リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


組織内のコミュニケーション ~ 環境へのアプローチと人へのアプローチ
株式会社イトーキ 代表取締役社長 平井嘉朗氏 × 株式会社コーチ・エィ 鈴木義幸

第2章 組織力の成長には、コミュニケーションの質が大事

第2章 組織力の成長には、コミュニケーションの質が大事
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株式会社イトーキ代表取締役社長の平井嘉朗氏と株式会社コーチ・エィ代表取締役社長の鈴木義幸が、「組織におけるコミュニケーションの価値」について語ります。オフィス家具国内大手のイトーキでは、『明日の「働く」をデザインする。』というミッション・ステートメントを掲げ、空間づくり・環境づくりの視点から、働き方改革を進める企業を支援しています。コーチ・エィは、コーチングという自発的行動を促すコミュニケーションを通じて、経営者を起点とした企業の組織開発を手がけています。コミュニケーションに対する、環境からのアプローチと人へのアプローチ。それぞれの立場から見えるものを語り合いました。
今回は、イトーキが自らの働き方を実践する場として、そのノウハウを結集し具現化したイトーキ東京本社「ITOKI TOKYO XORK(イトーキ・トウキョウ・ゾーク)」にて対談を実施しました。

第1章 イトーキのミッション/コーチ・エィのミッション
第2章 組織力の成長には、コミュニケーションの質が大事
第3章 コミュニケーションは、出会いを生むことから始まる
第4章 トップの強い意志と、部下に何を問うかで、対話が活性化され組織の成長へとつながる

信頼関係はすべてのコミュニケーションのベース

 イトーキ、コーチ・エィともに、お客様の組織力の向上につながるソリューションを提供している会社です。そもそも組織におけるコミュニケーションでは、何が大切だと考えているか、それぞれの考えをお聞かせいただいてもいいでしょうか。

平井 コミュニケーションにはさまざまな種類がありますが、結構表層的なものも含めて「コミュニケーション」と呼んでいますよね。当社では、オフィスレイアウトの工夫など、空間づくりの中で、組織におけるコミュニケーションをどう活性化できるかを、お客様にご提案させていただいています。この部分は当社の一つのコアの部分でもありますが、さらに踏み込んで、では、そこで行われるコミュニケーションは果たして本当に価値のあるコミュニケーションなのかというと、これは難しい。「伝達」や「共有」といったコミュニケーションは必要なものですし、価値のないコミュニケーションなどないとは思っていますが、真の意味で組織が成長するためのコミュニケーションは何かということを考えると、コミュニケーションの量を増やすだけでなく、それと同時に質を上げていくことが肝心だと思います。そこには、自ら考えた「意思」、そしてそこから生まれる「目的意識」が、大事になってくるのではないでしょうか。言うほど簡単なことではないのですけどね。

鈴木 非常に我々と近い考えをお持ちだと思いました。「コミュニケーション」という言葉は、一般用語としていろいろな意味を包含していますが、いろいろ種類があります。例えば「指示・命令」「要望(リクエスト)」もそうですが、前者は上から下へのコミュニケーションであるのに対し、後者は下から上、さらには横同士でもできる、「あなたにこうしてほしい。こうなってほしい」という個人から個人への思いの伝達です。これが「提案」となると、「こういうのはどうでしょうか?」と相手にYesかNoの選択権があるコミュニケーションです。

今、インフラが整備され社内SNSも盛んになっている会社があったりと、組織での情報伝達のスピードや量は上がってきています。しかし、平井さんがおっしゃったように、あくまでそれは「情報共有」「情報伝達」であって、相手に思いを伝える「リクエスト」や「フィードバック」というコミュニケーションが、SNSによって自動的に増えるかというとそういうわけではありません。コミュニケーションについては、量だけでなく、その質を見ていかないと、組織全体のコミュニケーションは良くならないと思っています。

平井 まったく同感ですね。

 どのような環境や条件が揃うと、組織内のコミュニケーションが活性化するとお考えでしょうか。

平井 先ほどの話ともつながりますが、上司と部下が会話をしているときの「指示・命令」や、「伝達」「共有」などの事務的なコミュニケーションはさておき、そこからさらに踏み込んだコミュニケーションで、例えば、部下の「上司、そうはおっしゃいますが...」とか、上司からの「僕はこう考えるが君はどう思う?」といった類のコミュニケーションとなると、そこに必要となる大事な大前提は、双方の信頼関係だと思っています。信頼関係が成り立っていないと、踏み込んだ話のように見えていて実は非常に表層的なものになってしまいます。自分が信頼できない相手に、自分の真意はなかなか伝えられませんよね。ですから、信頼関係をどう醸成するかが、コミュニケーションのすべてのベースだと思います。

鈴木 本当にそうですね。

社内のコミュニケーションにはトップの意思が影響する

平井 先ほど鈴木さんが社内SNSについてお話しされていましたが、当社も最近、「ONE ITOKI」という社内SNSを開始し、そこにいろいろな投稿が上がっています。「こんな良いことをしてもらいました。〇〇さん、ありがとう」みたいな投稿もあって、それに「いいね」が押されるみたいな感じで。この社内SNSによって、例えば、これまで話したことがなかった人が、自分の投稿に「いいね」を押してくれた、などの気づきを生み、社員同士の心の距離が縮まる。こういう取り組みも、相互の信頼関係を醸成する上で一つの有効な手段なのではないかなと感じています。さらに拡大解釈すると、まだまだ当社の取り組みは不十分だとは思っていますが、いろいろな意味での情報公開をもっと積極的にしていくことも重要です。例えば、経営的な情報を社員に知らせるということは、社員に対する信頼関係だと思いますしね。

鈴木 そうですよね。

平井 このオフィス「ITOKI TOKYO XORK」では、働き方を“10のアクティビティ”に因数分解してさまざまな目的に合わせた設えをご用意しています。

今までのオフィスは、極端に言うと、自分の机か、それ以外かの2軸で考えられていましたが、ここでは、働く内容や相手によって自らの行動を“10のアクティビティ”に当てはめ、そして最大限にパフォーマンスを発揮できる場所を選んで働くという新しい働き方を提案しています。ですから誰も自席を持っていないんですね。そういう働き方によって、社員自らが自律的・自発的に考えるということにつながると思っています。会社と社員とのコミュニケーションという視点に立てば、そこに会話はないかもしれませんが、会社から社員に対する大きなメッセージがあるわけです。社員が働きやすい環境を整え、ポジティブな働き方を支援しているということは、「働く場」を科学していき、突き詰めていくことが、我々自身の事業そのものでもあり、質の高いコミュニケーションを生み出すことにも間違いなくつながると思って進めています。

鈴木 イトーキさんのビジネスがあって、このオフィスや空間があるというのももちろんですが、私は、平井さんご自身がコミュニケーションを創り出したいという思いがあるからこそ、このオフィスが実現したのだと思いました。オフィスにはトップの意志、思いが溢れているんです。
ご存じかもしれませんが、グーグルの共同創業者であるラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏の二人は、昨年12月に退任予定を発表しましたが、少なくとも昨年までは毎週木曜日に午後1時間、全世界のグーグル社員とのQAセッションを必ず毎週実施してきました。彼らのポリシーはtransparency(透明性)で、いかに社員に情報を共有するかを、大事に考えていたんですね。
当社のお客様の中でも、トップのマネジメントの方が、コミュニケーションを良くし、社員からの声をもっと引き出したいということで、どれだけ部下が挑戦したかによって上司の査定が変わるという人事評価にした会社がありました。トップがコミュニケーションを大切にしたいという強い意志を持っていること。実はこれがとても大切で、残念なことに、人事部や経営企画部などが主導しても、トップの方が強くそう思わないと組織全体には波及していきにくいのです。

ITOKI TOKYO XORK見学その2:知識共有のための“サウナ部屋”

平井 当社では、想定される社員の活動を“10のアクティビティ”に分類してオフィスレイアウトを設計しています。これはオランダのワークスタイル変革コンサルティング企業Veldhoen + Companyが創始したActivity-Based Working(ABW)と呼ばれる考え方で、かなり一般的に知られるようになってきていますが、グローバルスタンダードのABWのご提案が国内でできるのは同社と業務提携しているイトーキのみとなっています。一人で集中して行う作業のための部屋などは、人の流れの少ないオフィススペースの両端に設え、内階段の周辺など、人が多く流れるところに知識や情報共有の場を作っています。

鈴木 なるほど。

平井 この部屋は、社員の間で「サウナ部屋」と呼ばれているのですが(笑)、情報共有のためのプレゼンテーションルームです

鈴木 確かに(笑)。椅子の並びがサウナのようですね。

平井 そう。でもこれだけのスペースに20人が収容でき、一体感をもってぐっと集中して一つの話ができるので、想定していた以上に人気のスペースとなっています。

(次章に続く)

インタビュー実施日: 2020年1月29日
聞き手・撮影: Hello Coaching!編集部


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