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能を知り、組織を知る

能を知り、組織を知る
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経営者やビジネスリーダーの方々には、アートをお好きな方が多いように思います。三年前には山口周さんの 『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』 がベストセラーになり、経営におけるアートの視点に注目が集まりました。

私自身は、祖母の影響で幼少より日本伝統芸能に触れてきましたが、特に、大学時代に稽古を始めた「能」が好きで、今秋、久しぶりに舞台に立つ予定です。

世界最古の舞台芸術である能ですが、650年以上存続し続けている組織体であることを考えると、サステナブル、長期的発展を志向する組織リーダーにとって、参考にできることがあるかもしれません。

能の芸能としてのユニークさは多々ありますが、私は特に二つの点が、他の芸能と比較して特徴的だと感じています。

「絶対音」がない

ひとつめは、絶対音がないこと。能には謡(うたい)という声楽のパートがありますが、謡にはドレミのような絶対的基準となる音の設定がありません。謡本(脚本)に音階はなく、音の高さは「上(高音)・中・下(低音)」という相対的な表現で記述されています。

したがって、稽古も本番も、その時の体調や気温、湿度、相手に応じて、周りと微妙に調整しながら全員でその日の音をつくっていきます。また、オーケストラの指揮者のような存在もなく、一人ひとりが全員の声をよく聞き、お互いに働きかけあい、影響しあいます。

観客に「観る」だけを許さない

ふたつめは、観客の参画を求めていること。能は、観客の知識や想像力、創作力を、舞台を完成させるための前提としています。

極限まで簡素化された舞台には、オペラや歌舞伎のように大掛かりな舞台装置や道具がありません。ストーリーに登場する山、川、家などは舞台上にないため、観客には想像力が求められます。

「楽しませてもらう」という受け身では、能の舞台を本当の意味で楽しむことができず、自分の参画があって初めて能は完成するのです。

つまり、能では、演じる側も観客も、その場にいるすべての人に存在意義があり、互いに影響し合ながら、舞台を完成させているのです。

完成させない、用意しすぎない

組織メンバーに、参画意識、情熱をもってほしいと願うリーダーにとって重要なことは何でしょう。

随筆家で、能に造詣も深かった白洲正子さんは、能の見方として次のようなことをおっしゃっています。

「たとえシテ(主役)の心を見ようとしても、それはまだ外部から見ているのであって、いつもお能と自分の間には溝があるわけです。たとえ向こう側のけしきをどんなに見ていようとも、この溝を飛び越えなくては向こう側には行かれません。

舞台にあるものはシテではなくて、それは自分自身がおどっているのです。それは心の中で自分もおどる気持になるのともまたちがいます。

そのようにシテをみながら自分がおどるのではなく、シテの踊りもみえなくなるほど没入することです」※

能にヒントを求めるのであれば、「リーダーが完成させない、用意しすぎない」ということではないでしょうか。

一人ひとりに「自分自身が成功に向けた重要なピースであること」を自覚してもらう。さらに「ピースにとどまらず、自分の在り方や想像力、創作力次第で、全体の成功に大きな影響を与えることができる」という視点をもってもらう、ということだと言えるかもしれません。

そのためには、視点を変化させ続ける必要があります。

感動を大きなものにするために

世阿弥は、「離見(りけん)の見」という言葉を使い、主観的に自分を見つめる視点と、自分を客観的に外からとらえる視点の必要性を述べました。

「離見の見」は、役者への戒めとしてのメッセージですが、私は、役者だけではなく、観客側も含めて、その場にいる全員に必要なことだと捉えています。

コーチングは、クライアントとコーチの間に問いを置き、物事の捉え方を再考する、探索するプロセスです。

能舞台から観客が常に問われ続けるように、リーダーはメンバーに対して「どの視点から組織を見ているのか」について、常に問いかける必要があるのではないでしょうか。

それは高いパフォ―マンスを出すためであるとともに、組織に参画し創作する感動を、大きなものにするためでもあるのです。

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【参考資料】
※ 白洲正子(著)、『お能 老木の花』、講談社文芸文庫、1993年

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