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当たり前を打ち破る
コピーしました コピーに失敗しましたラグビーワールドカップが日本でスタートしました。
ラグビー経験者としては、胸が高まる思いです。
私の出身高校は、静岡聖光学院といいます。今では花園(全国大会)の常連校で、「週刊ダイヤモンド」のワールドカップ直前ラグビー特集では、「ラグビーでリーダーを作る/文武両道の強豪校を直撃」という記事で紹介されたほどです。
同校ラグビー部の佐々木陽平監督曰く「短時間練習で結果を出しているチームに共通しているのは選手に『主体性』がある」と。そして「思考の質で相手を上回る」ことをテーマにしているそうです。
母校が県ではじめて優勝したのは34年前。
私が高校3年で主将を務めていた時でした。
当時の監督は、「いいか! 優勝するぞ!」と、溢れる情熱でいつも部員にはっぱをかけてくれていました。
本人は「ラグビー未経験者」にも関わらず...。
「ラグビー未経験」の監督の下、なぜ優勝できたのか?
「いいか! 優勝するぞ!」というラグビー未経験の監督の下、戦術は自分たちで話して考えるしかありませんでした。
当時は今のように、YouTubeなどの動画サイトやケーブルテレビもありません。
社会人や大学生のラグビーの試合をテレビで見るのでさえ年に数回。ましてやオールブラックスの試合なんて見たこともありませんでした。
せいぜい「ラグビーマガジン」を見て、あれこれ想像するくらい。ほとんど情報がありません。
だから、サインプレーを考えようにも、参考になるものがないので、ひたすら自分たちで、「まっさら」のところから考える。
結果、これが、とてもユニークなアタック方法を生み出しました。まさに、「主体性」と「思考の質」。
あるとき私は、静岡県代表の選抜合宿に呼ばれました。自分と同じポジションには、強豪校からもう一人。どちらが代表の正ポジションをとるかの争いでした。
代表のコーチが、試合形式の練習の時に、強豪校の選手に「お前も聖光のやつみたいにいろいろやってみろよ」そう言い放ちました。
明らかにアスリートとしては彼が上。
今思えば、相手は強豪校の監督の下、言われたことをしっかりやっていたのでしょう。一方、ラグビー未経験の監督の元でやっているこっちは、日ごろから「いろいろ」やっていた。
34年も前のことですが、今もはっきり憶えています。
考え続けるための「仕掛け」
先日、ハーバードで学位を取得し、予防医学研究者として活躍している石川善樹さんに弊社で講演をしていただきました。
講演後、石川さんの大親友だという楽天のCDO(チーフ・データ・オフィサー)北川拓也さんのことに話が及びました。弊社では、北川さんにも別の機会に講演していただいたことがあったのです。
北川さんは、ハーバードで理論物理学の博士号を取っています。理論物理学者として20本以上の論文を出されているほか、楽天ではグループ全体のデータ戦略と実行を担当し、海外拠点の組織も統括。さまざまなビジネスイノベーションを推進されています。
石川さん曰く、
「拓也(北川さん)に成功の秘訣を聞いたことがあります。すると、『研究者はまず論文をたくさん読め』と言われるけれど、あれは間違いだと。論文をたくさん読んでしまうと、過去の研究に影響されてしまう。
だからまずは『自分の中で問いを立てる』必要がある。自分が解き明かしたくてしょうがない、研究者としての問いを立てる。論文を読むのはそれからでもいい。心から自分で探究したい、という状態にならないと、考え続けられないから、と言ったんです」
なるほどなあ、と思いました。
自分のラグビー体験にも通じる話です。
模範や先行事例がなかったから、考え続け、いろいろ新しいことを思いつくことができた。
そう思うと同時に、この話は、ビジネスにどう活かせるだろうか? と考えました。
過去に影響されず、新しいことを発想するには?
イノベーションが常に求められるこの時代、多くのビジネスマンが、新しいアイデアの提言を求められています。
仕事では、自分の専門分野に関するたくさんの情報に触れ、影響も受けている。そういう時はどうすればいいのか?
シリアルイノベーターとして名を馳せている濱口秀司さんをご存じでしょうか?
多くのメディアが「世界で活躍する希代のビジネスデザイナー」として彼を紹介し、その実績に言及しています。マイクロソフトをはじめ、世界中のトップ企業が彼の「脳」を新しいビジネスを生み出すことに使おうとしています。
濱口さんの論文集「イノベーションの作法」では、要約すると次のように言っています。
- 先入観や既成概念を「バイアス」という
- 専門家ほど「バイアス」が強くなる
- この「バイアス」こそが、新たなアイデアの妨げとなる
- 「バイアス」を壊すことが、イノベーションにつながる
つまり、「バイアス」を壊すことで「まっさら」な状態、経験や先入観に影響されない状態に近づける、ということです。
本の中ではさらに、どのようにすれば「バイアス」を壊せるかについて、濱口さんが長年積み上げてきた方法論が記されています。
詳細な手法は著書を参照いただきたいですが、私なりにそこから切り取った方法は、「当たり前を打ち破る」です。
自分が長い経験を持ってやっていることの中で、至極当然と、"あまりにも"当たり前にやっていることが何かを認識し、それに変化を加えてみる。
全く疑うことなく、あまりにも当然にやっていることにこそ、イノベーションのヒントが隠れているからです。
ただ、普段は「当然のこと」としてやっているわけですから、そのことに気づくこと自体が結構難しい。
だからこそ、問いとして顕在化させ、チームメンバーで集まり話し、一緒に頭をフル回転させて考える。
「私たちが、何の疑いもなく当たり前にやっていることはなんだろう?」
例えば、私たちの仕事の専門性はコーチングですが、何の疑いもなくやっていることは何か?
- コーチングは常に、コーチ1人とクライアント1人の2人でやっている。
→コーチが2人クライアントが1人、コーチ1人クライアントが2人など、3人でやってもいいのではないか? - コーチングは30分、もしくは1時間でやっている。
→3分で電話でやってもいいのでは? それを毎日。あるいは3時間1オン1でやってはいけないのか? - コーチが質問してクライアントが考えている。
→クライアントに質問をしてもらってもいいのではないか? それを起点に一緒に考える。
など。
実際に自分たちで議論してみて思いましたが、「当たり前を打ち破ろう」とする営みを持つと、議論はとても活性化します。
脳の今まで使っていなかったところが刺激される感じがあります。
きっと、無意識にバイアスによって蓋をされていたところが外れるのでしょう。
チームで「当たり前」について話してみてはどうでしょうか?
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