プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


ストーリー戦略で弱小校をラグビー全国大会に導く
2017年度ラグビーU18日本代表ヘッドコーチ 星野明宏 氏

第3章 スポーツを通してPDCAを回す思考力を身に付ける

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第3章 スポーツを通してPDCAを回す思考力を身に付ける
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「週3回、1回1時間半」という練習で、弱小チームだった静岡聖光学院ラグビー部を監督就任後わずか3年で花園出場に導き、高校ラグビー界の常識を覆した星野明宏氏。現在は、ラグビーU18 日本代表チームのヘッドコーチも務められています。

大手広告会社から大学院を経て教師に転身したというユニークな経歴の持ち主でもある星野氏に、強いチームづくりの哲学について、お話をうかがいました。

第1章 意識改革『60分しかない練習』から『60分もある練習』へ
第2章 選手が夢を描ける言葉をつくる
第3章 スポーツを通してPDCAを回す思考力を身に付ける
第4章 大手広告代理店を辞めてまで得たかったもの

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第3章 スポーツを通してPDCAを回す思考力を身に付ける

部活動を通して得られる経験と力

日本における部活動の現状について、星野監督はどのように考えていらっしゃいますか。

星野 今、教育の世界では、いかに効果的にアクティブラーニングを導入するかが1つのテーマとなっています。前提として、いままでは学校現場にはアクティブラーニングの機会が少なかったと考えられているわけですが、実は、学校における部活動というのはアクティブラーニングが自然と行われてきた場所だったのではないかと思います。

たとえば、選手が行うミーティングも、話し方やミーティングの進め方をトレーニングしていなければ、選手が各々言いたいことを言うだけで終わってしまいますが、学習の機会として活かすことも可能です。よかったところや改善するところをそれぞれ一つずつ洗い出して検証するPDCA(Plan-Do-Check-Act)を回す習慣を身につけることができれば、部活動は、まさにアクティブラーニングの機会となるわけです。

学校の先生が、部活動ばかりに夢中になってしまうことがありますが、それには2つのケースがあると思います。ひとつは、自己実現に傾倒してしまうケース。指導者自身が全国大会に行きたい、とか、生徒と意志の乖離がある中でもなんとか勝たせたい、と思いすぎてしまうケースです。このケースは勝利至上主義につながるので危険ですが、もうひとつ、単純に部活の教育的価値があまりに高いのでのめり込んでいくというケースがあります。部活動には、絶好の学びの機会がたくさんあるということ、それが魅力なんだと思います。

なるほど。

星野 事実として、経済界には、「スポーツから学べること」を理解している方が多くいらっしゃいます。「体育会系の部活動出身者は根性があるから営業に」といった単純な発想ではなく、スポーツを通してしっかり物事を考えられる人間が育っていると考えていただいていると思います。たとえばキャプテン経験者などは、チームマネジメントの難しさを知っていたりする。部活動を通じてスポーツをしてきた人間は、社会に出ても役立つ重要な考え方を身につけていることが多いのです。

「自分で考える」という教育的側面でスポーツは先進的

スポーツ指導者には、技術の指導と教育的指導という両方の観点が必要ということでしょうか。そのあたりはどのようにお考えですか。

星野 勝利至上主義の指導については、考えるべき問題点がいろいろとあると思いますが、教育的観点から見ると、スポーツの現場では「自分で考えさせる」という点において先進的な取り組みが進んでいると思います。

たとえば、最近、「反転授業」という教育手法が注目されています。自宅等で事前に映像を見せて予習をさせ、教室では講義は行わずに、教師が個々の生徒に合わせた指導をしたり、生徒同士が協働して課題に取り組むといった進め方をする手法です。実は、スポーツの世界では、以前から、その手法が取り入れられています。試合が終わったらコーチがビデオをすぐに編集して、選手たちにLINEで動画を送り、次の試合や練習までに動画を見ておくように伝える。試合や練習ごとに振返りをして、「課題はこれだよ」、「次の試合までにここを改善しよう」、「次の試合ではこういったプレーを目指そう」ということを共有し、次に向けて練習するというプロセスが、もはや当たり前になってきたように感じます。

もちろん、練習の最初に全員で集まり、まずはコーチがホワイトボードを使って説明するというように、冒頭の30分間を講義に使っているところもまだあるでしょう。練習においても、チームの課題と直結していない練習内容をやって終わってしまうということも、まだまだあると思います。

しかし、今までとは違う、新しい流れがスポーツ界で進んでいるのは事実です。まずは、社会におけるスポーツに対する誤解を解かなければならないと思っています。

どんな誤解があると考えていらっしゃるのでしょうか。

星野 運動部の活動というのは本来、とても学ぶ機会が多い活動です。しかし、そのことは、理解されていない現実があります。「スポーツばかりやって、、、」という言葉をよく耳にしますが、そう言われる背景には、事実として、スポーツばかりやらせている指導者がいるからだと思います。

指導者が、上手くなるためには時間と量が必要だと思い込んでいたら、生徒にはとにかく長時間、たくさんの練習をさせようと考えるでしょう。加えて、全部やる必要があると考えている指導者もいます。野球の練習で言えば、ノック、キャッチから、ベースランニングなど、挙げはじめたらキリがありません。ラグビーだって、試合で起きることを練習で全部試そうとしたら、8時間はかかってしまう。「スポーツばっかりやって」と言われるのは、本当に言葉通り、スポーツばかりやってるからなんです。しかし、それではダメだと思うのです。

私は、教育効果を高めるために、しっかりと意図をもって練習を構築すれば、結果も選手の成長もついて来ると確信しています。だからこそ、静岡でその取り組みを広げていきたいと思っています。

そういう点で、静岡聖光の環境は、ある意味、絶好の機会でした。限られた短い練習時間で、実際に結果を出すことができれば、その影響は大きい。さらには、ラグビーに留まらず、どの部活動でも応用が可能はなずです。しかも練習時間が短くなれば、ラグビーで花園に出場するだけでなく、芸術分野や科学分野でも積極的に活動し、なおかつ第一志望校にも現役合格する。実際にこんなことが実現できる環境だからこそ、生徒も親も喜ぶ「win-winの関係性」を築くことができます。まさに理想のビッグチャレンジでした。

続く。第3章は8月1日(火)更新です。

編集: Hello, Coaching! 編集部

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