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未知の旅に出る
コピーしました コピーに失敗しました羽生善治さんの『決断力』という本によれば、将棋の指し手の可能性というのは、10の30乗ぐらいあるそうです。
これは地球上の空気に含まれる分子の数より多いと。だから将棋のプロでも将棋のことは意外にわかっていない。多く見積もってもわかっている度合いは6、7%。
だから羽生さんは言います。
「1回1回の対局は、未知の旅に出る、知らない何かを探しに出発する―私はそんなイメージを抱いて指している」
羽生さんの本を読んでいて、コーチングも将棋と同じだなと思いました。
相手が言葉を発する。そこにこちらの言葉を絡み合わせていく。それこそ、コーチングの場合「指し手」の可能性は10の30乗どころではありません。それが質問であれ、承認であれ、リクエストであれ、どのタイミングでどのようなフレーズを投じるか、まさに無限の選択肢が存在します。
これは大変です。分母が大き過ぎて選ぶこと自体が困難です。選択肢の渦の中に取り込まれてしまいます。
そこで、分母を少なくするために、私たちはパターンを学びます。相手がこうきたら、こう返すと。無数の分母を10ぐらいにし、その中から最適解を選ぼうとします。
相手がこういう表現を使ったらチャンクダウン(※)。こういうところで行き詰っていたらリソースを引き出す。相手がこのようなところから状況を見ていたら視点を変える。パターンを学習することで、選択肢の渦の中に落ち込まないようにしておきます。なるべく不測の事態が起きないようにしておくわけです。
ところがここに落とし穴があります。
パターンを学べば学ぶほど、コーチの意識は頭の中に蓄積されたパターンに行きます。そして、そのパターンを目の前の相手にどう使うかを考え始めます。結果として、目の前の相手を失い、微細な表情や声の変化、相手の思考パターンなどを捉えることができなくなります。コーチはパターンに沿って同じことを繰り返すようになっていきますから、コーチングをすること自体にも次第に飽きがやってきます。
できれば毎回のセッションを羽生さんのように「未知の旅」に出るつもりでやりたいものです。その瞬間は、パターンを捨て、相手の中に飛び込んでいく。
相手の言葉に触発されて、クリエイティブで力のある、自分でも「おっ!」と思うような質問が生まれる。それを相手に投げると、向こうから新鮮な反応が返ってきて、それに刺激を受けてまた新しい言葉が自分の中に生まれる。 そして、また投げて......
「よし、これから未知の旅に出る」
そんな一言を自分の中で唱えてから、目の前の人に向かい合ってみませんか?
※チャンクダウンについては、こちらを参照ください。
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