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なぜ、あなたは要求が苦手なのか?
コピーしました コピーに失敗しました部下が成果や成長を手に入れるために上司にできることは何でしょうか。
- まずは、自分がやってみせる
- 成功体験や失敗体験を話す
- 任せる姿勢を持つ
- わかりやすく具体的に教える
- きちんとほめる
などなど、日々実践されていることは数多くあると思います。
では、「要求する」はどうでしょうか?
なぜ「お願い」してしまうのか?
部下が自分の枠を越えて変化したり、新たなことに挑戦したりするには、「この仕事、今までとは違うやり方で来週までに仕上げて欲しい」など、時に上司が「要求」し、適度なストレスを与えることも効果的です。
「ヤーキーズ・ドッドソンの法則」という、ストレスと生産性の関係性を表した法則によると、人は高すぎず、低すぎない適度な緊張状態(ストレス)にある時に、最適なパフォーマンスを発揮できるというエビデンスもあります。
つまり、「成果を出し、成長を手に入れて欲しい」という願いが根底にあった上でストレッチな要求を伝えることは、上司の役割上、必要不可欠なことと言えます。
でも、「要求する」のは、時に難しいこともあります。
事実、部下に「~して欲しい」「~しないで欲しい」と、はっきりと伝えることを苦手としている人も少なくないでしょう。
相手に嫌われたくない、「いい人」でいたいと思うと、ついつい
「できれば、その仕事を〇〇のようにやってもらえると嬉しいのだけど...」
「もしよかったら、こんな風にしてもらえないだろうか?」
など、丁寧な言い回しで「お願い」してしまうのです。
では、「相手の成長のためにも、要求することが大事だ」と思いながらも
「断られたらどうしよう?」
「一方的に要求するのは、相手に申し訳ない」
「この要求を伝えたら、気を悪くしないか?」
といった不安や恐れ、感情が生まれるのはどんな時に起きるのでしょうか?
「要求する」前に必要なこと
ストレートに「要求する」ことに抵抗感を覚えるとき、私たちは自分とその相手の間に信頼関係が築けていないことをうすうす感じているのかもしれません。
* * *
コーチ・エィでは、数万人のリーダーに対するコミュニケーション調査を元に、部下の成長や行動促進に長けたリーダーとそうでないリーダーの行動の違いを、メンバーとの関係性の発達度合いの観点から分析しました。
すると、部下のパフォーマンスを高めるリーダーは、相手との関係性の度合いに応じて、次のように関わり方を段階的に使い分けていることがわかったのです。
- まず、「受容や共感」を示し、メンバーが「安心」する状態を作る。
- 次に、「関心や理解」を示すと、メンバーが「自信」を持つ。
- 最後に、「期待や要望」を伝えることでメンバーの「行動」が促進される
つまり、どんなにコミュニケーションの方法論やスキルを持っていても、相手との関係性の構築度合いを意識しなければ、相手に伝わらない、理解されないといったことが起こる可能性があるということです。
言い方を変えると、「安心」や「自信」につながる信頼関係が構築できていなければ、どんなに「相手の成長を願った要求」も受け入れてもらいにくい、ということが言えます。
部下の上司に対する声に「上司が自分に何を望んでいるかがわからない」というものがあります。これはまさに、部下が安心も自信もないことの表れでしょう。
そんなときは、
「最近、困っていることは何か?」
「上司に求めていることは何か?」
と自分への要求を聞き出してみてはどうでしょうか。
部下が自分に何を期待し、どんな要求を持っているかを知ることで、自らの期待や要求を伝える前に必要な「部下との信頼関係」を手に入れるきっかけになるかもしれません。
ピーター・ドラッカーは、「優れたコミュニケーションは何か」として4つの基本原理のひとつに相手への「要求」をあげています。(※)
「コミュニケーションは常に、受け手に対し何かを要求する。受け手が何かになることを、何かすることを、何かを信じることを要求する。それは常に、受け手それぞれの何かをしたいという気持ちに訴えようとする」
つまり、上司と部下のコミュニケーションとは、受け手(部下)に何らかの要求をすること、部下の変化や成長に働きかけること、とも言えます。
「要求する」ことで、相手が成功や成長に向けて新たな行動を起こしたり、よりよい行動に変えたり、マイナスの行動をやめることが可能です。
あなたは、部下の成長に向けてどんな要求をしたいですか?
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【参考文献】
※ P・F. ドラッカー (著)、 Peter F. Drucker(原著)、上田惇生(翻訳)、『プロフェッショナルの条件』、ダイヤモンド社、2000年
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