Coach's VIEW は、コーチ・エィのエグゼクティブコーチによるビジネスコラムです。最新のコーチング情報やコーチングに関するリサーチ結果、海外文献や書籍等の紹介を通じて、組織開発やリーダー開発など、グローバルビジネスを加速するヒントを提供しています。
「ごきげん」な問い
コピーしました コピーに失敗しました私たちは、行動を起こす前に、自分の内側で自分と「対話」しています。
「今日は何を着てでかけようかな?」
「今日、一番大切な仕事は何か?」
「朝一番で準備した方がいいことは何だろうか?」
このような自分との対話は「セルフトーク」「セルフクエスチョン」などと呼ばれます。
自らの行動に向けたこうした問いと同時に、私たちには、自分自身の安全を守るための、自動的で無意識的な問いがあります。
「これでいいのかな?」
「大丈夫かな?」
「本当かな?」
私たちの意識に上ろうが上るまいが、これらの問いは、実は一日のうちに何度も何度も自分に向けられています。
「生存チャネル」と「繁栄チャネル」
ジョン・P・コッター氏は『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』の中で、私たちの持っている自らの安全を守るメカニズムを「生存チャネル」と表現しています。
「人間には、『生存チャネル』とでも呼ぶメカニズムが備わっている。これは、絶えず脅威に目を光らせるレーダー・システムのようなものだ」(※)
太古の昔、身体的脅威から身を守るためのメカニズムであったこの「生存チャネル」は、現代に生きる私たちにとっては、身体的脅威から身を守ること以上に、複雑な現代社会で生き抜いていくために、社会的な関係性を維持するために機能していると言えます。
「目標を達成しないと、評価が下がる」
「上司の望み通りに行動しないと、プロジェクトにアサインされない」
「その場にそぐわない服装をしたら、上司から叱責される」
「会社の文化に合わない振る舞いをすると、罰則がある」
私たちの「生存チャネル」は、大小の社会的制裁を避けようとするときに発動します。社会のさまざまなルールは、私たちの「生存チャネル」に働きかけることを目的に整備されているとも言えます。
そして、従来のマネジメント手法は、私たちの社会的な「生存チャネル」を刺激することに焦点を当てるアプローチが多かったとも言えるでしょう。競争やハードワーク、報酬、罰則などを用いて、私たちの存在を脅かすことで、生産性を向上させようとしてきました。
そのような環境下では、当然のことながら
「これでいいのかな?」
「大丈夫かな?」
「本当かな?」
といった、自分の安全を守るチェックするような問いが繰り返されることになります。
これらの問いは、確かに失敗を避け、人間関係を維持し、社会的に生き残っていくためには大切なチェック機能を果たしているといえますが、この問いが内側でつぶやかれた瞬間に「不安」は増大し、多くのストレスホルモンが体内を駆け巡ります。私たちの脳も身体も、安全を守ることのみに集中し、新たな可能性や目の前にあるかもしれないチャンスに気づくことができなくなります。また、一緒に働いている人とコラボレーションすることもできない状態に陥らせてしまいます。
コッター氏は同著の中で、「生存チャネル」に対応するメカニズムとして「繁栄チャネル」というメカニズムにも言及しています。
「『繁栄チャネル』にも、レーダー・システムが備わっている。ただし、生存チャネルのレーダーと異なり、脅威ではなく機会に目を光らせる。」(※)
「繁栄チャネル」は、新たな可能性を見出し、チャンスを捉えて前進していくレーダー・システムです。
「生存チャネル」と「繁栄チャネル」。どちらも私たちが生きていくために必要なメカニズムです。どちらがいい、悪いと言えるものではないでしょう。しかし、もし私たちが、自分の内側でどちらのチャネルが活性化しているかにもっと自覚的であれば、それは人との関わりに大きな影響を与える可能性があります。
自分の内側の問いが他者に向けられる
メンバー同士がお互いに敬意を持って、共に考え、コラボレーションする。
チームのパフォーマンスを長期的な視点で向上させるためには、リーダーは、メンバーの「生存チャネル」を鎮静化させ、「繁栄チャネル」を活性化する必要があります。
そのためにできることの一つは、自分の内側の「問い」を自覚し、その問いを意図的に変えることです。なぜなら、私たちの内側の問いは外に向かうからです。リーダーが自らの「生存チャネル」に向けた問いを発していれば、部下の「生存チャネル」に働きかける問いに変換されます。
ですから、自らの安全を守るための無意識的で自動的な「問い」に身を任せるのではなく、意図的に「生存チャネル」を鎮静化させ、「繁栄チャネル」を活性化させるような「問い」を作る。
この「問い」は言い換えれば、自分の状態を良いものに、ポジティブにする「問い」と言えます。
組織のマネジャー、リーダーの状態は、自分の思っている以上にメンバーに影響を与えています。ですから、まずはリーダー自身が自らの「生存チャネル」を鎮静化させ「繁栄チャネル」を活性化させる。自分に対して常に可能性を見出し、チャンスを捉えて前進するための「問い」を投げかける。
「繁栄チャネル」が活性化するような問い、つまり、自分をごきげんにするための「問い」を考える。それを自分に向けて問いかけて、機能する「問い」を見つける。
- 今、自分にとって一番大切なことは何か?
- 自分の状態をよくする方法は?
- 未完了を完了させ、すっきりさせるために、何ができるか?
- 自分自身の強みや能力は何か? それらを活かすことで何ができるか?
- 自分にとって大切な人は誰か? その人とのつながりを深めるために何ができるか?
- 自分は今どのような感情を持っているか? その感情の原因は何か?
- この仕事が終わったら、何をしようか?
- 自分にとって「楽しむこと」とは何か?
これらは、コーチ・エィの「3分間コーチワークショップ」で、参加者の方々が一緒に考えてつくった「自分をごきげんにする問い」の一例です。
メンバーの「生存チャネル」を鎮静化させ「繁栄チャネル」を活性化させるための最初の一歩は、リーダー自身が「自分をごきげんにする問い」を作ること。
あなたにとっての「自分をごきげんにする問い」はどんな問いでしょうか。
ぜひ、考えてみてください。
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【参考資料】
ジョン・P・コッター他(著)、池村千秋(訳)『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』 ダイヤモンド社、2022年
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