プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野においてプロフェッショナルとして活躍する方たちに Hello, Coaching! 編集部がインタビューしました。


男子カーリング日本代表チームは、どのようにしてオリンピック出場を実現したのか
男子カーリングチーム 軽井沢SCクラブ 山口剛史選手、両角公佑選手

第2章 オリンピック出場に向けた意識改革

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

第2章 オリンピック出場に向けた意識改革
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2018年2月に韓国の平昌(ピョンチャン)で開かれる第23回冬季オリンピック。その平昌(ピョンチャン)オリンピックに三度目の挑戦でオリンピックへの切符を手にした男子カーリング日本代表チーム。過去2回のオリンピックは、惜しいところで出場を逃しています。Hello, Coaching! 編集部では、今回、オリンピック出場の切符を手にした背景についてお話をうかがいました。

第1章 目標を共有して10年間
[コラム① カーリングについてもっと知ろう]
第2章 オリンピック出場に向けた意識改革
[コラム②「氷を読む」ってどういうこと?]
第3章 チーム力で手にしたオリンピックへの切符
第4章 さらなる高みへ

※内容および所属・役職等は取材当時のものを掲載しています。

劇的に増えたチームのコミュニケーション

普段の練習はコーチとの1対1が中心とのことですが、チームとしてのコミュニケーションはどんなときにとっているのですか。

両角 一昨年からは、週に2回、必ず4人集まってチーム練習をしています。ただ、それまでは、選手同士のコミュニケーションは、ほぼ試合のときだけでした。

チーム結成から8年間くらいは、試合の時しかコミュニケーションをとっていなかったということでしょうか。

両角 チームのミーティングがなかったわけではありませんが、回数は非常に少なかったですね。

チームのコミュニケーションがほとんどなくても、チームとして成立するということでしょうか。

両角 いまから思えば「なんとか」という感じですが、チームとして成立はしていました。練習も、各自がそれぞれやって、試合で合わせていけるようにしようというやり方でした。試合前のウォームアップも、みんなバラバラです。ウォームアップについては、いまでもバラバラですし、試合前に集まって戦術を確認するといったことはやっていません。とはいえ、現在は、前より話すようになっています。試合前の練習で、自分たちがストーンを投げた感覚を伝え合ったり、相手チームの練習を見ながら、「今日は滑ってるね」「滑ってないね」といったように、氷の状態について話します。

山口 試合中のコミュニケーションは以前もありましたが、現在は、試合中のコミュニケーション量が5倍くらいになっていると思います。とにかく、同じゴールを共有している。同じ目標をもっている。それだけで充分、チームとしては成り立っていました。

チームでの練習やコミュニケーション量は、結果に影響しないのでしょうか。

山口 先ほどもお話ししたように、試合で勝つためには、まず、個の能力が重要だというのが、チームの基本的な考え方です。僕たちは、この10年間、作戦としては常に攻撃的な戦術をとってきています。難しいショットばかり投げるので、決まれば高い点数という大きなリターンがあるのですが、失敗すれば、たくさん点数を取られてしまう。個人のスキルが高くないと、結果が出ない。海外のトップチームの選手の能力を100とすると、自分たちは65点ぐらいでした。とにかく世界で戦うための個の能力が不足しているという状態だったので、まずは個人を強化しようと取り組んできました。なので、チームとしてどうするかということには目が向いていませんでした。

オリンピックに向けて年間計画を立てる

先ほど一昨年からチームミーティングをしているというお話がありましたが、どういう変化があったのか教えてください。

山口 いまでも基本的な考え方は変わりません。とはいえ、だんだん、それだけでいいのだろうかと考えるようになりました。というのも、個の力はついてきているのに、それなりの結果しか出ない。このチームは、2010年のバンクーバーオリンピックも、2014年のソチオリンピックも、チャンスがあったのに勝てなかった。そういう経験を経る中で、次の平昌(ピョンチャン)オリンピックに向けて、これまでと違う取り組みをしていく必要があるのではないかと考えるようになりました。振り返ってみれば、チームミーティングもほとんどやっていないし、振り返りもあまりしていない。それまでは、結果が伴わなければ、個人の能力が低いからだという結論しか出てこなかったのです。ただ、ソチの後、次のオリンピックには絶対に出場しようと決めて、チームに意識改革が起こりました。そこからは、チームとしての活動に計画的に取り組むようになりました。

具体的には、どのようなことが変わっていったのでしょうか。

山口 まず、シーズン初めにチームミーティングをもち、年間の計画を立てました。実は、チーム結成からそのときまで、シーズン初めのミーティングをもったことはなかったんです。

両角 そのミーティングでは、初めてチーム力を分析しました。

山口 そこではトップチームとの自分たちのレベルの差を分析しました。「自分たちの強みは何か」、「勝つためにはさらに何が必要なのか」ということを話し、足りない部分を補うためにしなければならないことを洗い出しました。そういう中から、「経験が足りないのであれば、海外で試合をしたいね」、「海外に行くにはお金がないから、お金集めもしなければいけないよね」といった話になったりしました。また、国内でできることとして、もっと練習試合をしようと決めました。そういう話の中で「チーム内のコミュニケーションが足りないよね」という話が出て、「じゃあ、週2回チームで集まって練習しよう」ということが決まりました。

それまでは、年間プランみたいなものもなかったということですね。

山口・両角 ありませんでした。

山口 コーチはイメージをもっていたと思いますが、選手一人ひとりが、何を考えているかを口に出して話すというコミュニケーションはとっていなかったのです。

両角 選手4人がそれぞれ、「僕はこうしたい」、「僕はこうしたい」「こうしたい」「こうしたい」とバラバラなことを考えていたという感じです。

コーチはそれをどうやってまとめていたのですか。

山口 最終的には、まとめられないんです。

両角 4人それぞれが、違う意見をもっているので。

山口 一人ひとりが思っていることは違っても、たとえば「日本でまずチャンピオンにならないといけない」とか、「日本チャンピオンになって世界選手権で上位にならないとオリンピックに行けない。世界選手権に行くためには、その前のパシフィックアジア選手権で勝たなければいけない」といった大きい目標は共有していたので、それほど大きな問題はなかったんです。でも、そこに向かうために何をしなければならないかということが、それまでは結構曖昧でした。平昌(ピョンチャン)に向けては、それを見える化したということが大きな違いです。

平昌(ピョンチャン)オリンピックへの出場が決まりましたが、そのときの意識改革が、結果につながっているという実感がありますか。

両角 むちゃくちゃあります。

山口 いま思えば、ソチまでの期間というのは、雰囲気や勢いで勝っていたのだと思います。でも、この4年は「これとこれを達成すれば、平昌(ピョンチャン)に行ける」というステップを作ってから一歩ずつ登っていったので、出場という結果は「当然でしょう」という感じでしょうか。

現在のチームの課題としては、どんなことが挙げられますか。

山口 技術的な話でいうと、いまの自分たちに一番足りないのは「氷を読む力」です。氷を読むためには、チームの中での役割分担が必要です。そういった役割についても、練習中からかなり話して、いま作り上げている最中です。

両角 実際に、読みの精度はかなり上がってきています。

(次章に続く)

聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部

[ コラム②:氷を読むってどういうこと?]

今回、インタビューをする中で、山口選手、両角選手の話によく出てきたのが、「氷を読む」というセリフ。実際に、氷を読むというのは、どういうことなのかをまとめてみました。

カーリングのストーンは、重さ約20㎏、直径約30㎝。花崗岩系の岩石でできていて、上部には、持って回転をかけて投げるための、プラスチック製のハンドルがついています。ストーンの裏側は、中心部が少しくぼんでおり、この部分をカップといいます。ストーンが実際に氷に接するのは、このカップのまわりのリング状の部分のみです。ランニングエッジとか、リングと呼ばれます。

カーリングのシートの氷面上には、ぺブルと呼ばれる氷の粒があり、ぼこぼことしています。このぺブルは、ジョウロのような器具で水(ぬるま湯)をまいて作ります。ストーンが前に滑っていくのは、エッジの部分が、摩擦によってぺブルの表面を溶かすからです。スイープをするのは、さらにその部分の氷を溶かすことで、ストーンの滑りをよくするためです。

カーリングの試合は、だいたい1試合2時間半かかります。後半はぺブルが溶けて、氷の表面が滑らかになっていきます。ぺブルがなくなり、ストーンのエッジと氷の接触面積が多くなると、ストーンの滑りが悪くなります。

また、試合中にストーンがあまり通らない場所は、氷の上に霜がつき、白くなります。霜がついている場所もぺブルがないところと同様、ストーンが滑りづらくなります。

ストーンを投げる際には、ハンドルを使って回転をかけます。左回転をかけると左に、右回転をかけると右に曲がります。滑り出しでスピードがあるうちは、ストーンは直進しますが、スピードが落ちると曲がり始めます。得点を狙って、ストーンを最終的にどこに置きたいかを考え、投げるスピードや回転の方向、シートのどこに向かって投げるかを考えます。

そのときに大きな意味をもつのが「氷の読み」です。ぺブルや霜の状態を確認し、どこに投げると、どう滑るか、どう曲がるかなどを判断し、戦略を組み立てます。思い通りに投げるためには、氷だけではなく、各ストーンのクセも把握している必要があります。カーリングでは、技術もさることながら、この「氷の読み」が勝敗を分ける大きな要因となります。

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