プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野でプロフェッショナルとして活躍する方たちに、なぜその道を目指し、将来は何を実現したいと思っているのかについて語っていただきます。


ストーリー戦略で弱小校をラグビー全国大会に導く
2017年度ラグビーU18日本代表ヘッドコーチ 星野明宏 氏

第1回 意識改革『60分しかない』から『60分もある』へ

第1回 意識改革『60分しかない』から『60分もある』へ

「週3回、1回1時間半」という練習で、弱小チームだった静岡聖光学院ラグビー部を監督就任後わずか3年で花園出場に導き、高校ラグビー界の常識を覆した星野明宏氏。現在は、ラグビーU18 日本代表チームのヘッドコーチも務められています。

大手広告会社から大学院を経て教師に転身したというユニークな経歴の持ち主でもある星野氏に、強いチームづくりの哲学について、お話をうかがいました。

第1回 意識改革『60分しかない練習』から『60分もある練習』へ
第2回 選手が夢を描ける言葉をつくる
第3回 スポーツを通してPDCAを回す思考力を身に付ける
第4回 大手広告代理店を辞めてまで得たかったもの

第1回 意識改革『60分しかない』から『60分もある』へ

「常識」にとらわれず、環境を最大限に活かす

星野さんは、厳しい環境下で結果を残されてきました。静岡聖光学院ラグビー部のマネジメントにおいて、工夫されたことについて教えてください。

星野 静岡聖光学院は、学校の校則で、火・木・土しか練習ができないうえ、火曜と木曜は90分、土曜日でも最大120分しか練習時間がありません。ナイター設備もなく、11月~2月の冬場は、火曜、木曜の練習はさらに短くなり、60分です。

練習時間が短いと、へたをしたら、ウォーミングアップをして、気もちを高め、「これからだ」というときに、練習が終わってしまいます。そこで、短い時間の中で何をしなければいけないかを考え、必要なことだけを抽出してやるようにしました。作業と活動(仕事)を分けて考え、とにかく作業や隙間の時間を少なくすることが私の指導のポリシーです。

具体的には、どのように取り組まれていったのでしょうか。

星野 まずは、60分の練習で「力を出し切らせる」ことを考えました。

実際に練習を見てみると、隙間の時間がたくさんあることがわかりました。たとえば、並んで自分の番を待つ時間のある練習。「見て学ぶことも練習だ」と言いますが、見て学ぶのであれば、上手い人の映像を編集し、学校の行き帰りや、トイレの時間などでも観られるような動画をつくったほうがよっぽど効率がいい。そこでまずは、並んで待つ時間をなくしたいと考えました。タックルの練習も、3人を一組にして、タックルをしたらすぐ並び、再びすぐタックルするという繰り返しを、練習の基本としました。

また、水分補給の時間も工夫をしました。練習中、水分補給の時間をとるとなると、どんなに急いでも1回あたり60秒ほどかかります。60秒といえば、試合中ならトライを取られた後に敵のゴールキックを待つ時間と、ちょうど同じくらい。それを、ただ水を飲むだけの時間にするのではもったいない。実際、「水を飲む」こと自体は、15秒もあれば十分なんです。そこで、水分補給の60秒に、ミーティングも兼ねることにしました。水を飲みながらミーティングし、「60秒前のチーム状況」と「60秒後のチーム状況」を変える、向上させる、という訓練にあてました。

「60分しかない」から「60分もある」へ

星野 結果、何が起きたかというと、「もうこれ以上やるんだったら、ラグビーは辞めたい」と思うほど、練習をやり切れるようになりました。「もしも、毎日ラグビーの練習があるのなら学校に行きたくない」と思うくらい、密度の濃い時間にすることができたのです。言い換えるなら、練習時間が「60分しかない」から「60分もある」へと変わりました。

練習と練習の間をどう過ごすか

星野 それだけ充実した練習をすることで、生徒たちは練習以外の時間を好きに使うようになっていきました。ウェイトトレーニングをする子もいれば、理科の先生に授業の質問をしに行く子もいる。日々の活動に余裕が生まれるので、「次の練習も頑張ろう」となるわけです。

ただ、コーチとしては、グラウンドにいる時間は短いけれど、実際にはとてもいそがしい日々でした。静岡聖光学院のラグビー部は、練習と練習の間がおそらく日本一長い。ですから、その時間に、映像や文章で動機づけをしていました。

仮説に基づく「WHY」で明確なコーチングプランをもつ

星野さんは監督就任後、わずか3年で選手たちと花園出場を実現されました。ただ、高校の部活では、企業チームのようにずっと同じ選手がいるわけではありません。毎年、チームメンバーも入れ替わっていく中で、どのようなチームづくりを考えていらっしゃったのでしょうか。

星野 私の場合は、チームを3年単位で考えます。1年単位で考えると、その1年をどうしよう、何をしようというところで止まってしまいますが、本来、その年のプランを考えるときには、2年後のプラン、3年後のプランも併せて考える必要があると思うのです。もちろん、組織として大切にしなければならないのは今年のプラン、今年の結果であることは間違いありません。

ただ、1年単位で考えてしまうと、最終的に時間が足りなくなるという問題が起こる可能性があります。3年生になったときに「1年生の時に、もっとああいう練習をやっておけばよかった」といった事態が起こり得る。それを避けるためにも、3年後まで考えて、プランを立てるのです。また、練習プログラムも3年後のチームを見据えて考えます。レギュラー選手の練習ばかり見ていると、2軍、3軍の練習は中途半端になりがちです。それでは、その年の中心選手が卒業した後、新しいレギュラーに一から教え直すというサイクルになってしまいます。それではあまりにも時間がもったいないと思うのです。

また、私は、全員がストーリーをもつということが大切だと思っています。会社であれば、部署があり、管理職がいて、中間管理職がいて、熟練したメンバーがいて、新人もいて、その中で個々がいかにストーリーをもてるか、どのように「チーム」として成長していくのかが重要です。ラグビーのチームも同じです。学年も違って、ポジションも違うメンバーが、一人ひとりどのようなストーリーをもつか。そのような視点で考えると、自然と、1年ではなくて、3年間といった長いスパンでものごとを考えるようになります。

チーム、そして、選手一人ひとりの3年間をどのようにデザインするのでしょうか?

星野 まずは、仮説を立てまくります。結局、この1年でチームをどう強くしていくかを考えるときにも、すべてが仮説に基づくわけですよね。「ここが不足している」、「そのためにはどうしようか」という仮説をたくさんもつ。これは、「アンテナを立てる」ということと同義だと思います。

「今年入ってきた1年生はこんな感じだ」、「こういう子たちが、こうなったらどうかな」、「ここで強化したらどうなるかな」、「ここで行き詰まるかな」、そんな仮説をまずはたくさん立てます。

「Why」に基づくアクションプランを示す

星野 そうした仮説をもった上で、「こんな状態を目指して、今はこのような状態だから、これをやる」という「Why」が明確なアクションプランを立て、示すことが重要だと思います。

他の指導者と違い、私には練習時間以外の23時間、考える時間があります。そこを常に最大限活用するようにしています。

自分たちだけで完結しない

星野 また、そうした時間を活用して、ラグビー界の知識や情報を仕入れると同時に、自分たちだけでは解決できないことについては、どんどん外部に依頼もします。たとえば、陸上のコーチだったり、メンタルトレーニングだったりは外部の方にお願いしています。すべてを自分たちだけで完結させようとせず、自分ができないことはできる人にお願いする。そのようにして、仮説を実現するために必要なことをやっていくということが、重要だと思っています。

続く。第2回は7月24日(月)更新です。

編集: Hello, Coaching! 編集部


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