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3人の師匠と「カオス」

3人の師匠と「カオス」
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私のキャリア上で「師匠」といえる人が3人います。

ひとり目は、大学院時代の恩師である臨床心理学者の霜山徳爾先生です。ふたり目は、私の精神科での最初の指導者だった丸野廣先生、そして3人目が、コーチ・エィのファウンダーである伊藤守です。

彼らを「師匠」と呼ぶ理由は、この3人の出会いの前と後で、たしかにそれまでと違った自分を構築できたと思うからです。出会った当時に変化として感じていたこともあれば、年を経て実感する変化もあります。

自分の言葉で表現できるまで続けられた問答

霜山先生は、私たち臨床心理学を学ぶ学生に対して、禅の公案ともいえる「問い」を投げかけていました。たとえば、

「人間に対する深い愛情と同時に人生に対するペシミズムなくして、いかなる心理療法もあり得ない。なぜか?」

とか

「『人間の間では communication は可能であるが、 communionは不可能である』といった人(統合失調症患者)がいるが、それはいかなる意味か?」

などなど。自身の今までの知識や経験を総動員しても、なかなか答えのでないような「問い」です。そして、学生がその「問い」に対する答えを、自分の言葉や行動として表現できるまで、その問答は繰り返されました。

未知との出会い、自分との出会い

丸野先生は、私が普段接することのない世界と触れる場をたくさんつくってくれました。丸野先生の導きで、著名な芸術家やアスリート、僧侶、新聞記者や精神分析家と場を共有し、その場で発言するたびに「今の自分では通用しない」という居心地の悪い場面を何度も体験しました。3人目の師匠である伊藤との出会いも、丸野先生がきっかけでした。

伊藤からは、いろんな文脈を通して間接的に、また時には直接的に

「どんな人生をつくりたいのか?」
「周囲にどんな貢献をしていきたいのか?」
「今、何を選択しているのか?」

と問われ続けます。毎日、急行列車に乗っているような感覚で仕事をする中で、伊藤の「問いかけ」は、列車から降り、止まって自分を観る機会をもたらします。伊藤からはそうした問いかけだけではなく、想像を超えるスピード感のプロジェクトを任されたり、より大きな目標をリクエストされることも度々あります。

カオスへの誘い

3人の師匠に共通することは、3人との関わりを通して、私は一時的に「カオス」とも思える状態に陥ることです。今まで自分が有してきた知識や経験や前提では対応できない「問い」が目の前に置かれ、その「問い」にどう答えたらいいのか、どう行動したらいいのかわからない混沌とした状態に陥るのです。

しかし、その「問い」を目の前にして、居心地が悪くても、じたばたしながら向き合っていると、次第にそこに何か新しい視点が生まれ、今までとは違った世界への関わり方ができる自分に気づきます。自分が新しく構築されたような、一皮むけた体験です。

こうして振り返ると、新しい自己を構築するような大きな変化、トランスフォーメーションには、カオスがつきものなのかもしれません。カオスとは、それまでの前提や秩序を揺さぶられるような体験です。

師匠たちは、私を「カオス」に誘います。でも、その「カオス」は、私自身が壊れてしまわない程度の「カオス」です。そして、私がその「カオス」を乗り越えるのを見守ってくれていたのだと思います。

大きな変革を率いるリーダーにできること

同様に、組織の変革過程においても、カオスは必要な要素なのかもしれません。これまでとは違うものの考え方、動き方をする組織にしたいと思うのであれば、それまでの秩序や前提を壊す必要があります。なぜならそれらの秩序や前提が、時に組織の限界を作っている場合があるからです。組織が大きく生まれ変わるような大きな変革には、そうした前提を揺さぶるような「カオス」がつきものなのでしょう。

そして、変革を率いるリーダーは、自らもカオスに巻き込まれるのではなく、リーダー自身が「カオス」を用意することが求められるのかもしれません。では、リーダーはどんな「カオス」を用意すればよいのでしょうか?

ひとつのアイディアは、「対話の文化」を組織に導入することです。

変革にカオスを

「対話」とは、「違い」が前提となるコミュニケーションです。「対話」では、各自が培ってきた経験や解釈、価値観をもとに情報交換し、「お互いの違い」を顕在化させます。しかし、もともと人は、生存確率をあげるために協調関係を大事にしてきた種なので、基本的には「お互いの共通性」を大事にするコミュニケーションを好む傾向にあります。だからこそ、「対話」によって違いが顕在化することを、居心地悪く感じたり、自身を否定されたと捉える人もいます。つまり、「対話」は交わすこと自体が、コンフリクトを起こす可能性があるのです。

そこに「カオス」が生まれます。これまでの自分の考え方、ものの捉え方が揺さぶられ、じたばたする思いに囚われるかもしれません。そこから逃げるのか、向き合うのか。それが問われます。

「カオス」を越えて、「対話」を選択し続けることで、私たちはお互いの「違い」を認識し、無自覚だった組織の固定概念や前提に気づくことができます。知らず知らずのうちに、固定概念や前提の虜になっていた自分たちの組織のありように気づきます。そのプロセスを通して、初めて組織内に新しい概念や考え方を選択することができるようになります。そのことが、組織の成長や発展を促進していくのです。

組織にカオスを導入する際には、リーダーがその組織メンバーを信頼し、そのカオスを乗り越えることを、一緒に体験していく覚悟がまずは、必要になります。

あなたは、人と組織を変えていくために、どんな「カオス」を用意しますか?

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