リーダーの哲学

各界で活躍される経営者やリーダーの方々に、ご自身にとっての「リーダーとしての哲学」お話しいただく記事を掲載しています。


さくらインターネットCEO 田中邦裕氏 × コーチ・エィ対談

第3章 『コーチとメンターの違いは?』

第3章 『コーチとメンターの違いは?』
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『組織の成長ストーリーの裏側 ~さくらインターネット 田中CEOはなぜコーチをつけ続けるのか~』のイベントにご参加いただいた方々から、たくさんのご質問をいただきました。一部のご質問に対する田中CEOやコーチ・エィの栗本の回答を紹介します。

第1章 社長の機嫌がよくなった
第2章 「田中さんの会社」から「さくらインターネット」へ
第3章 コーチとメンターの違いは?

第3章 『コーチとメンターの違いは?』

【 参加者からのご質問 】

  1. Q コーチングを受ける前後で、ご自身の仕事や組織に対する考え方はどう変化しましたか?
  2. Q 人事の方は、なぜ田中さんにコーチングが必要だと考えられたのでしょうか。
  3. Q 経営理念の策定や社内の風土改革等、重要な意思決定においてコーチングが果たした役割はどのようなものでしたか?
  4. Q コーチとメンターの違いはどのようなところにありますか?
  5. Q コーチをつけることに対して、障害はありませんでしたか?
  6. Q いろいろなコーチングサービスがある中で、コーチ・エィのサービスを選び続けている理由を教えてください。
  7. Q 「社長は孤独」と言われますが、コーチをつけることに関係しましたか? 一方で同僚、他の役員や社員はコーチたり得ないのでしょうか?
  8. Q コーチをつけて最も加速したことは何ですか?
  9. Q コーチングは「対起業家」と「対サラリーマン社長」とで対応が変わりますか?
  10. Q 成果を実感して「コーチングを自分たちだけのものに独占したい」と思ったことはありませんか?
  11. Q 自分でやるか他人に任せるかを悩んでいる時、どのような質問をご自身に問いかけていますか?
  12. Q 田中さんは苦難の道のりをどう乗り越えていったのですか。個人的にコーチングは成人発達理論やFFS(Five Factors & Stress)理論などその他の理論と掛け合わせることで効果が倍増すると考えていますが、あわせて使えるスキルについてもお伺いしたいです。
  13. Q 社員の方へ質問です。「田中社長の機嫌がよくなった」と、どういうところから感じられたのでしょうか。また、その理由がプライベートなどではなく、コーチングが要因だと思った理由を教えてください。

Q コーチングを受ける前後で、ご自身の仕事や組織に対する考え方はどう変化しましたか?

田中 自分のやりたいこと、内発的動機を、すごく意識するようになりました。自分がしたいことと、それに向けてハードルになり得ることを理解できると実行力が上がります。

もう一つは、組織に対する考え方が変わり、「一人ではできない」ことを、心底理解したと思います。他人に任せることができない背景には「自分がやった方が早い」という思い以外に、「説明するのが面倒だ」とか「断られたらどうしよう」といった、相手への遠慮や不安がありました。以前、断られたことがあったり、嫌な顔をされたりした経験があると、新たな交渉を億劫に感じます。

しかし、コーチと話していく中で「自分はこれをやりたい。そのためにはこの人とやった方が絶対いいはずだ」と思うようになり、その人との関係性を躊躇なく結べるようになりました。これは本当に大きな変化でした。

僕は、人に頼むことに苦手意識があり、コーチングを始めて1-2年間は「遠慮しない」ことがテーマの一つでした。今も苦手意識は消えてはいませんが、自分が「やりたい」ことを人に頼むことで実現できるなら、「頼む」ことのハードルは下がります。また、実際に依頼してみると、相手は頼られたことを喜んでくれることもあり、そういうときには組織のよさを実感します。

些細なことですが、以前、僕の秘書が「おにぎりを買ってきましょうか」と言ってくれたのに対し「いや、自分でやる」と答えてしまい、あとから「(秘書が)断られて、しょんぼりしていたよ」という声が耳に入ってきたことがありました。そこで前言を改め、頼んでみたところ、めちゃくちゃ喜んで買いに行ってくれたんです。

組織の中で頼りにされ「ありがとう」と言われると、相手は組織や人に対して貢献できたという喜びを感じます。組織の良さは、一人ではできない仕事が増え、他者と協力し合う必要が出てくることで、お互いに成長し、喜び合えることだと思います。

Q 人事の方は、なぜ田中さんにコーチングが必要と考えられたのでしょうか。

田中 僕はどちらかというと控え目で威張ることもなく、社員へのあたりも柔らかいと思うのですが、根本的に人を信頼・信用していないところがあるのだと思います。「自分でやったほうがいい」というのも、その部分に関係するのでしょう。それを社員に見透かされ、当時は離職者がとても多く出ていました。

実際に、当時、人事部にいた人は、全員辞めてしまいました。人事ですら辞めたいと思うような社風だったんです。どんどん社員が辞めていくのに、社長は気づいていない。人事のことも大切だと思っていない。組織は間違いなく頭から腐ります。社長に問題があるから、そのようなことが起こるわけです。

これは後から聞いた話ですが、そんな僕が少しでも組織について考えてくれるようになればいいと、コーチングを勧めたそうです。

当時を振り返ると、僕は社員が辞めることに何の問題も感じていませんでした。2007年に債務超過に陥ったこともあり、いかにコストダウンして経営を立て直すかばかりを考えていました。「社員が辞めるのは悲しいけれど、その分コストが浮くから、経営を立て直す上で問題ではない」とすら考えていたんです。

しかし、コーチングを通じて、中長期の成長を考えるのであれば、組織にいる人や、その人たちの成長、そしてその人たちとの関わりがどれだけ重要かに気づくことができました。

Q 経営理念の策定や社内の風土改革等、重要な意思決定においてコーチングが果たした役割はどのようなものでしたか。

田中 コーチングを導入した第一期は、マイナスからプラスに転じるための経営改革期でした。その時のコーチングでは、本質的に会社が立ち直るために、経営者としていかにリーダーシップを発揮するかに専念していました。

組織に対する私の関わり方を深掘りしていったのは、2015年に始めた第二期です。当時、ボトムアップで『「やりたいこと」を「できる」に変える』という企業スローガンを作り上げて定めましたが、そのプロセスの中でメンバーから出てきたものを経営陣が受け入れるという素地ができました。

経営課題などはいまでもトップダウンで決めていますが、それでも最近は役員間で「ちょっと待って。それは現場に任せないといけないんじゃないか?」という議論が出てくるようになりました。こうした変化はコーチングによって得られたものだと思います。

Q コーチとメンターの違いはどのようなところにありますか?

田中 私自身もメンターとして常時20~30社のスタートアップ企業を見ています。メンターは、アドバイスもコーチもするし、時にはエンジェル出資などの行動も伴いながら何でもします。一方コーチは、言い方は悪いですが、何もしてくれません。基本的に、コーチングにおいては自分が決めて判断するということが貫かれているという違いはあります。

またメンターは、相手に対して優位性がないとできません。若手が自分よりも上の人をメンタリングするリバースメンタリングもありますが、それも若さという優位性の上で成り立っています。よって、メンティーがメンター以上になることはありません。

一方で、コーチは優位かどうかではなく、純粋に問いかけという関わりを通して物事を見つめ、考えを深めていきます。なので、質問力さえしっかりしていれば、相手がどんなに偉大な人であってもコーチングは有効です。

これがメンターとコーチの一番の違いです。この「質問力」が実はすごく難しくて、僕自身もコーチングをしているつもりがいつの間にかメンタリングになってしまっていることがあります。

Q コーチをつけることに対して、障害はありませんでしたか?

田中 最初は嫌でしたし、時間ももったいないと思っていました。役員にコーチをつけた時も、コーチングをすごく嫌った人がいました。

本当に「やりたい」と思うためのセットアップがないと効果が得られないので、コーチングの導入には十分な準備が必要です。

たとえば「働き方改革」も「組織風土改革」も、社長がやりたいと思わなければ実現しません。「働き方改革」のためには、「制度」と「風土」と「ツール」がありますが、ボトムアップで「制度」を改革できても「風土」だけはどうしてもトップダウンでしかできないものです。「風土が変わると会社が本当によくなる」ということを、人事の方なり、導入を推進されている方が社長と真摯に話すことが大事なのではないでしょうか。

「社長が導入してくれない」という声もよく耳にしますが、本当に真摯に伝えたのかには疑問が残ります。僕はすごくしつこく言われましたから。それで仕方なしに「それならやってみようか」となりました。社長に対して必要だと思うその思いを、諦めずに何回でも直接伝えていくのはどうでしょうか。

Q いろいろなコーチングサービスがある中で、コーチ・エィのサービスを選び続けている理由を教えてください。

田中 リアルな話をしますと、会社というより「誰がコーチか」が大事だと思います。自分が本当に心を開いて話せるコーチかどうか、ということです。ただ、組織全体にコーチングを広げたい場合は、コーチングファームの規模感が差別化要因になります。

当社でもコーチングをマネージャー層にまで広げたことがあり、その点で大規模コーチングファームならではの強みがあると思いました。100人を超えるプロのコーチを抱えている会社さんはコーチ・エィ以外にないので、面的に、あるいは全社的にコーチングを広げたいなら、同じ品質で規模を拡大できるコーチ・エィさんはすごくお勧めです。

栗本 最近では、経営者だけがコーチングを受けても組織が変わることはないと多くの方が気づいていらっしゃいます。ですから、どうやって主体的な動きができるリーダーの数を全社的に増やすのか。私たちもチームを組み、お客様の側もチームを組んでコーチをし合う形が増えています。チームでチームをコーチする文脈を作れることもコーチ・エィの強みです。

Q 「社長は孤独」と言われますが、コーチをつけることに関係しましたか。一方で同僚、他の役員や社員はコーチたり得ないのでしょうか。

田中 コーチングは、「相談」というよりむしろ自身のアイデンティティを感じられる時間です。同僚や社員、役員との話の中でもいろいろな気づきはもちろん得られますから、コーチたり得るとは思いますが、利害関係のない相手の方がより自分の心を開きやすいという点で、コーチをつける意義があるように思います。

Q コーチをつけて最も加速したことは何ですか。

田中 本心から自分が思っていることを相手に伝えられるようになったことです。それによって、コミュニケーションのわかりにくさが解消され、意思決定も含め、全体にスピードアップしたと思います。

Q コーチングは「対起業家」と「対サラリーマン社長」とで対応が変わりますか?

栗本 サラリーマン社長とオーナー社長では悩みや接し方の好みに違いがありますが、コーチ・エィには、どちらの場合にも共通して成果を上げることが検証されたプロセスモデルがあります。

私の場合、オーナー社長にコーチングをする上では、悩みを共有できるという点で、自分自身が中規模の会社の経営者ということがアドバンテージになっていますが、大企業の社長に対しては、どうやって組織運営をするのかについてのこれまでの経験やナレッジ、情報がアドバンテージになります。

Q 成果を実感して「コーチングを自分たちだけのものに独占したい」と思ったことはありませんか。

田中 すごく良い質問ですね。以前の僕ならそう思ったかもしれませんが、コーチングを受けているとそういう気持ちがなくなっていきます。たとえば競走する時の「相手がコケてくれたら自分が1位になれるのに」という発想は、コーチングによって「自分が頑張って走ることで1位になろう」と変わります。他者の行為が自分を相対的に損させるという考え方は消え、独占するのではなく「自分がもっと良くなればいい」という考え方になるんです。

田中邦裕 氏 / さくらインターネット株式会社CEO
1978年、大阪府生まれ。 学生時代に高専でNHKロボコンに明け暮れるかたわら、学校で触れたインターネットに感動して、1996年にさくらインターネットを学生起業。当時は珍しかった、インターネットサーバーの事業を開始する。 ネットバブル期にVCから資金調達し、2005年に東証マザーズへ上場、2015年に東証一部上場。 バックグラウンドはエンジニアでありながらも、自らの起業経験などを生かし、スタートアップ企業のメンターや、IPA未踏のPMとして学生エンジニアの指導等にあたる。自らも一ヶ月の休暇を取り、各社の社外取締役やメンターとしてパラレルキャリアを実践したり、大阪と東京のほか昨年末より那覇にも居を構えてリモートワークを実践するなど、新しい働き方を模索中。 2018年度よりIPA未踏プロジェクトマネジャー。 株式会社アイモバイル・株式会社i-Plug・株式会社ABEJAの社外取締役、コンピューターソフトウェア協会(CSAJ)副会長 、日本データセンター協会(JDCC)副理事長など、社長業以外の外部活動にも力を入れている。
写真提供:さくらインターネット株式会社

Q 自分でやるか他人に任せるかを悩んでいる時、どのような質問をご自身に問いかけていますか。

田中 僕は相手のためになるかどうかをすごく考えます。大変な仕事であっても、任せることで相手のためになるか、相手が喜ぶかどうかを考えます。人は喜んだり、意気に感じたりするとパフォーマンスも上がります。

Q 田中さんは苦難の道のりをどう乗り越えていったのですか。個人的にコーチングは成人発達理論やFFS(Five Factors & Stress)理論などその他の理論と掛け合わせることで効果が倍増すると考えていますが、コーチングとあわせて使えるスキルについてもお伺いしたいです。

田中 FFSや成人発達理論、MBTI(Myers-Briggs Type Indicator、マイヤーズ・ブリッグスタイプ指標)、ワークグラムなど、その人の特性や関心事を客観的に知ることは、コーチングをするうえで効果があると思います。自分自身を振り返る際にも、自分はどういう特性にあるかがわかっていると役に立つと思います。

Q 社員の方へ質問です。田中社長の機嫌がよくなったことを、どういうところから感じられたのでしょうか。また、その理由がプライベートではなく、コーチングが要因だと思った理由を教えてください。

矢部 1年半ほど前に、栗本さんから「横田さんと矢部さんと田中さんの三人で、ミッションについての対話をしてください」というご連絡をいただき、それ以来、三人での対話を毎週1回30分続けています。

内容は雑談が多いのですが、田中にとってこの対話の時間が心理的に安心できる居場所になっているように感じます。社内に味方がいて居場所があることは社長に限らず行動を起こす時に勇気を与えてくれるものだと思います。対話中は、田中を社長だと意識しすぎず、フラットな関係でナチュラルに過ごすことを心がけています。

栗本さんの働きかけで対話の場ができたので、栗本さんが田中を通じて組織をよくするために私を動かしてくれたのだと思っています。

田中 コーチングのあとは、話が軽やかにスムーズにいく感覚があり、「こうやりたい」という明確な意思を横田さんや矢部さんや秘書とポジティブに話すようになります。それが機嫌がよいように見えているのかもしれません。

対談日:2020年9月28日
内容および所属・役職等は当時のものを掲載しています。
表紙写真: さくらインターネット株式会社提供


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