プロフェッショナルに聞く

さまざまな分野でプロフェッショナルとして活躍する方たちに、なぜその道を目指し、将来は何を実現したいと思っているのかについて語っていただきます。


「ダボス会議」を通して考える日本の未来
東洋大学教授 慶應義塾大学名誉教授 竹中平蔵 氏

第2回 ダボス会議は「決定する会議」ではない

第2回 ダボス会議は「決定する会議」ではない

毎年1月になると新聞やテレビ、ウェブメディアなどで目にすることが多くなるダボス会議(世界経済フォーラム年次大会)。しかし、実際にどのような影響力をもつ会議なのか、実態がよく見えないと感じている方も多いのではないでしょうか。今回は2007年から10年にわたり、世界経済フォーラムの理事を務めている竹中平蔵氏にダボス会議の目的や、どのように運営されているか、また、どういったかたちで世界に影響を与えているかについてお話を伺いました。

第1回 「国のIRの場」としてのダボス会議
第2回 ダボス会議は「決定する会議」ではない
第3回 変化し続けるダボス会議 
第4回 フォー・ザ・パブリックという想いから生まれる行動力

第2回 ダボス会議は「決定する会議」ではない

竹中さんは、「ダボス会議は決定する会議ではない」とおっしゃいます。「決定しない会議」では、何がどのように話し合われ、世界に対してどのような影響力を及ぼしているのでしょうか。

ダボス会議は決めない会議

サミットやG7、G8などの場合、新聞やテレビ等を通じて、何が話し合われて、どういう議論があったのかを知ることができます。一方、ダボス会議については、メディアで目にする機会があるものの、世界に対してどのような影響力を発揮しているかがわかりづらいと感じます。

竹中 それは、当然のご質問かもしれません。会議には「決定する会議」と「啓発する会議」があると思います。たとえば、G7は「決定する会議」。「課題についての理解を深めて、必要なことを決定する機関」です。一方、ダボス会議は「啓発する会議」です。その場で何かを決めるわけではないですし、何か決まったとしても、決まったことに何らかの権威づけがあるわけもありません。その場で、課題についての理解、あるいは相互についての理解を深め合い、リーダーはそれぞれ国に持ち帰ります。持ち帰ったら、政府から参加した人は政府の中で行動し、ビジネスリーダーはビジネスにおいて行動します。

大事なのは、ダボス会議における「決定」について行動するわけではなく、話し合いを通じて手にしたことを、どのように自らの持ち場に適用できるかを考えて行動するということです。ですから、その行動は一律ではありません。いろいろな解釈があって、それが、その場に合ったかたちで展開される。したがって、ダボス会議の影響力というのは、結果としてじわ~っと沁みていくようなイメージです。そのため、一般的に理解しづらいのだと思います。でも実は、すごく大きな影響力をもっているといえるでしょう。

ダボス会議から世界が動き始める

国の政策、施策の中のベースになるようなものが議論されているということでしょうか。

竹中 ダボス会議は、巨大なカタリスト(Catalyst 触媒)と言えます、ダボス会議で議論され、世界が動き始める。「第4次産業革命」をフィーチャーしたのもダボス会議です。ダボス会議で「第4次産業革命」について議論され、それを持ち帰った国や企業が、いろいろと行動を起こしている。

そういう意味で、ダボス会議のミッションステートメントはとても明確です。"Committed to improving the state of the world"。「世界をよくするために話し合いましょう」ということです。

人と人が話すことが大事

人と人との関わりや、相互に理解を深めることが重要なので、パワーポイントのスライドは使いません。参加している人たちは、もともと日常的に数百枚のパワポなどで報告を受けるような立場の人たちです。その彼らが、人間同士が話すということを大事にしています。会場も小さく、2500人が入るときゅうきゅうで、座るところを探すのも苦労するような場所です。「いま、コーヒーを持って上がってきた人は、サウジアラビアのエネルギー担当大臣だよ」とか「あそこに座っている品のいい人は、ベルギーの皇太子だよ」といった感じの雰囲気です。参加者がみんな、平等な立場として、一人で参加しているのです。

秘書や補佐官なども会場に入れないのでしょうか。

竹中 国家元首クラスであれば、随行員が若干名認められますが、世界的な活躍をしているビジネスマンたちは、一人で参加しています。そこが面白いところなんですよ。それこそ移動だって、世界のトップクラスの人たちが、みんなマイクロバスに乗って移動するわけです。

ダボス会議は、一対一の「人」としてつきあう場になっているということなんですね。

「ダボスの裏庭」で行われたイスラエルとパレスチナ会合

竹中 ダボス会議にはもう一つ、とても面白い特徴があると思います。ファウンダーのクラウス・シュワブという人は、もともとジュネーブ大学の経済学部の教授です。彼が40数年をかけて一代で、世界の有力者たちが集まり、重要視する場をつくりあげました。こういうものは、"winner takes all" の世界です。ダボス会議の成功を見て、他の国が「我が国でもこういう会議をやりたい」と考えて企画する例がありますが、成功した試しがありません。結局、ダボス会議にいい人たちが集まるので、他の人もみんなそこに集まってしまう。

また、ダボス会議では「会議」に注目が集まりますが、─― 実際、200くらいのセッションがあります ―― もっと重要なのは、その裏で行われている非公式会議です。1対1の秘密の会議。私は「ダボスの裏庭」と呼んでいます。ダボスの表は華やかです。しかしその裏には、たくさんの数の二国間会議が行われます。ここには報道関係者が入ることができません。ですから、ダボス会議のメディアカバレッジがいくら大きくても、報道されることはありません。過去には、イスラエルとパレスチナの人たちが秘密に会った二国間の会合の例などもあります。

批判に耳を傾け、変化し続ける柔軟性

非公式な会議の場として使われている側面があるということなのですね。メディア関係も含め、入場者が厳密に管理されてるからこそ実現できることなのでしょうね。

竹中 その通りです。会場への入場はとても厳しく管理されています。バッジという入場証があるのですが、バッジには何種類かあり、「ここまで入れる」「このセッションには参加できるが、このセッションには参加できない」といったことまで厳密に管理されています。

別の言い方をすれば、ダボス会議はものすごくエクスクルーシブ(exclusive)な場と言えます。「排他的」といえばネガティブな意味合いですが、「限られた特別な人だけが参加できる」という意味でもあります。それゆえに、一時期、「金持ちクラブ」だと批判され、グローバリゼーションに反対する人たちがデモをすることもありました。たしかに、そういう側面もあると思います。しかし、「ダボス会議」は、いろいろな批判を受けながら、大きく変化してきています。

たとえば、「金持ちクラブ」という批判が出るようになり、NPOを取り込んでいきました。エクスクルーシブではない、インクルーシブだということを行動で示した。また、大企業の社長だけではなく、若い起業家も取り込んでいこう、将来、世界をリードしていく可能性のある人たちも参加できるようにしようと、30-40名を対象とした「ヤング・グローバル・リーダーズ」という枠をつくりました。タイの前首相はヤング・グローバル・リーダーから出た人ですし、小泉進次郎議員もヤング・グローバル・リーダーです。ヤング・グローバル・リーダーの前身として「グローバル・リーダー・オブ・トゥモロー(次世代のグローバル・リーダー)」という枠があったのですが、現都知事の小池百合子さんは、当時の若い政治家としてそのメンバーの一員でした。今は、さらに若い世代を対象に、20代を対象とした「ヤング・グローバル・シェイパーズ」という枠もあります。

次回へ続く


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