Coach's VIEW

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「どうした山田!?」

「どうした山田!?」
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課長として、社会人として、母親として、人として...。
あるいは、社長らしく、後輩らしく、技術者らしく...。
はたまた、年長者だから、長男だから、部長だから...。

このように、自分に付与した役割や属性に応じて、それらしく振舞おうとする意識が働いた経験は誰にでもあるのではないでしょうか。

「●●らしく」によって得るもの、失うもの

私たちは、意識的にも無意識的にも日々の生活の至る所で繰り返される

「〇〇として」
「〇〇らしく」
「〇〇だから」

といった様々な規範に自分を照らし合わせ、その規範に収まるように振る舞うことで、社会に適応しようとします。

こういった現象を、心理学では「社会化」や「役割取得」などと説明します。心理学を知らなくても「地位や役割が人をつくる」という表現は、誰しも耳にしたことがあるのではないでしょうか。この言葉が伝えているのは、まさに同じ現象についてだと思いますし、読者のみなさんもこの言葉に対する実感があるのではないかと思います。

こうした心理的な働きは、私たちが社会生活を行う上で重要であり、有効に働くことがある一方で、その規範や概念に自分自身を縛りつけ、自らの可能性を狭くしてしまうことにもつながります。

たとえば、管理職に昇進した途端にリーダーシップを発揮し始めた人は、もしかすると「管理職として」と考えたことで可能性が広がったことが考えられます。一方で、昇進前には「私は管理職ではないから」と考えて、リーダーシップを発揮する機会を自ら手放してしまっていた可能性もあります。

本当に向き合うべき問いは何か

自分はどのような規範に縛られているだろうか? それによって、失っているものは何だろうか?

こうした問いについて考える機会をくださったエグゼクティブ・コーチングのクライアントがいらっしゃいます。仮に「山田さん」というお名前で呼ばせていただきます。

弊社がお引き受けするエグゼクティブ・コーチングには、すでに優秀なリーダーに対して「今の役職よりもさらに高い役職での視座や行動が取れるようになってほしい」という期待を込めて投資が行われるケースが多々あります。山田さんもそのケースでした。山田さんに、リーダーとして更に一皮むけてほしい、そう考える社長からの依頼でコーチングがスタートしました。

山田さんはグローバル企業で数百名の部下を率いる事業統括部長。ラテン気質なリーダーです。海外駐在の経験も豊富で視野が広く、事業に対する愛情も人一倍強い方です。コーチングセッションでも、自分の組織の課題感や未来の展望について、自分自身の成長テーマを絡めながらわかりやすく話してくださいます。

しかし一方で、社長から「山田さんの可能性は、今の役割に収まるものではない」という話を聞いていた私としては、山田さんがお話になる内容や課題感は、規模が小さく感じられました。なぜなら、それらは現在の山田さんの役割で考えられたものばかりだったからです。山田さんは自らの可能性を自分で制限しているのではないか。そう感じた私は、山田さんにそのことを伝えました。

「山田さんのおっしゃることはわかるのですが、話してくださったことはすべて、山田さんの今の役割の内側に収まっているように感じます。今の役割を越え、山田さん自身の可能性をもっと開いていくために、山田さんが本当に向き合うべき問いは何だと思いますか?」

自分の枠を越えるための問い

それから数ヶ月間、山田さんと私は、様々な問いを間に置きながらセッションの中で対話を繰り返し、山田さんが自らの可能性を解き放つための問いについて、探索し続けました。

その間、山田さんは、これまで職場でもあまり話しかけなかった先輩、同僚、後輩や社外の方々とも積極的に対話の機会を作り、自分の枠を越えようともがいていらっしゃいました。この期間は、山田さんにとってすぐに答えの出ない非常にモヤモヤする期間だったのではないかと思います。

コーチングが始まっておよそ5か月ぐらいが経過した9回目のセッションで、山田さんはいつものように、前回セッションからその日までに考えたことや行動したこと、気づいたことや生じた変化について話し始めました。

「もっとドラスティックに事業や組織の在り方について変化を起こそうとしたときに、結局、僕自身のもっている思考の枠が、変化の阻害要因として強く影響しているんじゃないかと思えてきました。自分の枠をどうやったら越えていけるかを考えたとき、良いアイディアが沸いたんです。

『どうした山田!?』

このキャッチフレーズを置いて、この1年間、思い切りやってみようと思います」

少しずつではなく一気に越える

「どうした山田!?」とは、周囲からそう言って驚かれることを意味します。

長い時間をかけて作ってきた自分の思考の枠の中にいる状態で、少しずつ枠を広げようとすることには無理があるのではないか。少しずつでは、枠を越えられない。枠を越えるなら、一気に大きく飛び出したほうがいい。それでこそ、周囲、あるいは自分自身の期待を越えるようなアクションができるのではないか。そう考えて出て来たのが「どうした山田!?」というフレーズだったといいます。

「自分の枠を越えようと思っても、知らず知らずのうちに今の役割の中で収まろうとする自分がいることに気がつきます。どうせだったら周りを驚かせようと思うほうが、自分の枠を越えられるような気がしました」

いつもポジティブで楽しそうなな山田さんですが、「どうした山田!?」について話しているときは、これまでのセッションの中でも、際立って楽しそうで活き活きしていらっしゃったことが印象に残っています。

聞きながら思わず、

「今日の山田さんはとても楽しそうですね」

と伝えると、

「いやー。わかります? めちゃくちゃ楽しいんです。今とてもワクワクしています」

という答えが返ってきました。その「楽しさ」「ワクワク」こそが、まさに「可能性」と言えるかもしれません。

ビジネスパーソンとして役割を全うすることは、前提として大事なことです。しかし、それが自分の可能性を狭めてしまうこともある。それを越えていくために、このコラムを読んでくださっているあなたも、「〇〇」に、ご自身の名前を当てはめて想像してみてください。

「どうした〇〇!?」

そんなふうに周囲から驚かれるような、そして、自分の枠を思いっきり越えるような行動をイメージすると、どんなことが思い浮かびますか?

そんな自分を想像するとき、ちょっとワクワクするような気持ちになるのは、山田さんや私だけではないのではないかと思います。

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