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コーチングでないもの
コピーしました コピーに失敗しました今週末、10年ぶりに本を出します。タイトルは『新 コーチングが人を活かす』。2000年に上梓した『コーチングが人を活かす』の大改訂版です。
改訂した理由はいくつかありますが、一番大きな理由はコーチングの「表現の仕方」を変えたかったからです。
旧版では、「コーチングとは、相手の中にある答えを、質問によって引き出すもの」と繰り返し表現しました。当時は、コーチとは質問の仕方を「知っている人」であり、質問を武器に、相手の内側に深く切り込んでいく人。そんなイメージをもっていました。
しかし、長年コーチングに携わる中で、「相手の中にある答えを、質問によって引き出すもの」だと語ることにはいくつかの問題があると思うようになりました。
若干重複するところもありますが、大きく以下の3つの問題があります。
引き出す側と引き出される側
1つ目は、コーチングを「答えを引き出すもの」とした瞬間に、引き出す側と引き出される側に分かれてしまうこと。
つまり、二極化されてしまう。
コーチは、質問の仕方を知っているちょっと偉い人。コーチを受ける側は、質問によって分析されていく人。
コーチングを始めた上司が、部下から受ける批判のなかに、
「そういう意図的な、自然でないコミュニケーションは止めて欲しい」
というものがあります。これは、肩ひじを張って「引き出す」というスタンスを身にまとった上司へのフィードバックなのでしょう。
二極化してしまえば、二人の間から、コーチングで最も大切な「コラボレーション」が失われてしまいます。
引き出しにかかる上司。上司に探られていく部下。そんな構図が見て取れます。
質問と「正しい答え」の関係
2つ目は、「質問」という言葉が生み出すイメージです。「質問」の漢字を分解すれば、その意味は、「問い質す(ただす)」です。「質す」というのは、確かめるということ。つまり、日本で「質問する」ということは、もともと「相手が知っているかどうかを確認する」という意味をもつのでしょう。
実際に私たちは、学校教育を通じて、質問されたら「知っているということを相手に示さなければいけない」、言い方を変えれば「正解を出さなければいけない」と条件づけられています。
ですから、コーチングをする上司が、「質問する」という意識でクエスチョンを部下に投げれば投げるほど、部下は「正しい答え」を返そうしてしまうのです。
本来は主体性を高め、自らの考えを自由に、そして堂々と語ってほしいのに、部下は上司の期待する答えを当てに行ってしまう。
それではコーチングになりません。
「答え」はどこにあるのか
3つ目は、答えのある「場所」です。
「答えは相手の中にある」とすると、コーチングする側はその問題の部外者であり、その答えを遠巻きに観察するような感じになります。
たとえば部下に
「どうすれば君のチームはもっとよくなるだろう?」
と問いかける。本来は、上司も部下と一緒に、その問いに向き合いたいわけです。その問いを前に、部下と一緒に考える。
一緒に考えるからこそ、その問題に対する上司の関心が高まり、多くの問いが上司の中に生まれ、部下にそれを投げかけることができる。
しかし「答えは君の中にあるもので、君が考えるものだ」としてしまうと、上司にとっては「どうすればチームがよくなるか」という問いは自分のものにならず、部下の思考を促進するための幾多の問いが上司の中で創出されません。
答えは、相手の中ではなく「二人の間」にあるのです。二人でその問いに一緒に向き合い、一緒に答えを探索する。
(そもそも「答え」という表現も、あまり適切ではないといえます。「答え」というと、正しい唯一の解があるように聞こえてしまう。そうすると、探索は止まってしまいます。あくまでもその瞬間の一旦の回答ぐらいに考えた方が、思考は継続されるでしょう。)
以上の3つが、 旧版で示したコーチングの解釈についての問題点です。
改めて「コーチングとは」
ここまで読んでいただいておわかりになるように、新しいコーチングの解釈とは、
「『質問』ではなく『問い』を『二人の間』に置き、上司と部下で『一緒に探索』しながら、部下の『発見』を促していくもの」
ということになります。
旧版は、幸いにも、20年間で20万部が売れました。ということは、日本におけるコーチングに、それなりの影響を与えただろうと思います。
もちろんそれでも、一方的に話し、指示だけをして、部下のやる気をそぐようなコミュニケーションよりも、相手の中に答えがあると信じ、それを引き出そうとするコミュニケーションのほうが、ずっとずっと部下のやる気にポジティブな影響を与えるでしょう。
しかし、さらに相手の開発につながるようなコミュニケーションを周囲の人たちと交わしていただきたいと考えたときに、コーチングの新しい解釈をお伝えするのが一番だと思いました。これが、今回、改訂版を出すに至った大きな理由です。
このコラムの内容が、少しでもみなさんのコーチングにお役に立てば嬉しく思います。
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