書籍紹介


戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則
ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長/CEO 本田 哲也 氏

第3回 「空気をつくる」とはどういうことか

第3回 「空気をつくる」とはどういうことか

前回までの2回で、戦略PRを用いてみごと世の中の「いい〇〇=××」のイメージを転換し、販売の促進に成功した二つの商品について紹介した。戦略PRの効果と魅力を十分に理解していただいたところで、今回は商品が売れる「空気をつくる」ことについて詳しくお話ししていきたい。

第1回 「商品をつくる」よりも「買う理由をつくる」
第2回 ベビーカーシェア5%からの大逆転戦略PR
第3回 「空気をつくる」とはどういうことか
第4回 あなたが戦略PRをやるべき3つの理由

売れる空気をつくる

同じ商品カテゴリーなのに、なぜ「売れるもの」と「売れないもの」が生まれるのか? それは、「商品力」や「宣伝力」の問題ではなく、その商品が売れるための「空気」ができているかどうかにかかっている。商品を売るために作り出したい空気=「カジュアル世論」をつくって売り上げにつなげることこそが重要だ。

では、「空気をつくる」とはどういうことか。みなさんにご理解いただくために、「おむつ」の事例を紹介しよう。そのおむつは、従来品よりスリムで、吸収力も向上させた自信の新商品だったが、それを購買層である母親たちにどのように伝えていくかが問題だった。すでにブランドの認知度が100%に近いうえ、店頭は価格競争の真っ只中である。そこでメーカーは、戦略PRの手法に着眼した。具体的には、「赤ちゃんの睡眠」の話題を喚起し、「快適な睡眠環境を提供するおむつ」の購買に結びつけた。つまり、「空気づくり」を行い、それを商品へとつなげたのだ。

メーカーはまず小児睡眠の専門家と協力し、「赤ちゃんの睡眠」に関する国際調査を実施。日本の赤ちゃんの睡眠環境がいかに問題かというデータを整備し、それを発表した。この事実をマスコミはこぞって報道し、ソーシャルメディア上のクチコミも急増。「赤ちゃんの睡眠が問題である」という空気が、ものの2ヶ月ほどの間に醸成されることになった。このタイミングでメーカーは、最小限の投資で広告と店頭施策を展開した。メッセージは当然、「あなたの赤ちゃんの睡眠を考えたブランドです」。その結果として、赤ちゃんの睡眠の空気づくりと、その解決策と位置づけた商品訴求が功を奏し、売上は向上した。

情報コンテンツの主役は企業から消費者へ

注目すべきはまず、インターネットの普及によって、「オレがオレが」という企業発信の情報よりも、報道情報やクチコミの影響力が増していったということだ。そうしたメディア状況下においては「企業が主語」ばかりではダメで、「第三者話法」を取り入れないといけないということに、企業もようやく気づいた。しかし、世界的に見れば、戦略PRそれ自体は従来からある発想である。むしろ、本来PRは戦略的であるべきものだ。戦略PRが日本で一気に注目されたのは、「空気」という説明が、日本企業や広告業界の人々の心に刺さったからではないだろうか。僕たち日本人は古来より、「空気」を大事にしている。老若男女とわず、「空気」といえばピンとくるというわけだ。

そもそもPRとは?

ここで少し、「そもそもPRってなんだ?」という話をしておこう。PRとは、本来はパブリックリレーションズの略で、直訳すれば「公的な関係性」という意味だ。仮に企業であれば、消費者はもちろん、株主や取引先企業、従業員、メディアや専門家といった周囲の利害関係者たちと良い関係を築き、それを維持するということになる。要は「企業や組織がいかに世の中とうまくやっていくか」。そのための戦略やノウハウの総称が「PR」というわけだ。日本では、PRといえば「パブリシティ」であると思われがちだ。そうかと思えば、PRは「広報」であるとも言われる。広報の定義とは「個人または組織体が、その関係する公衆の理解と協力を得るために、自己の目指す方向と誠意をあらゆるコミュニケーション手段を通じて伝え、説得し...(ずっと続く)」という具合。

しかしそもそもPRは、18世紀後半、米国の独立戦争が起源とされる。英国からの独立を果たすために(事業目的)、どうやって世論を喚起させるか(PR戦略)という手法が発達した。それが政治の世界から民間企業のマーケティングへと応用されてきたというわけだ。日本ではとりわけ、「広告との違いは?」という問いがいまだに少なくない。

広告との大きな違いのひとつめは、広告枠を買うかどうか。PRではインフルエンサーに情報提供するのみだ。これが、二つめの信頼性につながる。企業広告と第三者の報道、クチコミのどちらを信用するかは想像に難くない。そして最後はコントロールしやすさである。これに関してはPRは第三者に任せてしまうためペイドメディアである広告と違い、100%のコントロールは不可能である。

PRとステルスマーケティング

ここ数年、ニュースでよく見かけるようになった言葉に「ステマ」がある。「ステマ」とは「ステルスマーケティング」の略で、ウィキペディアには「消費者に宣伝と気づかれないように宣伝行為をすること」とある。一般に「ステマ」が広く認知されたのは2012年のいわゆる「ペニオク事件」だろう。入札に手数料のかかるオークションサイト、ペニーオークションを舞台にした事件で、事実上は落札できない商品をあたかも激安で落札したかのように装ってブログに投稿したとして、複数の芸能人が追及された。

ステマ問題はその後も広がりを見せ、日本独特ともいえる「ノンクレ(ノンクレジット広告記事)」の問題に発展する。広告主がお金を払ったコンテンツなのに、その表記がないことが問題視された。いずれにしても、要は「真意を隠して宣伝するとかセコいことするな!」というわけで、その指摘自体は法的にも倫理的にもまっとうな話である。問題は、「PR=ステマ」という考え方が醸成されてしまうこと。「PR=パブリックリレーションズ」という理解がまだまだ乏しい日本において、これは脅威だ。では、今回の最後としてステマとPRの違いを産む、2つの重要な視点を上げておこう。

①「関係性の明示」の視点

ひとつめは情報の開示にまつわること。相手がメディアであれインフルエンサーであれ、PR主体企業や組織との「金銭の授受」の有無が論点となる。「あったからダメ」「なかったからOK」というものではなく、重要なのは「何の対価だったのか」だ。たとえばインフルエンサーに物品を提供する場合、「紹介してくれることを期待して供与する」のはセーフだが、「紹介してくれることの対価として供与する」のはグレーということになろう。これを「関係性の明示」という。

②「編集権の所在」の視点

2つめは、「編集権」あるいは「編成権」。これらは「提供された情報をどう扱うか」という権利であり、「どう扱うか」には、内容はもちろんのことタイミングも含まれる。テレビであればいつ放送するか、新聞であればいつ記事にするか、ブロガーであればいつ投稿するか。それがPR活動の一環であれば、どんなに予算があろうと「編集権」を買うことはあってはならない。権利所在がメディアなど第三者にあるという事実が重要になる。逆に言えば、編集権ごと買い上げてしまうと「広告」になる。

次回へ続く

戦略PR 社会を動かす新しい6つのルール

著者: 本田哲也
出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン

○なぜ、インドで洗濯洗剤「アリエール」が広まったのか?
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PRとは「世の中を舞台にした情報戦略」であり、
その究極の目的は「人の行動を変えること(=ビヘイビア・チェンジ)」。

最前線で活躍する著者が、国内外の最新事例を交えながら、
そのフレームワークを解き明かす。

従来の社会常識に挑み、「買う理由」をつくりだす6つの黄金律
1 おおやけ→「社会性」の担保 社会課題解決をめざす「ソーシャルグッド」の潮流
2 ばったり→「偶然性」の演出 コンテンツが演出する偶発的な「セレンディピティ」
3 おすみつき→「信頼性」の確保 多様化する「インフルエンサー」の影響力
4 そもそも→「普遍性」の視座 「よくぞ言ってくれた」を引き出す本質的な価値転換
5 しみじみ→「当事者性」の醸成 「自分ゴト化」させ感情に訴えるストーリーテリング
6 かけてとく→「機知性」の発揮 PRクリエイティビティの真髄は「とんち」にある

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