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ビジョンは、ビジョンを語る人自身に浸透する

ビジョンは、ビジョンを語る人自身に浸透する
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「ビジョンの浸透」をテーマに社長のエグゼクティブ・コーチングが進んでいるエンターテインメント企業があります。先日、社長Aさんの依頼で、役員合宿にファシリテーターとして参加してきました。

同社は今秋に、新中期経営計画を策定します。

合宿の目的は、この新中期経営計画の先にある会社の理想の姿、つまりビジョンについて役員同士で議論すること。2日間にわたり、侃々諤々の議論が続きました。

そんな熱い合宿後のコーチングセッションでAさんが話し始めたのは、「合宿でショックだったこと」でした。

社長は何にショックを受けたのか?

社長のAさんがショックだったのは、現在のビジョンで頻繁に使われている「エンターテインメント」という言葉についてでした。

Aさんがショックを受けたのは、役員間での「エンターテインメント」という言葉の解釈が異なっていたという事実。それも、ときには大きく違うこともあったというのです。

Aさんには、これまで役員たちと頻繁に会社のビジョンについて話をしてきたという自負心がありました。だからこそ、「エンターテインメント」という単語レベルで各人の捉え方が違っていたことが、何よりのショックだったのです。

「いつもあんなに話しているのに、意外に伝わっていないのだな...」

その日、Aさんは何度もつぶやきました。

そこで、私はAさんが過去にビジョンや伝えたい話を誰かと「心底共有できた」と実感できたことがなかったかを聞いてみました。

すると、少し照れ笑いをしながら、話し始めました。

「うちの役員との間ではないのですが...。ある経済記者に取材されていたときに、それに近い体験をしましたね」

「その記者は、時々こちらが想定していない鋭い質問をしてくることがあってね。それになんとか答えると、遠慮なくまた次の突っ込みの質問が来る。そうこうしているうちに、自分も記者にどう伝わったのかが気になって聞く。そんなやり取りを続けていくと、いつの間にか、お互いに同じ絵を共有していて、わかってもらえた、という実感がわいた不思議な体験でしたね」と。

その日のセッションの最後、Aさんは

「ビジョンについて話していたつもりだったけれど、私からの『一方的な伝達』だったのだと思います。お互いにやりとりをすることなくビジョンを共有するのは難しいのでしょう。一方的では、相手がどう捉えているのかが分かりませんから」と仰いました。

そして、「ただし」と続けました。

「ただし、『やり取り』に忖度が発生するのでは意味がない。互いが率直に感じた疑問をぶつける、答える側も正直に感じたことを伝える、忖度なく話すことが大事なんだろうな」と。

「出口」を増やすために「入口」を増やす

「ビジョンの共有」と共にコーチングのテーマになるのが「ビジョンの浸透」です。「ビジョンの浸透」とは、ビジョンの実現にむけた組織の中に「望ましい行動を増やす」ということです。

人や組織の行動マネジメントを考えるうえで、シンプルでわかりやすいプロセスがあります。

「話す」→「考える」→「アイディア」→「行動」

というものです。

ある「行動」をどんなに増やそうとしても、何かきっかけがなくてはその行動は起きません。人の「行動」の直前には、その行動に関する何かしらの「アイディア」が必要だからです。そして、その「アイディア」が生まれるには、その直前にそのことについて「考える」ことが必要です。

この「考える状態」を誘発するのが対話です。つまり、「話す」という行為です。

この考え方に基づけば、出口にあたる「行動の量」を増やしたければ、入口の「話す量」を増やせばよいことになります。つまり、ビジョンについて対話する機会を増やせば、ビジョンに関連する行動の量はおのずと増える、ということです。

では、その機会はいかに創っていけばよいのでしょうか。

ビジョンを「話題化」する仕掛けとは?

ビジョンについて「日常的に話す」つまりビジョンの「日常的な話題化」にはいくつもの方法があります。いろいろなアプローチを組み合わせてシナジーを発揮させていくことが肝要です。

どれが正解というものはなく、参考までに3つのアプローチをご紹介します。

「問い」をマネジメントする

コーチングでよく活用される代表的なアプローチのひとつです。

部下の思考や行動にもっとも影響を与えるのは、「直属の上長」が日常的に投げかける「問い」です。その上司自身も、さらにその上長たちからの「問い」に影響を受けています。

このロジックを突き詰めると、「組織の問い」の発信源はその組織のトップ、ということになります。

その意味で、経営層が意識的に「ビジョンにまつわる問い」を発信し、部下たちと日常的に話題にしている状態を創ることは、組織全体への波及に有効な方法といえるでしょう。

業務判断の軸にする

「遊び心」という言葉をビジョンにおいている企業があります。

「遊び心」には、自ら仕事を楽しめていること、お客様の期待を上回るレベルのサービス提供を行うこと、そんな思いがこめられています。

この会社では、「遊び心」を日常で大小さまざまな判断を下す際の「業務判断軸」にしています。たとえば、お客様イベントの会場を3つの選択肢から選ぶ場合、「遊び心がある会場は?」という問いが誰からともなく投げられます。

1on1ミーティングで扱う

最後に、最近多くの企業が取り入れている1on1ミーティング制度と評価制度を紐づけたケースもあります。これは、ビジョンで掲げているキーワードを評価項目に組み込み、上司と部下の間の1on1ミーティングの話題にする、というものです。

ビジョンは、ビジョンを語る人自身に浸透する、と言われています。

さまざまな工夫を凝らしながら、多くの人が日常的にビジョンをより多く語れる機会や環境を作ることは、ビジョン浸透に向けた一里塚といえるかもしれません。

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