッシュまで、異なる4つの育成ステージとは?
第5回 観察、質問、そして相手の立場になって考える
第6回 投手コーチの仕事は選手のコーチングだけではない

投手コーチの仕事は選手のコーチングだけではない

ピッチャーには、先発タイプとリリーフタイプがいます。先発ピッチャーというのは、週に1回、100球くらい投げる選手です。一方、リリーフピッチャーは、ピンチに出てきて、10球くらいしか投げないのですが、毎日投げる可能性がある。投手コーチは、選手が練習しているのを見て、先発かリリーフかを見極め、2つのグループに構成します。

日本のプロ野球チームの場合、6人の先発ピッチャーに1週間に1回投げてもらい、ぐるぐる回していることがほとんどです。監督によっては、相手チームの相性によって先発ピッチャーを変えたいという人がいますが、僕は、ピッチャーにはルーティンがあるので、1週間に1回、たとえ苦手なチームとの対戦であっても、ぐるぐる回したほうが1年間にわたって調子が上がるのではないかと考えています。とはいえ、シーズン後半になると、残りゲーム数が少なくなり、その試合に負けてしまったら終わり、というケースも出てきますから、ローテーションを変えてでも勝負に出るということはあります。

その他、先発ピッチャーがへばったあとに出てくる救援投手という役割もあります。このグループにも、だいたい7、8人のメンバーを入れています。救援投手のうち、抑えのピッチャーというのが、一番いいピッチャーです。クロ―ザーといいます。その次に、セットアップというか、抑えの前に投げるピッチャーがいます。この2人がよくないと、どうしてもチームが弱くなってしまいます。なので、その2人をどうやって1年間もたせるかということを考える必要があります。そのためには、その下のリリーフ投手の起用法が大きな鍵になるんです。

監督と投手コーチのケンカの理由

プロ野球というのはシーズンが長いので、このリリーフピッチャーを終盤(秋)に、どれだけ元気で勝負させることができるかが大事になってきます。僕は、それが長期の戦略としては一番大切なのではないかと考えています。

先発ピッチャーの調子がよい場合でも、監督が念のために、いつでもすぐに出せるように、最初からリリーフピッチャーに準備をさせることがよくあります。リリーフピッチャーは、30球くらい投げて準備をします。でも、先発の調子がいいあいだは、試合に出る機会はありません。最後のほうでピンチがやってきて「もう一度、準備をしてくれ」ということになれば、またそこで準備として15球くらい投げます。結局、準備として40球ぐらい投げ、試合でも20球投げ、合計60球投げる、といったことがずっと続くと、やはりシーズン終盤までもちません。僕は、リリーフピッチャーを使うときは、準備は15球まで、また、1回の準備で試合に出そうと考えています。それで、監督とケンカすることもしょっちゅうあります。監督の気もちもわかるんです。リードしている試合であれば突き放したいし、逆に1点くらい負けてる試合で、反撃できそうであれば、いいピッチャーをつぎ込みたいじゃないですか。でも、それをやってしまうと、結局そのいいピッチャーが、終盤にはへばってしまうんです。試合毎に全力を尽くすことは当然ですが、シーズンで優勝することを目的と考えた場合、戦略としてはその試合でベストのピッチャーを出さないことも「全力」だと思うんです。投手コーチと監督というのは、そういうところでケンカをすることがよくあるということを、わかっていただけたらと思います。

僕からの話はここで終わりです。最後に、みなさんからご質問を受けたいと思います。

質問者 大変貴重なお話をありがとうございました。とても勉強になりました。一つ教えていただきたいのですが、コーチの立場からすると、選手には当然、うまくなってもらいたい、いい成績を出してもらいたいと思って指導をされると思うのですが、その通りにいく選手と、残念ながら活躍できない選手がいると思います。それを「伸びる」という言葉で置き換えた場合、「伸びる選手」に共通点があるようであれば、教えていただきたいです。

吉井 こういってしまうと身も蓋もないのですが、やはり「向上心」と「好奇心」があるかどうかではないかと思います。伸びない選手は、コーチの言うことをやってるだけで、工夫をしないし、他の選手にも興味を示さないことが多いです。たとえば、ダルビッシュなんかは、あんなにうまくても、向上心と好奇心が非常に旺盛です。たとえば、彼よりも技術的に劣るピッチャーが投げているのを見て、「お前、その変化球はどうやって投げてるんだ?」といって教えてもらうようなこともあります。伸びる選手は、そういうところが優れているのではないかと思います。

それでは、これで終わりとさせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。


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