書籍紹介

Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。


戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則
ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長/CEO 本田 哲也 氏

第1回「商品をつくる」よりも「買う理由をつくる」

第1回「商品をつくる」よりも「買う理由をつくる」
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はじめに

2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓してから、多くのビジネスパーソンの方々や、PR業界に興味をもつ学生に、この『戦略PR』という言葉が浸透したように思う。しかし、いまだに世界から見れば日本は「戦略PR」後進国であり、一般の人々にとっては「広告」と「PR」の違いもあいまいなままだと思う。今回、インターネットやSNSの進化に合わせてアップデートした『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』に合わせて、そもそも「PR」とは何か、そしてそれが「企業や組織が世の中と良い関係を築く」ためにどれほど有用なのかについて、ここでの4回にわたる連載でご説明させていただきたいと思う。

第1回 「商品をつくる」よりも「買う理由をつくる」
第2回 ベビーカーシェア5%からの大逆転戦略PR
第3回 「空気をつくる」とはどういうことか
第4回 あなたが戦略PRをやるべき3つの理由

「買う理由」の代理戦争

毎年、数えきれないほどの新商品が世に放たれる。僕たちは1日およそ4000を超える企業のブランドメッセージを浴び、70%の新商品は10年未満で姿を消す(梅澤伸嘉『ヒット商品打率』同文館出版より)。商品のコモディティ化はますます進み、テクノロジーはどんどん汎用化する。商品やサービス自体で差別化することが、日に日に難しくなっている。それが今の世の中だ。こんな時代にビジネスやマーケティングの現場で起こっているのは、いったい「何の戦い」なんだろうか。本記事ではそんな疑問にお答えしていきたい。

まず、僕は断言したい。いま起こっているのは、「買う理由」同士の戦いなのだ。情報洪水と消費飽和の時代には、商品そのものの差別化はおのずと難しくなる。「物欲」のあり方も変わる。生活者の可処分時間の取り合いが激化し、「敵」は同一カテゴリー内のライバルとは限らない。だから、商品やサービスそのものよりも「買う理由」のほうが重要になっていく。そもそもそれが必要なのか。必要性があるとしたら、それは、なぜそれが必要なのかという理由だ。

「商品をつくる」よりも「買う理由をつくる」

画期的な商品の企画はもちろん重要だが、同時に、画期的な「買う理由の企画」も同じくらい大事になってくるはずだ。「買う理由の企画」とは、商品のネーミングや価格やパッケージに凝ることでも、効果的なプロモーションを考えることでもない。それらとは、まったく異なるアプローチが求められている。まだボヤっとしているだろうか。そもそも、「買う理由」とはなんだろう? いわゆる「消費者ニーズ」ともちょっと違う。「買う理由」の正体とはなんだろうか?

「いい〇〇」の社会常識を変える

ところで僕たちは、あるカテゴリーに対して、ある程度の共通認識を持っている。たとえば、「いいクルマといえば、エコカーだよね」というふうに。このような「いい〇〇=XX」という認識、言い換えれば社会常識は、いつの時代も変わらないかというと、そうではない。むしろ、時代とともに移り変わっていくものだ。

自動車を例にとってみよう。1980年代に「いいクルマ」といえば、トヨタのソアラや日産のシルビアなど、見た目のよいクーペが主流だった。それが1990年代に入ると、トヨタのセルシオや日産のシーマなど、ラグジュアリーで乗り心地のよい自動車が「いいクルマ」を代表するようになる。それが2000年代には、ホンダのステップワゴンや日産のセレナのような、子どもと出かけるのに便利で快適な車内空間があることが、「いいクルマ」の条件に変わってきた。そして2010年からは、トヨタのプリウスや日産のリーフに代表されるエコカーが「いいクルマ」の代名詞だろう。

自動車の例はわかりやすいが、明らかに、「いいクルマ」に対する「社会的合意」は、10年周期ぐらいで移り変わっている。これは言葉を変えれば、「いい〇〇」の再定義が繰り返されているということだ。これを、現資生堂ジャパン執行役員の音部大輔氏は、「属性順位転換」と呼んでいる。氏の言葉を借りよう。

「どの年代のクルマもすべて『いいクルマ』なんですが、定義がかなり違う」

「定義には2種類あります。まず消費者ニーズという大きな括り。これを『ドライブに行きたい!』だとしましょう。この大きな括りに対して、『では、ハイパワーで見栄えのいいクーペを!』なのか、『では、子どもたちが楽しめる広い車内空間を!』なのか、『では、家計や環境への低負荷を!』なのか。これが具体的な属性です。大きな括りを変えるのは難しいですが、この属性は変えることができる。それが、属性順位を転換するということです。」

この「属性順位転換」が当てはまる事象、実は世の中に結構ある。たとえば洗濯洗剤。長い間、「とにかく白く洗いあがるのがいい洗剤」という属性だったが、2000年代頃から「除菌できるのがいい洗剤」という属性に転換された。

思えばアイドルだって、「遠く憧れの存在」が「会いに行ける存在」に変わった。そういった意味ではAKB48はアイドル市場における属性順位転換を果たしたわけだ。これが「買う理由」と大いに関係する。「いい〇〇」という定義がAからBに変わるということは、すなわち「買う理由」も変化するということだからだ。属性順位転換を起こすと、すなわち「いい〇〇」を再定義することで、新しい「買う理由」が生まれるのだ。

「属性順位転換」を意図的に仕掛ける

では、この属性順位転換を、意図的に仕掛けるにはどうすればよいのか。その答えこそ「戦略PR」なのだ。戦略PRによって「いい〇〇=XX」という社会常識を変え、新たな「買う理由」を生みだすことができる。

ひとつ例を挙げよう。かつて洗濯洗剤の分野で属性順位転換を実現したP&Gの「アリエール」。その裏には戦略PRの仕掛けがあった。

「スプーン一杯で驚きの白さに。」は、1987年に発売された花王「アタック」の有名なキャッチコピーだ。アタックの登場から日本では「いい洗剤は白さ」が社会常識となった。2000年代になって、この常識を一気にひっくり返したのが、P&G「アリエール」だ。この商品は洗濯洗剤市場に、「除菌」という属性を新たに持ち込んだ。「洗浄力に、除菌力」とキャッチコピーも変え、除菌効果の高い洗剤であることがアリエールの売りになった。しかし、これだけでは足りない。「いい洗剤=除菌」とするためにP&Gが展開したのが、洗濯除菌啓発の戦略PRだった。P&Gは除菌の専門家と共同実験を行い、その結果を啓蒙情報としてメディアに提供した。「きれいになったはずの洗濯物にバイ菌が残存」というニュースは、たちまち新聞やテレビなどマスコミの興味を大いに引くところとなり、「奥様ご注意!洗濯物に残るバイ菌」などのヘッドラインが全国紙の生活面やワイドショーに踊った。まさに、「洗濯には除菌も必要」という空気が世の中にできあがったのだ。こうした報道が広がるほどに除菌力を売りにするアリエールが求められる世の中になっていき、アリエールは見事に洗濯洗剤における属性順位転換を果たした。

このように、「買う理由」をつくるのが戦略PRの大きな役割である。新しい「買う理由」を世の中に創出することで、属性順位転換を意図的に起こしていくのだ。ここではその「元祖」ともいえる、わかりやすいアリエールの事例を紹介した。次回からはほかの事例も踏まえつつ、意図的な属性順位転換について考えていきたい。

次回へ続く

戦略PR 社会を動かす新しい6つのルール



著者: 本田哲也

出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン

○なぜ、インドで洗濯洗剤「アリエール」が広まったのか?

○なぜ、「片づけの魔法」は米国でベストセラーになったのか?

○インスタグラマーは、どれだけの影響力を持っているのか?



「商品力」や「宣伝力」だけでは、もはや人は動かない。

5万部ベストセラー『戦略PR』著者の最新作!

PRとは「世の中を舞台にした情報戦略」であり、

その究極の目的は「人の行動を変えること(=ビヘイビア・チェンジ)」。



最前線で活躍する著者が、国内外の最新事例を交えながら、

そのフレームワークを解き明かす。



従来の社会常識に挑み、「買う理由」をつくりだす6つの黄金律

1 おおやけ→「社会性」の担保 社会課題解決をめざす「ソーシャルグッド」の潮流

2 ばったり→「偶然性」の演出 コンテンツが演出する偶発的な「セレンディピティ」

3 おすみつき→「信頼性」の確保 多様化する「インフルエンサー」の影響力

4 そもそも→「普遍性」の視座 「よくぞ言ってくれた」を引き出す本質的な価値転換

5 しみじみ→「当事者性」の醸成 「自分ゴト化」させ感情に訴えるストーリーテリング

6 かけてとく→「機知性」の発揮 PRクリエイティビティの真髄は「とんち」にある

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