Coach's VIEW

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スピードを上げる、パーパスとつなぐ

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ある大手金融会社のAさんは、昨年、常務からCEOに就任しました。CEO就任間もない頃、Aさんからセッションでこんな話がありました。

「会社の文化を、指示したらそれに従ってスピーディに動ける会社に変えていきたい。今の文化のままでは、投資家からの評価が得られるようなビジネス展開も難しく感じています」

指示したら、それに従ってスピーディに動ける組織にする。これは、全てのリーダーが、多かれ少なかれ望んでいることかもしれません。

Aさんは「スピーディに動ける会社」に変化させるには、まずは直属の経営幹部たちとの共感は欠かせないと考えました。そこで、役員との1on1の時間を継続的に大切にしつつ、役員合宿を企画したり、対話会といった社員とのコミュニケーションも積極的に行ったりしていました。

話されていないことは何か

就任して半年ほど過ぎた頃、Aさんがコーチングの中で不安を口にすることが増えました。

「スピードが一向に上がりません」

同じ頃、コーチである私に、役員の方々から不満の声が聞こえ出しました。コーチングの一環で、周囲のキーパーソンたちにインタビューをしてみると、Aさんの期待する「共感」とは程遠い現状が見えてきました。

「社長の頭の中に、答えはすべてあるのです。『俺の言う通りにやれば成果は上がる、なのになんでやらないんだ』と言われているように感じます」

「たくさんの社長対話会を実施しています。しかし、対話会自体は予定調和なもので、想定問答を用意している部さえあります」

Aさんはインタビューサマリーに書かれた部下たちからの声を苦虫をかんだような表情で見つめながら、言葉を絞り出しました。

「あんなに話し合ってきたのにもかかわらず、役員にさえ、施策、計画が自分ごとになっていないのはショックです」

「あんなに話し合ってきたのに」という言葉に象徴される通り、Aさんは役員や社員と話し尽くしてきたと思っていました。しかし、インタビューで聞こえてきたのは、「肝心なことが話せていない」「聞かれていない」という声です。私はしばらくAさんと沈黙を共有した後、聞いてみました。

「話し合ってきたとのことですが、逆に、話されていないことはなんだったでしょうか? 役員や社員たちが話したかったことはなんだったのでしょうね?」

パーパスは誰のものか

Aさんの話を聞きながら、私はコーチング研究所のあるリサーチ結果を思い出していました。コミュニケーションレベルが同程度のリーダーにおいて「パーパスを示すリーダー」と「パーパスをあまり示さないリーダー」における部下の状態を比較したリサーチです。(※)

その結果が示したのは、「パーパスを示し、部下と対話するリーダー」の方が、部下が主体化し、より力強く組織変化が起こるというものでした。

「変わろうよ」「挑戦しよう」と呼びかけるだけでなく、組織の存在意義について、共に考える場をもつリーダーの組織の方が、より主体的なアクションを生む、ということです。

実は、Aさんの会社では、前CEOの時代に「パーパス経営」に大きく舵を切っていました。
なのになぜ、変化が促進されないのか。私は、こういったケースは少なくないと感じます。

組織の存在意義は、社員のやる気や主体性を引き出す源泉になり、組織のスピードにも影響します。献身に値する目的があるかないかが、組織のパフォーマンスに大きく影響するのは当然のことといえるでしょう。

しかし、忘れてはいけないのは、パーパスは組織のものであると同時に、その組織にいる一人ひとりのものでもあるということです。社員一人ひとりのものになって初めてパーパスは力を発揮します。

問いを対話に持ち込む

Aさんは、インタビューサマリーを手にしたセッションの後、それまでの役員や社員との対話を振り返り、同時に、役員からのフィードバックにも耳を傾けました。そして、自分の中でのパーパスや計画の位置づけが真逆だったことに気づきました。

Aさんにとってパーパスは、自分や経営チームが決めたものであり、会社の成長に向けた施策や戦略も、すべて自らが考えたものでした。「対話会」と言いつつ、自分の思いと異なる考えを受け入れず、持ち込むだけの一方通行の場だったことへの気づきもありました。そこには、Aさん以外、役員も社員も存在していなかったのです。

Aさんは、改めて社員や役員とパーパスについて話し始めました。

自分はどのようにそのパーパスを解釈しているか、パーパスに対してどんな思いを込めたのか、私たちを待っているのは誰なのか、、、それらについて、あなたはどう思うのか、と。

そしてその先で、次のような問いを対話会に持ち込み、共に語り合いました。

「このパーパスを選ぶことで、自分達は何に踏み込んだのか、どんな挑戦なのか」
「このパーパスを軸に考えると、何を選び、何を選ばないことになるのか」
「世界の何の可能性を開こうとしているのか」
「世界中の人たちの期待に応えるために、私たちにはどんなスピード感が求められているのか」

「指示したら、それに従ってスピーディに動ける組織」にしたかったAさんは、1年経って、さらにその先の未来を社員と共に見据えているように感じます。

みなさんは、スピーディに動く組織をどのように創っていきますか。

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【参考資料】
組織のパーパスを示すリーダー VS 変化を推進するリーダー
調査対象:リーダー161人の部下2,220人
調査内容: Leadership Assessment (LA)
調査期間:2012年9月~2018年2月

※営利、非営利、イントラネットを問わず、本記事を許可なく複製、転用、販売など二次利用することを禁じます。転載、その他の利用のご希望がある場合は、編集部までお問い合わせください。

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