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グローバルリーダーが備えたい、対話力アップへの一歩とは?

グローバルリーダーが備えたい、対話力アップへの一歩とは?
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「タイ人にとって、日本人は、"スルメ"のような存在です」

在タイ日系大手メーカーのタイ人副社長Aさんは、流暢な日本語でそう仰いました。

バンコクに赴任して3カ月、タイの方から「スルメ」などという言葉が出てきて驚いている私に、

「日本人は、噛めば噛むほど、いい味が出るんです」

いくつものグローバル企業で勤務経験のあるAさんは、そう続けて解説してくださいました。

Aさん曰く、

「日本人は、人として信頼でき、長い付き合いをしたくなる人が多い。一方で、最初は分かりづらく、何を考えているのか、真意をはかりかねる。いい味が出てくるまでに、ほんとうに時間がかかる」と。

そして、「味が出るまで、タイ人が辛抱できるかが問題ですね」と、最後に苦笑しながら付け加えられました。

「日本人リーダーは、"スルメ"みたい」

これは、いったい、どういうことなのでしょうか?

世界と比較した、日本人リーダーの特徴は?

私は、弊社のタイ人コーチたちに聞きました。

「みんながコーチをしているタイの人たちは、日本人上司についてどんなことを言っているの?」と。

すると、こんな声が挙がってきました。

  • 日本人上司とは日常での接点が少ないため、何を考えているのかが分かりづらい
  • 何かをやっても、「それは違う!」と戻されるので、言われることだけをやるようにしている
  • 細かな指示命令は多いが、背景の説明がなく、信頼されていない感じがする

そうした発言を聞きながら、コーチング研究所が2015年に行った調査を思い出しました。

世界15か国、各国100人、計1,500人を対象に「組織とリーダーに対する考え方や実態」について調査したレポートです。(※1)

このレポートでは、「直属の上司と部下との関係がどれくらい良好か」の結果が、日本は調査対象国中、最下位だったのです。

各国の「上司と部下の関係における良好度」

図を拡大する

n=1,500(各国 100 人)
4 段階評価(1. 良好ではない、2. どちらかといえば良好ではない、3. どちらかといえば良好、4. 良好)
コーチング研究所調査 2015

また、「上司・部下間での良好度」と関係の強い要素は、「上司とのコミュニケーションが十分足りているかどうか」、つまり「上司との会話の充足度」であり、この2つは高い相関関係にあることがわかっています。(下図 相関係数:0.83)

「良好度」と「会話の充足度」の関係

図を拡大する

n=1,500(各国 100 人)
良好度   :4 段階評価(1. 良好ではない ,2 どちらかと言えば良好ではない ,3 どちらかと言えば良好 ,4. 良好)
会話の充足度:4 段階評価 (1. 全く足りていない ,2. どちらかと言えば足りていない ,3. どちらかと言えば足りている ,4. 十分足りている)
コーチング研究所調査 2015

では、「会話の充足度」は、どのように高めることができるのでしょうか?

なぜ、Aさんは日本人を「スルメ」と言ったのか?

異文化マネジメントを専門とするINSEAD客員教授のエリン・メイヤーは、著書『異文化理解力』(※2)の中で、日本人を「世界でも最もハイコンテクストな文化の国」と位置付けています。

「ハイコンテクスト」なコミュニケーションの特徴とは、繊細で含みがあり、多層的。メッセージは行間で伝え、行間で受け取る、のだそうです。

そうだとすると、たしかに、他人に分かってもらうまでに時間がかかる、ということは起こりやすそうです。つまり、タイ人副社長Aさんの言う「スルメ」になりやすい。

では、歴史や文化、価値観などの異なる海外で、「ハイコンテクストな文化」で育った私たち日本人は、どのようなことを意識して周囲と関わっていくと良いのでしょうか?

コーチ・エィのタイ拠点は、開設5年目を迎えますが、コーチングによって、部下との関わりの「量と質」を高め、タイ人部下の主体的な行動変容まで引き出し、成果を上げた日本人リーダーも数多くいらっしゃいます。

彼らがコーチングで増やした関わりは、

  • 相手が気づきや新たな視点を得る質問をする
  • 自身のコミュニケーションについてフィードバックを求め活かしている

などの行動であることが、実績データから見えてきています。

こうした日本人リーダーたちから「周囲との関わり方」の肝を得られるとしたら、コーチングで最も大切にしていることのひとつ、「人はそれぞれ違う」というスタンスに立つことではないかと私は感じています。

このスタンスに立つからこそ、「相手を知ろう」とすることを貫くのです。

「会話を充足させる」方法とは?

北海道日本ハムファイターズのピッチングコーチ、吉井理人氏の講演を聞いたことがあります。(※3)同氏は、主体性という点で影響を受けたコーチの一人として、ニューヨーク・メッツ時代のボブ・アポダカコーチとのエピソードを次のように語っていました。

メッツに入団して初めてのキャンプで、何回かピッチングしても、何も言ってくれない。あるときひょこひょこっと近づいてきたので「やっとアドバイスをくれるのかな」と思ったら、こう言うんです。

「お前のことをお前以上に知ってるやつはこのチームにはいない。だから俺と話し合ってくれ。それでどうするか、お互いに話し合いながら決めていこう」

日本では、投げていてどこかが悪いと「お前、ちょっと肘が下がってるぞ。もっと上げろ」といった指導がほとんどです。ところがメッツに行ったら「話し合いながら決めていこう」と言われたのです。野球を始めて以来、そんなことを言われたことがなかったので、本当にびっくりしました。

私たちエグゼクティブコーチは、相手と文化や価値観の違いがあることを前提として捉え、相手の立場に立って一緒に考えます。

どのように関わることが、相手の目標達成を促すことに繋がるのかを、時に直接、相手に尋ねてフィードバックをもらい、相手にとってより効果的な関わり方になるよう軌道修正をし続けます。

コーチングスキルを身に付ける醍醐味は、まさにここにあると思うのです。

味が出るまで待ってもらえない「スルメ」ではなく、より早く、いい味のする「スルメ」になるために、

  • 今より少し、一緒に考えるための問いを増やす
  • 今より少し、自身の関わりについてフィードバックをもらう

それこそが、文化の違いを乗り越え、その国の人々と協業していくグローバルリーダーに必要な、対話力の一歩目になると思うのです。

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【参考資料】
※1 コーチング研究所調査「組織とリーダーに関するグローバル価値観調査2015」(2015年)
※2 エリン・メイヤー (著)、田岡恵(監修)、樋口武志(翻訳)、『異文化理解力 相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』、英治出版、2015年
※3  「投手コーチの教え 第3回 仰木・野村監督、名指導者たちから学んだこと」、 北海道日本ハムファイターズ ピッチングコーチ 吉井理人氏

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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