書籍紹介


戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則
ブルーカレント・ジャパン株式会社 代表取締役社長/CEO 本田 哲也 氏

第2回 ベビーカーシェア5%からの大逆転戦略PR

第2回 ベビーカーシェア5%からの大逆転戦略PR

前回、「PR戦略」とは、商品価値を高める競争から離れ、「いい〇〇は××」という消費者の「買う理由」を転換する「属性順位転換」を、意図的に仕掛けていくためのものであることを説明した。今回はさらに事例を見ながら「属性順位転換」をいかに起こすのかについてお話ししたい。

第1回 「商品をつくる」よりも「買う理由をつくる」
第2回 ベビーカーシェア5%からの大逆転戦略PR
第3回 「空気をつくる」とはどういうことか
第4回 あなたが戦略PRをやるべき3つの理由

「いいベビーカーとは」の常識に挑んだピジョン

ピジョンは哺乳期や離乳食などのベビー用品全般を扱う国内メーカーだ。お子さんがいる家庭なら、ひとつくらい同社の商品を利用したことがあるのではないだろうか? そのくらいベビー用品の世界では圧倒的な知名度を誇るピジョンだが、あるジャンルの商品だけは苦戦を強いられていた。それが、ベビーカーだ。日本市場は同業のアップリカとコンビの「2強」でほぼ8割のシェア。ピジョンは5%以下に甘んじていた。そんななか、ベビーカー市場へ本格参入する起爆剤として、2014年に新商品「ランフィ」の投入が決定した。

これまで日本で「いいベビーカー」といえば、「軽い」「ファッショナブル」などが主流。後発のピジョンとしては、こうした属性を追随するわけにはいかない。ランフィとの差別化をはかる、新しい属性が求められる。さまざまな要素が検討されたが、最終的にピジョンが注目したのが、ランフィの「大きなタイヤ」だった。一般的なベビーカーのタイヤ径は13.8センチだが、ランフィはそれよりも大きい16.5センチ。大径タイヤなので、段差を乗り越えやすいという特徴をもっていたのだ。こうして「いいベビーカーは大径タイヤ」という属性順位を転換することが目標となった。

「いいベビーカー=大径タイヤ」の常識をつくる

さて、次なる問題は「買う理由」だ。なぜ、大径タイヤのベビーカーを買わなければいけないのか? その理由を世の中に提示し、目の厳しい日本の母親たちを納得させなければならない。この役割を担うべく、戦略PRが展開された。まず、ピジョンはベビーカーユーザー1000人に意識調査を実施。80%がベビーカーで段差を乗り越えるときにストレスを感じていることがわかった。しかし、購入時に段差が乗り越えやすいことを重要視する人は1%にも満たなかった。やはりというか当然というべきか、ベビーカー使用時に最も重要なのは子供の安全性であるという人が最多の55.7%という調査結果が出た。このことから、「いかに段差でつまずくことが問題化」を啓発することがPRの最大のポイントになる。8割もの人が感じる「段差でのストレス」とは、一体どのくらいの衝撃なのか。これをインパクトをもって世に出すことが、戦略PRのミッションとなった。

段差での衝撃を実証実験したところ、段差でつまずいたときにベビーカーにかかる衝撃は、なんと「自動車の急ブレーキの5倍」だということが実証された。さらに、一般的なタイヤ径のベビーカーよりもランフィのほうが、軽い力で段差を乗り越える能力が高いということも裏づけられた。この事実は、PRの大きな武器となった。情報をまとめメディアに発表すると反響は大きく、大手新聞には「車道と歩道の段差、リスク軽減」と大きな記事掲載が実現。「衝撃やわらげるベビーカー注目」とランフィにも言及された。極めつけは、大手新聞の「新製品バトル」という有名なコーナーだ。記事では3つのベビーカーが紹介され、2強であるアップリカとコンビの製品と並んでピジョンのランフィが「大径車輪で段差も楽に」と登場。「いいベビーカー」の定義のひとつに「大径タイヤ」が認められた格好となった。まさに、戦略PRによって「買う理由」が世に広まり、属性順位転換が起こったのだ。

PRはあなたが戦う「土俵」をつくる

いかがだろうか。属性順位の転換がいかにマーケティングにおいて重要かということ、そしていってみれば、その「土俵」をつくるのが戦略PRであるということが、少しはお分かりいただけたかと思う。社会常識を変える。新しい「買う理由」を生みだす。こう考えるとPRがビジネスにおいていかに大切な役割を果たしているかが見えてくるだろう。そんなPRの緻密さ、大胆さ、そしてその面白さを、次回の連載でもお伝えしたい。読者のみなさんのPRへの興味が高まったことを期待しつつ、次回はそもそもPRとは何か? というお話しをしていきたい。

次回へ続く

戦略PR 社会を動かす新しい6つのルール

著者: 本田哲也
出版社: ディスカヴァー・トゥエンティワン

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その究極の目的は「人の行動を変えること(=ビヘイビア・チェンジ)」。

最前線で活躍する著者が、国内外の最新事例を交えながら、
そのフレームワークを解き明かす。

従来の社会常識に挑み、「買う理由」をつくりだす6つの黄金律
1 おおやけ→「社会性」の担保 社会課題解決をめざす「ソーシャルグッド」の潮流
2 ばったり→「偶然性」の演出 コンテンツが演出する偶発的な「セレンディピティ」
3 おすみつき→「信頼性」の確保 多様化する「インフルエンサー」の影響力
4 そもそも→「普遍性」の視座 「よくぞ言ってくれた」を引き出す本質的な価値転換
5 しみじみ→「当事者性」の醸成 「自分ゴト化」させ感情に訴えるストーリーテリング
6 かけてとく→「機知性」の発揮 PRクリエイティビティの真髄は「とんち」にある

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