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「感じていること」を聞く
コピーしました コピーに失敗しました秋も深まってきました。みなさんは最近どんな本を読んでいらっしゃるでしょうか。
私自身は毎晩、5歳児、3歳児と一緒に、絵本を読みながら眠りにつくというルーティンがここ数年続いています。一緒に読む絵本の中で、子どもたちが大好きなのが五味太郎さんの『質問絵本』です。
『質問絵本』には、質問が15問。
「男の子がごちゃごちゃおりますが、さて、 将来すごく出世しそうな子はどの子でしょうか? そしてその理由は?」
「ごらんのとおりの海です。さて、いちばん楽しんでいる人はどの人かしら? いちばんつらい思いをしているのはどのひとかしら?」
五味さん独特の温かい絵とともに、正解のない質問が各ページに一つずつ書かれています。
子どもたちは、いつも楽しそうに自分なりの答えを教えてくれます。質問によって、毎回同じ答えになる質問もあれば、毎回答えと理由が変わる質問もあります。
時折、子どもたちから「ママはどう思う?」と聞かれて答えると、
「前と同じ!」
とよく突っ込まれます。私の答えは変わらないことが多く、ワンパターンで絵本を見ている自分にハッとします。そして、自分の感じていることには目を向けずに外部基準に頼り、正解を求めて考えている瞬間が多いことに気づかされます。
なぜ、コーチは「感じていること」を聞くのか
エグゼクティブ・コーチングをしている中で、少し遠くに視線をやりながら思い巡らすクライアントが多いのはこんな質問です。
「あなたの会社は今どれぐらい華やいでいますか?」
「気分が乗っているのはどんな時ですか?」
「○○専務と話した後、体のどこにどんな感じがしますか?」
みなさんはいかがでしょうか? こうしたことに目を向ける機会はどのくらいありますか。
ICF(国際コーチング連盟)が定めるコーチとしてのコア・コンピテンシーには、「感じていること」にまつわる項目が多くあります。
- クライアントの感情、エネルギーの変化、非言語的な合図、またはその他の行動に気付き認識し探索している
- クライアントの言葉、声のトーン、ボディランゲージからの情報を統合し、伝えられていること全体の意味を把握している
- クライアントのテーマやパターンを見定めるために、一連のセッションの中でクライアントの行動と感情の傾向に気づいている
コーチングは、クライアントの行動や意識が変わることを目的にしています。だからと言って、行動や意識ばかりをテーマにするわけではありません。行動や意識に大きな影響を与える「感じていること」についても問いかけます。
しかし、職場においてはどうでしょうか。行動に大きな影響を与えるとわかっていながらも、自分や相手の「感情」をどこかに置き去りにしたり、「仕事とは無関係だから」とあえて「感じない」ようにさえしていないでしょうか。
とはいえ、この「感じていること」について聞くのは、言うほど簡単ではありません。
「必要以上に感情が高ぶられたら収拾がつかなくなるのでは」
「自分にとって聞きたくないことがたくさん出てきたらどうしよう」
といった不安や恐れを伴うものであることは言うまでもありません。職場において感情を扱うのは、手間のかかる面倒くさいこと、厄介なこと、さらには不適切だと捉える人も少なくないかもしれません。
中には、職場では不適切なので「飲みに連れて行ってガス抜きさせよう」という手段で切り抜けてきた方もいらっしゃるかもしれません。しかし「ガス抜き」という発想こそ、そもそも感情が組織に与えるインパクトを、無意識であれ多くの人が理解している証左と言えるのではないでしょうか。
これまで「感じていること」は、主に職場の外で扱われてきました。しかし、働き方が大きく変わりつつある中、もはやその方法だけでは限界があります。
どうすれば「感じていること」を聞けるのか?
「感じていること」を聞くときに参考になるのが、冒頭の『質問絵本』です。
第一に、『質問絵本』には正解が書かれたページがありません。
「あなたが自分が思うこと、感じることを何でも自由に表現していい」「言うことが変わってもいい」という暗黙の合意があります。相手とこの合意を確認してからスタートすると、それまでの関係から少し前提を変えてコミュニケーションができるでしょう。
第二に、『質問絵本』にはクリエイティビティを刺激する「絵」があります。
絵は、感じることをそのまま表現するための良い媒介になっています。あなたと部下や誰かが話すとき、その場はお互いに感じていることを自由に表現しやすい環境になっているでしょうか。
私のクライアントで、自分の机の周りにユニークなグッズをたくさん置いたり、オンラインミーテイングの背景を毎回変えたりしてミーテイングに臨まれる社長がいます。無味乾燥としたオンライン会議で、少しでも場を和ませ出席者が話をしやすい環境にする狙いだそうです。
第三に、何と言っても、質問が面白いことです。
「わりと平気で失礼なことを言うのはどの先生でしょうか?」
「さて、これからおきるのはどんな事件でしょうか?」
答えてみたくなる質問ばかりで、だからこそ、子どもたちは何度も「また読んでー!」とせがんできます。
あなたが部下や周囲にしている質問は、何度も答えたくなる質問でしょうか。質問している自分も一緒になって考えたくなる興味深い質問は、自然と相手を巻き込むパワーがあることを、この本は体験させてくれました。
* * *
さて、質問です。
あなたの身の回りで、自分が感じていることを、どうしてもあなたに聞いてほしいと思っている人は誰でしょうか?
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【参考資料】
五味太郎作『質問絵本』ブロンズ新社、2010年
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