さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。
2017年度ラグビーU18日本代表ヘッドコーチ 星野明宏 氏
第4章 大手広告代理店を辞めてまで得たかったもの
2017年08月01日
※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
「週3回、1回1時間半」という練習で、弱小チームだった静岡聖光学院ラグビー部を監督就任後わずか3年で花園出場に導き、高校ラグビー界の常識を覆した星野明宏氏。現在は、ラグビーU18 日本代表チームのヘッドコーチも務められています。
大手広告会社から大学院を経て教師に転身したというユニークな経歴の持ち主でもある星野氏に、強いチームづくりの哲学について、お話をうかがいました。
第1章 | 意識改革『60分しかない練習』から『60分もある練習』へ |
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第2章 | 選手が夢を描ける言葉をつくる |
第3章 | スポーツを通してPDCAを回す思考力を身に付ける |
第4章 | 大手広告代理店を辞めてまで得たかったもの |
※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。
第4章 大手広告代理店を辞めてまで得たかったもの
教育への想い
星野さんが、大手広告代理店を辞めて、コーチ、そして教員という道を選ばれた理由を教えてください。
星野 大学時代から、自分の人生の軸を「スポーツ」と「教育」というの2つの軸で考えていました。就職先を考えるときは、スポーツに携わるか、教育に携わるかを考え、最終的には、まずスポーツビジネスの世界に入り、そこから教育にいこうと考えたのです。
初めから、いずれは教育の世界へと考えていらしたのですね。「スポーツ」と「教育」という2つの軸は、どのような経緯から生まれたものなのでしょうか。
星野 教育に対しての気もちは、高1の時に母を亡くした経験が大きく影響していると思います。
母は面白い人で、とにかく巻き込み上手な人でした。町内の婦人会で「旅行に行こう!」と勝手に周りを巻き込んで、旅行に行きました。そのときの写真を見ると、いつもはとても真面目な人まで、顔にペイントをして楽しんでいる様子が写っている。周囲の人と一緒に笑って一緒に泣ける、母はそんな女性でした。
その母が、私が高校1年生の夏に、くも膜下出血で亡くなりました。そして、想像もしていなかったのですが、母の葬儀にはなんと全国から300人くらいの人が集まってくれたのです。しかも、みんながみんな、母の死を悼んで本気で泣いてくれている。母が周囲の人たちに与えた影響を肌で感じ、改めてすごい人だったのだと思いました。
それが原体験です。なんのために生きるかを考えたときに、こんなふうに死んでいけるのはすごいと思ったのです。「死」という場面で、母の生きてきた軌跡を感じたわけですね。自分も、母のように多くの人に関わり、その人たちの人生に影響を与えていきたいなと思ったのです。
スポーツへの想い
星野 一方、スポーツに携わりたいと考えたのは、自分がやってきたからということとは関係ありません。それよりは、親戚にボクシングの世界チャンピオンがいたり、身近にマイナースポーツで頑張っている人がいたりしたことが影響しています。
広告代理店に入ったときには、貧乏ジムの世界タイトルマッチを企画し、意欲はあっても成果を出せていない、業界のそんな若手を集めて、テレビと交渉して観客を呼び、ムーブメント起こすことにも挑戦しました。そのときは、みんなでものすごく頑張ることができて、その年の社長賞も取りました。
そういう意味では、スタンスは一貫しているかもしれませんね。成果を出せずに自信がない人に「君は頑張れるんだよ」と、背中を押す。そこに喜びを感じます。教育に携わることになったときも、スポーツ強豪校や高偏差値のエリート校は選択肢にありませんでした。
現在は、高校生世代の日本代表チームの指導に携わっていますが、ひょっとしたら、彼らの指導が一番苦手かもしれません(笑)。彼らは、ラグビーのエリートですからね。とはいえ、彼らと向き合うときも、「君たちはエリートと言われているかもしれないが、本当の意味でのエリートではまだない!」と発破をかけ、向上心を刺激する(GROWTH MIND SET)、そんな指導を行います。
そもそもの想いに気づく
星野 改めて自分の生い立ちに戻ると、スポーツにおいては、環境に恵まれていなかったり自信を持てていない選手やチームを頑張らせたい、そして、それは最終的に「教育」に行き着くという想いがありました。
広告代理店でも、やりたいことができていたし、楽しかったのですが、会社で部下の教育に携わることになったとき、「そもそも私は、教育がやりたかったんだ!」と思い出し、その気もちが燃え上がってしまったのです。
最後に、星野さんの人生観について教えてください。
星野 人生で岐路に立ったとき、私がまず考えるのは、「そもそも」という言葉です。
「そもそも、なぜ、今これをやるんだろう」と。
たとえば、会社を辞めるか、否か。そもそもお金が欲しいのなら、そのまま広告代理店に勤め続けるか、起業するという選択肢もあったわけです。でも、「そもそも」を考えたときに、お金ではなく、想いにしたがって生きていこうと決めました。
大学院後の就職活動も同じです。いくつかの名門高校やトップリーグチームからも連絡をもらいました。そんな中で、一番条件がよくなかったのが静岡聖光でした。しかも、教員の枠が空いてないので、寮の舎監として来てくれないか、という話だったのです。さらには、部員の人数が明らかに足りておらず、単独チームは無理なので、同じく部員不足の他校との合同チームになることも決まっていると。
当然のことながら、やはり迷いました。そのとき、「そもそもなぜ教員になるのか?」を考えたのです。もちろん、日本一になれたらなりたい。けれど、そうではなくて、ちょっとくすぶっている人たち、今は力がない、自信がないという子たちを引っ張っていく、それこそが自分のやりたいことなのではないかと思いました。要するに、プロデューサー気質なんだと思います(笑)。では、「そもそも、弱くて、自信のない子たちがいるのはどこにいるのか」と考えたら、静岡聖光の他に選択肢はありませんでした。
「そもそも」を問い、原点に立ち返りながら決断をしてきて、今があります。ですから、「そもそも」という言葉を大切にしています。
興味深いお話をありがとうございました。静岡県でラグビーが文化として定着し、さらには全国に広がっていくことを楽しみにしています。
編集: Hello, Coaching! 編集部
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