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話しやすい環境でも部下が意見を言わない、本当の理由

話しやすい環境でも部下が意見を言わない、本当の理由
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「この部下は、なかなか意見を言わないな・・・・・・」

そう思ったことのある上司は少なくないと思います。では、部下はどんな時に、どんな理由で上司に意見を言わないのでしょうか?

昨年末、コーチング研究所がメールマガジンの読者を対象に行ったアンケート結果があります。(※1)

部下が上司に率直に意見を言わない理由とは?

「あなたが上司へ率直に意見を言わない場合の主な理由は何ですか?」

結果の1位は 「伝えても何も変わらないから(31%)」でした。「上司と部下」が共に働く関係だとすると、とても寂しい結果だと言えます。

この回答に添えられたコメントのひとつには、「過去に自分の考えを伝えたが、聞こうとする姿勢が見られなかった。それが何度も続き、意見することが少なくなった」というものがありました。

上司が部下の意見を無視し続ければ、こんな状態になってしまうのは当然のことです。その場合は、上司の対応そのものを変える取り組みが必要でしょう。

しかし、上司が普段から部下の意見を聞き、職場全体が提案しやすい風土であっても、意見を口にしない部下もいるかと思います。

4月に異動してきたメンバーも、新しい職場で1ヶ月。そろそろ環境に慣れて意見を言うようになってもおかしくない。それなのに、全然自己主張がない。

そんな部下にもどかしさを感じている人もいるのではないでしょうか。

こうした時に起こりがちなのは、「この部下は意見を言わない性格なのだ」と周囲が諦めてしまうことです。

しかし、実はそうではないかもしれません。部下が意見を言わないのは、心理学用語でいう「学習性無力感」というものが背景にある可能性もあるのです。

行動を阻害する「学習性無力感」とは?

「学習性無力感」とは、心理学者のセリグマンが提唱した概念で、イヌに行った実験が有名です。(※2)

実験では、イヌが自分ではコントロールできない状況にした上で、繰り返し電撃を与え続けます。その後、逃避できる環境に移動させ、再び電撃を与えます。すると、環境が変わったにも関わらず、イヌは電撃から逃れることなく、痛みに耐え続けたそうです。

逃げることができるかどうか、ではなく、「自分にはこの痛みをコントロールすることができない」と学習してしまったことが、「逃げる」という行動をやめさせてしまったのです。

「学習性無力感」の実験は、イヌだけでなく、さまざまな動物でも立証されました。マウス、金魚、ネコ。そして、人間でも同じパターンが確認されたのです。

イヌのように、電撃から逃れずじっと座って耐えるようなことが、人間でも起きるということです。

あらためて、上司に意見を言わない部下のことを考えてみましょう。

「こうしたらもっと上手くいくはず」
「自分はこんな仕事をしたい」

こうした意見を伝えずに口に封をすることで、部下はストレスを感じているはずです。

しかし、「上司に話しても無駄だ」という過去の学習から、電撃から逃げなかったイヌと同じように、意見を口に出さずに耐えることを選び続けてしまいます。

意見を言いやすい職場風土にありながら意見を言わない人は、「意見を言わない性格」なのではなく、過去の学習から「学習性無力感」に陥っている可能性もあるのです。

では、どうやったら「学習性無力感」を打破できるのでしょうか?

「学習性無力感」を打破するには

セリグマンたちは、研究によって「学習性無力感」を打ち破ることができることも発見しています。イヌの実験では、次のようなことが確認されました。

無力感に陥り電撃から逃げなくなったイヌの横に、電撃を受けない安全エリアを用意します。イヌと安全エリアの間には何のハードルもなく、少し歩くだけで電撃から逃れられます。しかし、最初のうちはイヌが自ら移動することはありません。

そこで、実験者がイヌを引きずって安全エリアに移動させました。そうすることで、イヌは少し歩けば電撃を受けなくなることを「学習」します。実験では、それを1回や2回でなく、30回から50回も繰り返したそうです。

その結果、イヌは電撃を受けると自らの判断で安全エリアへ歩き出すようになったのです。また、安全エリアとの間にハードルを置いても、自ら飛び越えて電撃から逃れるようになりました。

このように「反応しても無駄」という思い込みを変えれば、「学習性無力感」を打ち破ることができるのです。

では、「意見を言わない部下」に無理やり発言させるのがいいかというと、それはあまり良いアプローチには思えません。幸いなことに、人間はイヌと違い、引きずって動かすまでしなくとも、「行動を起こすことは無駄ではない」という事実を示すだけで効果がある、とセリグマンは著書で紹介しています。

たとえば、「ほかのチームメンバーが出した意見が採用されている」という事実をいくつか伝えるという手段があります。また、部下の「過去の学習」が現状にはあっていないことに気づかせることも有効でしょう。

「上司に話しても無駄だ」と学習をしたのは、以前の部署や新卒時に配属された職場かもしれませんし、学生時代の経験が原因かもしれません。

今の環境では、「上司が意見を聞いてくれる」「部下本人が能力を高め、前より効果的な提案ができるようになっている」など、「無力感」を学習した時点とは違うところがあるはずです。イヌが逃避可能な場所に移動したように、部下も以前とは異なる環境にいるのですが、「学習性無力感」に陥っている限り、それはなかなか目に入りません。

そこで、

「いつから、『伝えても何も変わらない』と思っているのか?」
「当時の職場では、意見を言うとどんな反応だったのか? 今の職場ではどうか?」
「当時の自分と今の自分を比べて、できるようになっていることは何か?」

などについて話す時間を持ってみてはどうでしょうか。

話しやすい環境にありながら意見を言わない部下がいる場合、「この人は意見を言わない」で終わらせるのではなく「学習性無力感」の可能性も考えてみてはいかがでしょうか?

「意見を言っても無駄だ」という過去の学習を見つめ直す機会をもつことがきっかけで、少しずつ、意見が出てくるようになるでしょう。

ーーーここまで読んで、こんなことやっても、うちの部下はなかなか意見言わないだろうな......と思ってしまった場合、それは、あなた自身の「学習性無力感」かもしれません。

今、自分が持っている「過去の学習」をたな卸しして、目の前の現状にそれが本当に適応しているのか、立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。

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【参考資料】
※1 読者アンケート調査(No.12) 「率直な意見に関するアンケート調査」
上司に率直に意見を言わない理由第1位は 「伝えても何も変わらないから」

回答数:327件 無効回答数:34件 有効回答数:293件
調査対象:コーチ・エィ発行メールマガジン「WEEKLY GLOBAL COACH」の読者
実施期間:2016年9月7日~9月27日
調査機関:株式会社コーチ・エィ、コーチング研究所
※2 C.ピーターソン、S.F.マイヤー、M.E.P.セリグマン (著)/ 津田 彰(翻訳)、『学習性無力感 パーソナル・コントロールの時代をひらく理論』、二瓶社、2000年

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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