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目標の達成確率を高める2つの方法
2016年08月24日
コーチという仕事を長年させて頂いていると、日常生活にも使える「目標の達成確率を高めるちょっとしたコツ」があるということが分かってきます。今回は読者の皆様に、自分でできる目標の達成確率を高める簡単な方法を2つご紹介します。
「目標」を、「手に入れたいこと」とシンプルに定義してみると、人は誰もが何らかの目標を持っている、と言えるでしょう。
業務上の目標だけでなく、資格試験に合格する、TOEICで900点取る、体重を減らす、引っ越す、貯金する、腹筋を割る...などなど、私たちは同時に複数の目標を持ちながら生きています。
過去に自分が設定した様々な目標を振りかえってみると、誰しもが、達成できたものもあれば、残念ながら達成できなかったものもあるでしょう。達成できなかった目標の中には、難易度が高すぎたものや、そもそも達成する意欲が低かった、というものもあるかもしれません。
そこで、今回のコラムでは、こうした「目標そのものに問題がある」場合ではなく、設定された目標が適切でかつ本当に手に入れたいものである場合に、「目標の達成確率をいかに高めるか」に触れたいと思います。
目標の「達成確率」を高める一つ目の方法とは?
[1] 「結果目標」を具体的な「行動目標」に変換する
「目標」というからには、それが「達成されたかどうかを判断できる」ことが必要です。「売上を上げる」「ダイエットする」というだけでは目標とは言えません。「年内に売上を累計1000万円にする」とか「8月末までに体重を60キロにする」のように、目標が達成されたかどうかが明確に判断できる状態になって初めて「目標」と言うことができるでしょう。
ところが、このような「結果目標」だけでは、何をやったら良いか具体的な「行動」が分かりません。そこで、「結果目標」に加え、その「結果目標」を達成するために必要な行動を「行動目標」として設定するのです。
たとえば、「年内に売上を累計1000万円にする」という「結果目標」がある場合、
「毎週水曜日と金曜日の午前中に、新規顧客を2件訪問する」
「お客様からメールで問い合わせが来たら、必ず2時間以内に返事する」
など、「これらの行動を続ければ必ず達成できる」と考えられる、いくつかの「行動目標」へと変換していくのです。
さらに「行動目標」を設定する際には、先の例のように「毎週水曜日と金曜日の午前中に、」とか「お客様からメールで問い合わせが来たら、」といった、その行動を起こす「条件」となる「具体的な時間」や「具体的な状態」を含めることが大切です。
この方法は「条件をつけた計画」(if-then planning)と呼ばれるものです。
コロンビア大学ビジネス・スクールのハイディ・グラント・ハルバーソンによると、「条件をつけた計画を作成することで、目標を達成する可能性が約300%高まることが、200件を超える研究結果から明らかになっている」のです。(※1)
[2] 「行動目標」に向かう行動を頭の中でシミュレーションする
では、具体的な「行動目標」が定まったところで、さらにその達成確率を高めるには、どのような方法があるでしょうか。
実は、ここからは「質問」が大きな鍵を握っています。「行動目標」の行動を「質問」によって具体的に頭の中でシミュレーションすると、目標の達成確率がさらに高まるからです。
たとえば、先程の「毎週水曜日と金曜日の午前中に、新規顧客を2件訪問する」という「行動目標」に対しては、
「新規顧客はどのような方法で開拓し続けるの?」
「初回訪問にむけて、事前に何を準備しておくの?」
「プレゼン中に『まずは価格を教えて欲しい』と切り出されたら、何と答えるの?」
と、自分自身が「実際に動いているイメージ」が頭の中に描かれるような質問で、様々な角度からシミュレーションするのです。
スタンフォード大学のチップ・ハース教授は著書の中で次のように述べています。(※2)
「延べ3214人を対象とした35の実験結果から、頭の中で練習する(黙ってじっと座ったまま、最初から最後までうまくやり遂げる自分を想像する)だけで技術が飛躍的に向上することが分かっている。このことは、さまざまな作業について証明されている。溶接もダーツも頭の中のシミュレーションで上達する。トロンボーン奏者はよりよい演奏ができるようになり、フィギュアスケートの選手もよりうまく滑れるようになった。当然、身体的要素より精神的要素の大きい作業(トロンボーンの演奏など)の方が、頭の中での練習効果は高いが、たいていどんなことでも頭の中で練習すれば大きな効果が上がる。全体の平均で見ると、頭の中で練習しただけで体を動かす練習の3分の2の効果が得られている」
同教授によると、脳には「出来事や経緯を思い描くと、実際に活動していたときと同じ脳の部位が呼び覚まされる」という特徴があります。「脳のスキャンをすると、光の点滅を想像すれば脳の視覚分野が活動し、誰かに肩を叩かれるところを想像すれば脳の触覚分野が活動する」のです。
私達は、車の運転でも営業活動でも、たいていのものは、全く初めての時よりも2回目、さらに3回目と経験量が増えるほど、うまくやることができます。質問を使って「行動目標」のシミュレーションをし続けることで、経験量を頭の中で増やすことができるのです。
今回は目標の達成確率を高める2つの方法をご紹介しました。
具体的な「行動目標」を設定し、行動のシミュレーションを行うことは、「結果目標」の達成確率を高めます。「そりゃあ、こんなに時間をかければ達成確率は少しくらい高まるだろう」と言う方もいらっしゃるでしょう。中には、「時間がかかりそうなので、やりたくない」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、実はそれほど時間がかかるものではありません。これまでの私の経験では、完成された「行動目標」を最初からスラスラ出せる人はほとんどいません。「行動目標」はある意味、「結果目標」を達成するための行動の「仮説」ですから、「この行動は違う」と感じたら、いつでも変更したり追加したりして良いのです。つまり、「行動目標」は、いくつか作ったらすぐに行動を開始し、その後は「動きながら、より良いものに変化させつつ進むもの」なのです。
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【参考資料】
※1
「“条件”をつけるだけで達成率は変わる 個人に頼らず組織の目標を達成する法」
ハイディ・グラント・ハルバーソン
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー(2015年2月)
※2
『アイデアのちから』(日経BP社)
チップ・ハース, ダン・ハース (著)、 飯岡 美紀 (翻訳)
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