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部下を「傍観者」にしてしまったコーチの質問とは?
2020年03月04日
エグゼクティブ・コーチングでは、コーチがエグゼクティブ周辺の関係者にインタビューをすることがよくあります。
周囲の「本音の声」は、エグゼクティブの目標達成にパワフルな支援となることが「多い」からです。
ところが私には、インタビューがパワフルな支援にならないという、手痛い失敗をしたことがあります。
部下に何が起きてしまったのか?
ある企業の事業部トップ、Aさんの部下の方々にインタビューした時のことです。
Aさんの強みや課題、今後にむけた期待などをたくさんお聞きし、レポートにしてご本人にフィードバックしました。ご本人は結果を真摯に受け止め、
- 部下と直接対話の機会を設ける
- 会議では、自分が一方的に話すシーンを極力減らす
- 周囲の人たちの考えを聞く機会を増やす
など、意欲的に取り組んでいきました。
半年後、私はAさんのチャレンジや変化、周囲の影響をお聞きしようとワクワクしながら2回目のインタビューに臨みました。
ところが、その結果は私の予想に反して散々なものだったのです。
部下のみなさんは、Aさんが変えたこと、変わったことを確かに認めていました。しかし、それよりも強く顕著に出てきたのはAさんへの「あくなきリクエスト」だったのです。
それだけではありません。
私が感じたのは、前回とは明らかに異なる、Aさんに対する挑戦的で批判的な「スタンス」でした。
その姿勢は、ややもすると「上から目線」と言えるもので、Aさんへの協力姿勢や応援姿勢を感じられるものではありませんでした。
なぜ、こうした結果になったのか?
私自身のインタビューに工夫できる余地はなかったのか?
私は、頭の中で逡巡し、先輩コーチとレビューしました。その中で気づいたことが2つありました。
私の「質問」に潜んでいたこと
ひとつは、私がインタビューで部下のみなさんにしていた「質問」です。
「上司であるAさんの強み・弱みは?」
「Aさんのマネジメントにおける問題点は」
「Aさんに変わって欲しいことは」
「Aさん」について質問し続けたことで、結果的に部下たちをAさんの「評価者」「観察者」「傍観者」の立場に追いやった可能性はないだろうか、ということでした。
そしてもうひとつ。
私自身が、Aさんと部下のみなさんを「変わる側」と「協力する側」という視点で見ていたことでした。
「上司 = 変わる側」 「部下 = 協力する側」 という構造です。
つまり、私の捉え方や考え方がベースとなったインタビューを行っていたわけです。
私の捉え方や考え方は「私の質問」に如実に表れ、クライアントの成功支援のためだったはずのインタビューは、部下を「観察者」に追いやり、皮肉にも逆の結果をもたらしていたのです。
このインタビューの失敗を経て、私は「上司と部下の間の影響力や関係性は、上司側のみにその責を求めるものではなく、部下も含めて一緒に考えること、そして両者が共に改善を図ることが健全なあり方だ」と考えるようになりました。
もし、インタビューで部下自身の当事者意識を刺激するような働きかけをするとするならば、次のような質問も有効であったかもしれません。
Q あなたが成果を出していく上で、あなたは上司との間にどのような関係性を築いていきたいですか?
Q そのために、あなた自身からは、どんな働きかけができそうでしょうか?
つまり、部下自身をも、主人公にした質問にするのです。
上司も部下も「主人公」になる問いとは?
上司と部下を「変わる側」と「協力する側」と捉えていた私ですが、その考え方を変えるきっかけになった言葉がいくつかあるのでご紹介します。
システムについて考えるとき、思考する人は『観察者』の立場をとり、観点は外にある。一方、システミックに考える場合、思考者はシステムの一部であり、『参加者』としての立場を取る(※1)
あなたが問題の一部でなければ、解決策の一部にはなり得ない(※2)
本物のリーダーは、フォロワーを創らない。彼らはさらに多くのリーダーを創る(※3)
組織開発とは、煎じ詰めると、組織の中に「当事者意識を持ったリーダー」の数を増やすことではないかと考えています。ちょっとした声がけや問いかけが、意図せず周囲を他責にすることも、当事者意識を高めることも起こりえるのです。
いま現在、あなたの組織の何人が当事者意識を持ったリーダーといえそうでしょうか?
あなたの組織が変わるためには、あなたを含めて、あとどの位の人が当事者意識の高いリーダーとなる必要がありますか?
そのために、あなたは具体的に誰に、どういった関わりをしていきますか?
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【参考資料】
※1 Shotter, J. Instead of ‘cool reason’: ‘Systemic thinking’ and ‘thinking about systems’
※2 How to Collaborate When You Don’t Have Consensus, 2018 by Adam Kahane
※3 True leaders create leaders, not followers, 2019, by The Churning
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