リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


「ただのオープンな人」が世の中を変える
株式会社カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅氏 × 株式会社コーチ・エィ 鈴木義幸

第1章 行動しなければ意味がない

第1章 行動しなければ意味がない
メールで送る リンクをコピー
コピーしました コピーに失敗しました

自分に影響を与えた一冊の本を題材に、リーダーに哲学を語っていただくインタビュー。今回は株式会社カインズの代表取締役である土屋裕雅氏にお話をうかがいました。インタビュアーは、コーチ・エィの鈴木義幸。土屋氏の一冊は、司馬遼太郎の『竜馬がゆく』です。

第1章 行動しなければ意味がない
第2章 「個」を保ちつつ、人とつながる
第3章 「浪人性」が物事を変える

第1章 行動しなければ意味がない

歴史学者を志した高校時代

鈴木 今日、土屋さんが持ってきてくださったのは司馬遼太郎の『竜馬がゆく』です。この本を最初に読まれたのはいつ頃ですか。

土屋 高校生の時です。司馬さんの本は何冊も読んでいますが、その中でも『竜馬がゆく』は繰り返し読みました。当時、たまたま家にあったものを偶然手に取ったのですが、この本をきっかけに歴史に興味をもつようになりました。というか、歴史以外には何も興味がないというほど歴史にはまってしまったんです。将来は歴史学者になろうと思い、有名な近代史の先生がいる大学の史学科を受験したほどです。結局その年は受験に失敗してしまったのですが、もし受かっていたら経営者になっていなかったかもしれません。結果的には失敗してよかったといえるかもしれませんね(笑)

鈴木 歴史を自分の将来の仕事にしようと思うほど影響を受けられたとは、かなり大きなインパクトがあったのですね。一言では難しいと思うのですが、具体的にどんなことに影響を受けたのでしょうか。

土屋 そうですね。2つの意味で影響を受けました。司馬さんの本というのは、たくさんの資料を読み込んだ上で書かれたフィクションです。この本の舞台である江戸時代から明治に移り変わる時期は、いろいろな人物がお互いに関わり作用しながら明治維新に至ります。歴史の教科書にはさらりとしか書かれていませんが、この本ではその時代に生きた実在の人物が活き活きと描かれているんですよね。たとえばこの本には髙杉晋作が登場しますが、主役は坂本竜馬ですから髙杉について詳しくは書いてありません。でも、この本をきっかけに調べてみるとすごく面白そうです。そういうふうに登場人物たちに魅力を感じたことが、実際の歴史に興味をもつようになったきっかけです。もっと知りたい、調べたい、研究したい。そんなふうに思いました。

それには、本に挿入されているたくさんの「余談」の影響があったかもしれません。司馬さんの本には「この人物は後々こうなった」というような、ストーリーとは直接関係のない「余談」がたくさん挿入されているんです。それらを読みながら、まるで司馬さんが直接私に語りかけているように感じたんですよね。それですごく好きになりました。高校生という多感な年頃だったこともあるのだと思います。

もう一つは、竜馬の生き方に興味をもったことです。

土屋裕雅 氏 / 株式会社カインズ 代表取締役社長
1966年生まれ。早稲田大学を卒業後、野村證券株式会社を経て、1996年株式会社 いせや(現ベイシア)入社。1998年株式会社 カインズに入社し、同社取締役に就任。2002年より現職。

人との関わりの中で成長していく竜馬に共感

鈴木 竜馬の生き方のどんな点に興味をもたれたのでしょう。

土屋 この本は八巻まである長い話ですが、物語の流れの中で竜馬の目線が少しずつ変わっていきます。物語の始まりでは、竜馬は土佐の下級武士です。武士とはいえないほど低い位置づけの家に生まれ、剣術に興味をもって江戸に出るわけですが、いろいろな人に会っていく中で考え方がどんどん変わっていきます。

竜馬というのは、最初から大きなことをやってやろうという夢やビジョンをもっていたわけではなく、さまざまな出会いの中で成長していった人なのだと思います。「いろいろな人との出会いを経て成長していく」、そのあり方がすばらしいと思います。

鈴木 坂本竜馬という存在が、土屋さんのリーダー観に影響を与えていると思われることはあるでしょうか。あるとしたらどんな点なんでしょう。

土屋 私はね、竜馬は孤独な人だったのではないかと思うんです。彼は、敵味方関係なく、さまざまな勢力の人に会っていきます。お互いに仲の悪かった薩長両陣営の武士に会うだけでなく、幕府の勝海舟にも会い、それこそ朝廷の人にも会う。どんなところにも顔を出して、そこで仲間をつくっていきます。オープンマインドでありながら、「個」がしっかりあって、何かの目的のために人を集めていく。そういう竜馬のあり方に非常に共感を覚えます。「自分もそうありたい」と思ってきました。

鈴木 土屋さんは大きな組織を率いるリーダーとして、日々多くの方々と関わっていらっしゃいます。改めて振り返ってみて「人を動かす」とか「人との関係のつくり方」という点で竜馬に影響を受けていることはあると思われますか。

土屋 正直に申し上げると、『竜馬がゆく』のことも、竜馬についても、最近まで忘れていました。震災がきっかけとなって思い出したのですが、振り返ってみて、自分のものの考え方やあり方のベースにこの本の中の坂本竜馬があるかもしれないとは思います。

このストーリーの中の坂本竜馬は、すごくオープンな人です。物語の後半、当時の世の中ではそれなりに有名な人物になっていたと思うのですが、そのときでも別に偉そうではない。そうかと言って、下級武士の時代もすごくへりくだっているわけではない。考え方であったり、ビジョンであったり、見ている風景がどんどん変わっていく中で、周囲に対する彼の接し方は若いときからずっと変わらない。オープンマインドな人だからこそ、多くの人が彼に惹きつけられたのではないかとは思います。そういったあり方をモデルにしているところはあるかもしれません。

東日本大震災後、竜馬に背中を押される

鈴木 震災がきっかけで思い出されたとのことですが、もう少し詳しく聞かせていただいていいでしょうか。

土屋 東日本大震災のときに、「災害は自分の意志とは関係なくいつでも起こり得る」ことをまざまざと実感しました。計画をいくら立てたところで、災害が起こってしまったら何も実現しないままになります。そこで震災以来「行動しなければ意味がない」と強く思うようになりました。世の中にはいろいろ発言はするものの、実際の行動を起こさない人がいます。震災を経て、このままでは自分もその仲間になってしまうという危機感を覚えました。

そのときに思い出したのが司馬遼太郎の『竜馬がゆく』です。坂本竜馬は30歳か31歳で亡くなりますが、彼の人生は非常に凝縮された31年間だったと思うのです。この本の中で、竜馬はたった7年の間に日本全国をあちらこちら飛び回り、まるで複数の竜馬がいるかのような動きをしています。いまは飛行機もあれば電話もあるし、さらに自分には知識もある。震災当時すでに50歳近い年齢でしたが、立ち止まって考えてみると、やれることはたくさんあるはずなのにやっていないことが多い。それまでは「やりたいことをもっていれば、自然とその方向に向いていくものだ」となんとなく思っていたのですが、竜馬に背中を押されて「行動しなければ」と思うようになりました。

次章へ続く


※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

この記事を周りの方へシェアしませんか?

この記事はあなたにとって役に立ちましたか?
ぜひ読んだ感想を教えてください。

投票結果をみる

コーチング・プログラム説明会 詳細・お申し込みはこちら
メールマガジン

関連記事