Hello, Coaching! 編集部がピックアップした本の概要を、連載形式でご紹介します。
ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長/CEO 本田 哲也 氏
第4回 あなたが戦略PRをやるべき3つの理由
2017年12月11日
前回は、戦略PRとは人々がその商品を買う空気をつくりだすことであることをお話しした。しかし時代は進みこの10年間の間で大きな変化が起こった。それはソーシャルメディアの浸透とスマホの普及だ。今回は、これらの要素が戦略PRにどのような影響を与えているかについて考えていきたい。
第1回 | 「商品をつくる」よりも「買う理由をつくる」 |
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第2回 | ベビーカーシェア5%からの大逆転戦略PR |
第3回 | 「空気をつくる」とはどういうことか |
第4回 | あなたが戦略PRをやるべき3つの理由 |
ソーシャルメディアによって細分化する「空気」
ツイッターやフェイスブックが日本で本格化したのは2010年から2011年にかけてである。いまや僕たちの日常となった「LINE」は、東日本大震災をうけて開発された。また、2人以上の世帯におけるスマートフォンの普及率は67.4%。タイムシフト視聴に欠かせないDVDレコーダーの普及率は57.2%だ(いずれも内閣府「消費動向調査」より)。テクノロジーの進化は素晴らしいことだ。でも、少しややこしい状況ももたらした。それは、「人々の関心の多層化」と、それによる「空気の細分化」だ。
ソーシャルメディア上で人々はつながり始めた。はじめは「知っているかどうか」がつながりを決めたが、やがてそれは同じ関心をもつもの同士をより強く結びつけていった。そして、そこでは当然「共通関心内の情報」がどんどん流通していくことになる。一方、スマホというデバイスの登場で、僕たちの情報入手は劇的にパーソナライズされた。ニュースメディアですら、「あなたがほしい情報」に合わせた配信にシフトした。その結果、僕たちの手元には「関心のある情報」だけがどんどんやってくる。これは一個人の視点からではなかなか気づきにくい。けれど全体を俯瞰してみれば、特定の関心で結びついた層がミルフィーユのように積み重なっているのが、現在の世の中だ。そして、これは日本に限った話ではない。世界的な兆候でもある。
大統領選でオバマ陣営が作り出した「空気」
たとえば、2009年の米国大統領選である。米大統領選キャンペーンは、戦略的なPRの「最高峰」ともいわれる。オバマ陣営の戦略PRプランナーは、「多くの人々が、アメリカ国民としての『誇り』は失っていないが、『自信』を失っている」という状況分析を、大規模な調査から導きだした。ここから、「変化が必要」という世論を喚起し、オバマをその「変革ができる人」として位置づける作戦となった。「Change」というキャッチフレーズもそれを示すためだ。このPR作戦は功を奏し、米国初のアフリカ系大統領が誕生する。まさに、国民的な関心をとらえ、世論を喚起し、その解決策としてオバマを位置付けたというわけだ。
それから8年が経った2016年。世界の耳目を集めたトランプとクリントンが争った大統領選はどうだっただろうか。トランプ大統領の誕生は世界を震撼させたが、そこにはオバマのようにわかりやすい「空気づくり」はなかった。トランプの勝利はひとえに米国の白人労働層の鬱屈した思いに呼応したからと事後分析される。敗北したクリントン陣営は、この「潜在的な空気」を読み切れなかったうえに、女性層への空気づくりにも失敗した。そもそも多様性があった米国だが、さらに人々の関心事は多層化しているし、空気が細分化している。
「空気をつくる」から「関心を料理する」へ
もちろんそういった特定関心をこえて話題になるような「国民的ニュース」や「国民的ヒット」も依然としてある。重要なのは、社会関心が多層化し、そこには大きな「空気」と、より小規模な「分断された空気」のようなものが同時に存在していることだろう。たとえるならば、同じ空気でも「外気」と「内気」のようなものだ。クルマのエアコンにも外気導入と内気循環がある。
どちらの空気を使うかは状況次第だったりする。とにかく、PRやコミュニケーションの観点からは、なんとも難しい世の中になったものである。しかし、これは同時にチャンスでもあると思うのだ。というのも、大小の「社会関心」をきめ細かくとらえ、それをうまく活用することで人を動かし、目的達成につなげていくことこそが、本来のPRの醍醐味だからである。必ずしも「大きな空気」をつくる必要はない。ただし、トランプ大統領の例でもわかるように、社会関心は細分化していて、それを正しく把握するのは容易ではない。そうしたなかで、これまでとは異なる発想や視点で世の中をとらえ、多層化した関心事に対して、個別に対応する必要性が出てきているのだ。
戦略PRをやるべき3つの理由
この10年で、僕たちを取り巻く情報環境は進化をとげ、ややこしさは増大している。そんななか、僕はますますPRの重要性が高まると思っている。なぜPRをするべきなのか? ここであらためてその3つの理由を整理して、今回の記事の締めとしたい。
①「選ぶのがめんどうくさい」の時代 (情報洪水と選択率の低下)
2000年代より始まった情報洪水は進行中であり、生活者の「情報選択率」は下がり続けている。一方で、僕たちが1日に接する企業発信のブランドメッセージは4000とも5000ともいわれ、生活者はますます広告的なコンテンツを避ける傾向にある。
②「好き勝手にやらせて」の時代 (アンコントロール領域の拡大)
生活者はSNSで自由に発信する。タイムシフト視聴が当たり前になり、コンテンツ消費の主導権は生活者に移った。こうした情報環境では、相対的に企業がコントロールする情報の影響力は低下する。アンコントロールな世界との対峙が求められる。
③「気になるものはそれぞれ」の時代 (社会関心の多層化)
SNSでつながった生活者は、共通の趣味や価値観などが同じ「関心グループ」でのやり取りを増やしていった。スマホによって情報入手はパーソナライズされ、情報流通は限定的になった。社会の興味関心はミルフィーユのように多層化している。
私は戦略PRの目的を「人を動かすこと」であると明確に定義している。もうちょっと言えば、「人の行動を変えること」だ。グローバルなPRの世界では、これを「ビヘイビアチェンジ(行動変容)」と呼ぶ。戦略PRは何のためにやるのか。なんらかの情報を世の中にばらまくためではなく、ビヘイビアチェンジ(行動変容)を起こすことこそが、その目的だ。
(了)
○なぜ、「片づけの魔法」は米国でベストセラーになったのか?
○インスタグラマーは、どれだけの影響力を持っているのか?
「商品力」や「宣伝力」だけでは、もはや人は動かない。
5万部ベストセラー『戦略PR』著者の最新作!
PRとは「世の中を舞台にした情報戦略」であり、
その究極の目的は「人の行動を変えること(=ビヘイビア・チェンジ)」。
最前線で活躍する著者が、国内外の最新事例を交えながら、
そのフレームワークを解き明かす。
従来の社会常識に挑み、「買う理由」をつくりだす6つの黄金律
1 おおやけ→「社会性」の担保 社会課題解決をめざす「ソーシャルグッド」の潮流
2 ばったり→「偶然性」の演出 コンテンツが演出する偶発的な「セレンディピティ」
3 おすみつき→「信頼性」の確保 多様化する「インフルエンサー」の影響力
4 そもそも→「普遍性」の視座 「よくぞ言ってくれた」を引き出す本質的な価値転換
5 しみじみ→「当事者性」の醸成 「自分ゴト化」させ感情に訴えるストーリーテリング
6 かけてとく→「機知性」の発揮 PRクリエイティビティの真髄は「とんち」にある
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