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なぜ一流のエグゼクティブは「ここ一番」に強いのか?

なぜ一流のエグゼクティブは「ここ一番」に強いのか?

あなたは「ここ一番」の場面に強いですか?

スポーツの試合で勝敗が決まる最後の一瞬、採用面接、大勢の前でのスピーチなど、どんな方でも「ここ一番」という場面を経験されたことがあるはずです。

その時、緊張で平静でいられなくなるとミスを連発してしまうことがあります。これがいわゆる「あがる」と言われる現象です。

ところが、世の中には「ここ一番」に強い人がいます。

私はエグゼクティブコーチの仕事を始めて十数年になりますが、クライアントである経営者の方々には、周囲から「ここ一番に強い」と言われている方がたくさんいらっしゃいます。

経営者は、記者会見、株主総会、全社員に向けた発表など、「人前で話す」ことが度々求められます。また、テレビ出演や、会社を代表するゴルフコンペで大勢の人前でプレーするような場もあります。緊張感のある場面でも高いパフォーマンスが発揮できることは、経営者に求められる能力の一つであるとも言えるかもしれません。

ところが、「ここ一番に強い」と言われている経営者の方々の中には、「昔はとても緊張してばかりだった」「人前で話すのが苦手だった」という方が意外と多いのも事実です。

そこで今回は、そんな経営者の方々からお聞きした「ここ一番」に強くなる方法をいくつかご紹介したいと思います。

「ここ一番」に強い人が、練習でしている質問とは?

「ここ一番に強い人は、余裕があるのであまり練習しないのではないか」というのは誤解です。「ここ一番に強い」と言われている経営者は、必ず練習をしています。しかし、練習時間は決して長くありません。

経営者は忙しいためか、重要なプレゼンであれ、ゴルフの練習であれ、「同じ原稿を何度も繰り返して話す練習をする」とか、「とにかく打ちっぱなしに通う」という方法はとらず、パフォーマンスを最大化するための効率的な練習方法を常に考えているのが特徴の一つです。

特に「ここ一番」に強い人に共通するのは、「自分が最も苦手な部分」を明らかにし、限られた時間を苦手部分を克服するために使う、という練習姿勢です。

エグゼクティブコーチのクライアントであるAさんは、執行役員になったばかりの頃、急に人前で話す機会が増えました。ところが、当時は誰を相手に話しても「ちゃんと伝わった」手ごたえがなく、不安な時期が続いたといいます。

そこで、「私が最も苦手なことは何だろうか?」と自分に何度も問いかけ、また周囲にも意見を求めたのだそうです。

すると、Aさんは「ひとつの文を短く話す」ことが以前から苦手だったということに気づきました。Aさんには、ひとつの文章を長く、切れ目なく冗長に話し続ける癖があったのです。

そこで、Aさんは「短く簡潔に話す」練習を続けました。自分の話を録音しては聞き、修正してまた話す、という練習を何度も繰り返した結果、「短く話す」コツをつかむことに成功したのだそうです。

その後も、次々と「えー、と言わない」「カタカナ語を使わない」「たとえ話を入れる」と苦手なことを新たに見つけては練習し、自分でも「伝わりやすくなった」ことを実感するまでになったそうです。

それから数年後に社長に就任したAさんは、今では社員からだけでなく投資家からも「話がうまい」と高い評価を得ています。

フロリダ州立大学心理学部のアンダース・エリクソン教授が30年以上にわたって超一流と呼ばれる人達を研究してきた結果、スポーツ、音楽、チェスなどあらゆる分野において、超一流の人達は、ただ単に練習時間を増やしていくような愚直な練習はしていないことが分かりました。

素振りをし続ける、走り続ける、音読し続けるといった、同じ内容を繰り返す練習は、練習初期には有効なものの、すでにできることを繰り返す割合がしだいに多くなっていくために、より高度な能力を獲得することは難しいのです。エリクソン教授は、一流になるには、常に現在の能力をわずかに上回る課題に挑戦し続ける練習、すなわち「限界的練習」を行う必要があることを長年の研究で明らかにしました。(※1)

「ここ一番」に強い人が「ここ一番」でしている質問とは?

ところが、いくら「限界的練習」によって苦手を克服していったとしても、「ここ一番」の場面であがってしまっては望む結果が得られません。よく言われるように、「あがる」最大の原因は「失敗するのではないか」という「不安」です。

シカゴ大学心理学部のシアン・バイロック准教授は「大失敗することをスポーツ選手が考えているときは、そうなる可能性が高い」と述べています。「階段を駆け下りるとき、足をどのように、どこに置くかを考えるだけでも転ぶはめになるように、通常は自覚した意識の外で動いている活動に注意を向けすぎるとチョークする(注:緊張して硬くなる)可能性がある」というのです。(※2)

つまり、練習では「苦手なこと」に意識を向けていることが効果を高めましたが、逆に、「ここ一番」の場面で「苦手なこと」に意識を向けると、失敗につながってしまうのです。「ここ一番」の場面では、自分の失敗につながるようなことには一切「意識を向けない」ことが必要です。

では、「意識を向けない」ためにはどのような方法があるのでしょうか。

『インナーゲーム』で有名なティモシー・ガルウェイは、著書『インナーゴルフ』の中で、「意識を向けない」方法として「イージーリンク(容易の連想)」と呼ぶ方法を紹介しています。(※3)

「目前の難しい動作(この場合はゴルフ)と、単純かつ平易で絶対に失敗しないような動作を連想で結びつけるやり方だ。たとえば3メートルのパットにアドレスしたとき、「ホールからボールを拾い上げる」単純な動作を思い出し、心の中でそれを描く。映像が生き生きするほど、他の思い出-失敗の思い出―がしゃしゃり出てくるスペースがなくなる。当然、パットでの緊張はなく、力みもない」

つまり、難しく緊張感の高い場面でも、「ボールを拾う」といった極めて自分が失敗しにくい動作をイメージしながらプレーすると、あがりにくくなるというのです。ガルウェイは実際にこの方法でプレーし、自らその成果を実証しています。

ゴルフ好きで知られる経営者のBさんは、30年近く前、ゴルフを始めたばかりの頃にこのガルウェイの著書を読んだことがあったのだそうです。

Bさんが自分に「最も得意なことは何だろうか?」と問いかける時に思い浮かんでくるのは、「高校時代、毎日グラウンドで友人とキャッチボールをしていた姿」でした。野球部出身のBさんにとって、友人とのキャッチボールは絶対に失敗しない行動の代表的なイメージなのです。Bさんは「ゴルフだけじゃなく、緊張するような場面ではいつも頭の中はキャッチボールですよ」と笑います。

「ここ一番」に強い経営者は、「最も苦手なことは何か?」と自分に問いかけて練習を行います。しかし、「ここ一番」の場面では、練習で問いかけた苦手なことは一切忘れて「最も得意なことは何か?」と自分に問いかけます。どちらか一方ではなく、この両方を、場面によってしっかりと切り替えながら使うのです。

その切り替えは「質問」によって行われます。

一流のエグゼクティブは、「練習」と「ここ一番」で正反対の方向に意識を動かす「質問のスイッチ」を持っているのです。

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【参考資料】

※1 『超一流になるのは才能か努力か?』(文藝春秋)
アンダース・エリクソン(著)、ロバート・プール(著)、土方奈美(翻訳)

※2 『なぜ本番でしくじるのか---プレッシャーに強い人と弱い人』(河出書房新社)
シアン・バイロック(著)、東郷えりか(翻訳)

※3 『新 インナーゴルフ』(日刊スポーツ出版社)
ティモシー・ガルウェイ(著)、後藤 新弥(翻訳)

【類似分野をさらに学習したい方のために】

『新インナーゲーム』
W.T.ガルウェイ(著)、後藤新弥(翻訳)
競技者は実際に行われているゲームだけでなく、心の中でもゲームが行われていることを 解き明かしたコーチング学習者の必読書。

『非才!―あなたの子どもを勝者にする成功の科学』
マシュー・サイド(著)、山形 浩生、守岡 桜(翻訳)
オックスフォード大学を主席で卒業した英国出身のオリンピック卓球選手。非凡な才能は決して生まれもったものではないことを自身の経験と科学的な分析から解説する。読み物としても面白い。

TED「ボディランゲージが人を作る」
エイミー・J・C・カディ(ハーバード・ビジネススクールの教授)

Don’t Stop Believing: Rituals Improve Performance by Decreasing Anxiety, Alison Wood Brooks
緊張感の高い場面で、いわゆる「儀式」を行うことの有効性を検証。

Rethinking Stress: The Role of Mindsets in Determining the Stress Response, Alia J. Crum and Peter Salovey, Shawn Achor
「ストレスにはプラスの効果がある」という考え方を持つ人のほうがストレスに強いことを明らかにした。

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